29 駆け引き
戦闘開始。
飛行船から出撃寸前にも火弾がもう一発胴体部に直撃した。
その瞬間を狙ってゴンドラの扉を開き外に飛び出る。
扉が開いた瞬間に中を狙われるのを避けたのだ。
船員が素早く扉を閉めた。
さすがに皇族専用飛行船の船員をやっているだけあって動きに澱みがない。
もっとも状況によっては俺に対する暗殺者に早変わりするのだろうが。
飛行船の胴体を確認するが傷一つない。
まだ持ちそうだ。
襲撃者はターゲットを俺に切り替えたらしくこちらに火弾を撃ってくる。
俺は左横に軽く躱し火弾を応射した。
相手も反対方向に旋回して躱した。
互いに円を描くように旋回しながらし火弾の応射を続ける。
俺は飛行船から離れるように且つ人里がない方に徐々に誘導していく。
相手はそれに乗ってくるが回転半径を少しずつ縮めてくる。
接近戦を狙っているのだろうか。
この中距離になって相手の詳細が見えてきた。
長い黒髪を後ろにポニテで纏めた高校生ぐらいの少女だった。
顔はキリッとして端正な顔立ちをしている。
美人というより美形と形容した方がいい感じだ。
腰には刀を差しこちらと同じタイプの飛行ユニットを装着している。
そして首には隷属の首輪が嵌っていた。
はっきり言ってやりにくい。
自分の意志で戦場に立っているのならばまだしも強制させられているのなら殺すのも躊躇われる。
ましてやおそらくは俺と同じ世界の人間だ。
帝国に飼われていたバカとは違う。
対処を変えるべきだろう。
相手の連射速度があれで精一杯なら距離を取って魔法攻撃で圧倒するのが楽だがそれでは相手を殺してしまう。
かと言って距離を詰めさせるのはリスキーだ。
動きの良さと態々特注したであろう刀から近接戦が得意なタイプと判る。
正規に元の世界で剣術を学んだ相手であれば我流の俺には不利過ぎる。
空中戦で歩法が使えないことを差し引いても剣戟にすらならないかもしれない。
帝国に飼われていたあのバカも剣術についてそれなりに真剣に取り組んでいたようで俺より剣の腕は上だったが限定戦を仕掛けたら動揺してあっさり倒せた。
しかしこの相手には通用しないと見るべきだ。
取り敢えず、鎌鼬に切り替え連射速度を上げる。
相手は見えない風の刃をこの中距離でも躱していく。
魔力感知はそれなりのレベルにあるようだが応射が途絶えたところからこの中距離では避けるので限界のようだ。
このままの距離を取り連射速度を上げれば圧倒出来るだろう。
相手の目を見た。
憎しみと怒りに満ちた復讐者の目だ。
隷属の首輪の強制力だけではなく自分の意志もあるようだ。
なら躊躇わず有利な条件で殺すべきだしこれまでそうして来た。
只相手が俺を憎む理由を知りたいと思ってしまった。
だから俺は相手の思惑に乗って敢えて距離を詰めさせた。
手強い。
接敵した時直ぐに分かった。
出撃命令は唐突に来た。
こちらの準備は済んでいた。
私は飛行ユニットを駆って帝国領内に侵入、ターゲットが乗っている飛行船を発見して容赦なく火弾を放った。
事前の情報通り一撃や二撃では沈まないようだ。
二撃目の直後奴が出てきた。
目付きが鋭い若い男だ。
私より二、三歳上だろうか。
隷属の首輪をしていない。
自由意思で自分らを召喚しクラスメートを殺させた相手に従っているのだ。
絶対に殺す。
私は殺意を滾らせた。
旋回しながら火弾を撃ち合う。
相手は飛行船から離れる方向に誘導するつもりのようだ。
こちらは旋回を続けながら徐々に距離を詰める。
中距離になり相手は鎌鼬に切り替え連射速度を上げてきた。
魔力感知で透明の刃を避け続けるがこれで精一杯だ。
このまま魔法攻撃で押し切られるかと思った瞬間相手の魔法攻撃が急に緩んだ。
私は一気に距離を詰めて間合いに収める。
抜刀一閃。
相手の胴を横薙ぎに払う。
が奇妙な手応えで刃が止まった。
相手は皮鎧で刀を受け止め右手で押さえ込んでいた。
一瞬あり得ないことに判断を誤り刀を引こうとしてしまった。
しかし刀はビクともせず私の動きは止まってしまう。
相手が距離を詰めさせ敢えて刀を受けたのなら拘らず手を離して格闘戦に持ち込むべきだった。
皮鎧では私の刀を受け止めることなど出来はしないと思っていた慢心が判断を誤らせた。
相手から無数の魔力の線が放たれ動きの止まった私を絡め取る。
よく見ると極細ワイヤーを魔力で制御しているものだと分かる。
動きが止まっていなければ、刀が使えたならこんな動きの遅いものに掴まりはしなかったろうに。
私は歯噛みした。
動きを完全に封じられた私の首に男の手が伸びた。
隷属の首輪に手が近付く。
「だ、駄目!」
相手が首輪を壊そうとしていると判断して拒絶の言葉を吐く。
しかし相手は構わず手を当て暫く微細な魔力を通してきた。
直ぐに壊すつもりはないようだ。
「外すと爆発するようになっている。壊すな」
言った途端首輪の留め金部分が外れた。
ポロリと隷属の首輪が落ちていく。
そして相手は極細ワイヤーを解き刀を離して少し距離を取る。
「どうして・・・」
あれだけ殺す決意を固めていた心に動揺が生まれた。
私の殺気は判っていたはずだ。
それなのに何故?
「俺を殺そうとする理由を知りたくなったのさ。只それだけだ」
「・・・貴様の所為で私達はこの世界に召喚された。クラスメートを殺された。私は加奈を殺してしまった。だから貴様を許せない」
「そうか・・・」
男は表情を変えない。
「だが隷属の首輪を外してくれたことには感謝する。これでセラス王達を殺すことが出来る」
「セラス王?それが召喚者か」
「ああ、貴様を殺すのは後回しだ。殺し合えばたとえ勝てても無傷では済みそうにない。だがいずれ貴様の命を貰い受ける」
「分かった。俺の名前は春日勇気だ」
「・・・九条紗耶香」
私は名乗り急加速を掛けて春日勇気から遠ざかる。
勇気は追撃して来なかった。
主人公途中退場で新主人公というのも考えたのですが取り敢えず今回は名乗り合いだけで終了。
新主人公に変更する場合は稀種のサムライガール(笑)




