28 悪夢
前振りだけで終わってしまいました。
目覚めたら悪夢の中にいた。
私の名は九条紗耶香。
聖和高校2年の帰宅部。
両親は幼い頃に事故で他界して祖父と二人暮らし。
祖父は古式刀術の使い手で昔は要人警護を刀一本でやっていたという達人だ。
私も幼い頃から朝の鍛錬と夕の稽古でみっちり仕込まれているが祖父の域には一生掛けても辿りつけそうにない。
とはいえ同年代の娘よりは精神修養も出来ていると思っていたのだがそんな私でも動揺させるに十分な状況であった。
意識が途切れる前は午後の授業を受けていた。
いつの間にか気を失い目覚めたらここにいた。
クラスメート全員が周囲に倒れており何人かは目覚めて起き上がりつつあった。
石畳の床と窓のない石壁、天井には丸い白色の濁りガラスが嵌っておりそこからどんよりとした光が辺りを照らしていた。
そして抜剣した西洋鎧姿の騎士達に囲まれていた。
自分やクラスメート達の首には金属製の輪っかのようなものが嵌っている。
「何が起こっているの?紗耶香ちゃん」
学校で数少ない友人である遠月加奈が震えながら寄ってきた。
他のクラスメート達も当惑の声を上げている。
「何が起こっているのか分からない。ただあいつらが抜剣しているところを見るとあまりいい状況ではなさそうだ。加奈」
クラスメート達も抜剣している騎士達に脅威を感じ部屋の中央に固まっていた。
「静まれ!」
嗄れた男の声が響いた。
皆の声がピタリと止んだ。
というより声が出なくなったのだ。
正面の鉄製の大扉の前に立つ重厚な威厳を放つ老人が命令した結果だ。
「私はこの国セラスの王である。諸君らはこの国の窮地を救うため異世界より召喚した勇者である。正確にはこれより行う選定で生き残った一人がそう呼ばれることになる」
その言葉の意味を理解して私は真っ青になった。
王を人質に取って脱出することを考え両脇に控えている護衛の騎士達の実力を図る。
「抵抗は無意味である。諸君らの首には隷属の首輪が装着済みである。それにより諸君らは私の命令に逆らうことは出来ない。尚その首輪は壊されないようにしてくれ。もし壊されれば首輪の正面のクリスタルの中に封じ込めてある魔力が暴走して首ごと吹き飛ぶようにしてある」
ギリッと奥歯を噛む。
万事休すだ。
「ついて来い」
大扉が開きセラス王に従って私達は死の選定場に向かった。
そこは闘技場だった。
学校のグラウンドぐらいの広さだ。
観客はセラス王と騎士達だけだ。
私達は鉄剣を渡され対戦相手とペアを組まされた。
私は加奈と向かい合わされた。
最悪だ。
私はせめてもの抵抗として鉄剣を放そうとするが王から開始の合図があるまで鉄剣を持って待機しろと命じられているので出来ない。
「紗耶香ちゃん、助けて・・・」
加奈は泣きながら懇願する。
既に沈黙の命令は解かれている。
「加奈・・・」
私もどうしようもなく擦れた声を出した。
「これより選定を行う。其々組んだ相手を一対一で倒していきその勝者が他の勝者と戦う。そうして最後に残った者が勇者となる」
セラス王は不機嫌そうな顔をしていた。
まるで意に沿わぬことをしているようだ。
「それでは開始する。各人全力で対戦相手を殺せ!」
その後の事は正直あまり覚えてはいない。
身体からこれまで出たことのない力が出て素早さが上がり加奈の首が転がった。
私は泣き叫んでいたと思う。
周りでも同様に泣き叫ぶ声が聞こえクラスメート達がドンドン減っていく。
対戦相手の顔が次々に浮かび消えていった。
最後に残ったのは私一人。
「ウム、女が残るとは思わなかったが素晴らしい剣技であった。其方が勇者だ。暫く休むがよい」
その声を聞き私は意識を手放した。
次に目を覚ましたのは豪奢なベッドの上だった。
血塗られた制服がネグリジェに着替えさられており身体も綺麗に拭かれていた。
部屋に控えていた侍女が丁寧についてくるように促し自失状態の私は機械的に従った。
豪華な調度品が並ぶ廊下を抜け執務室で政務を片付けているセラス王の元についた。
その顔を見た途端私の頭は怒りで沸騰した。
飛び掛かって縊り殺そうとしたが身体が動かない。
隷属の首輪に基本命令として主人に対する危害の禁止が組み込まれているのだろう。
私は相手を射殺さんばかりに睨みつけた。
「お前の気持ちも分からなくはないのでな。憎みたければ憎めばよい。お前には状況説明と敵について話しておかなければならないので連れてこさせた」
そして王は語った。
この国は超大陸にある小国である事。
現在隣国の大国であるクーイアン帝国が超大陸の覇権を求めて軍事的圧力を強めている事。
帝国側にも勇者が召喚され極秘にされている事。
最後に召喚を命じた者と召喚を実際に行った魔導師は召喚の代償として命を勇者に奪われてきた事を説明された。
「お前達の首輪に細工したのもそれを阻止するためだ。後は魔力制御を覚え魔法を使い熟せるようにし帝国の勇者と同じ装備を完熟してくれ。何か要望はあるか?」
「・・・刀を用意してくれ片刃の剣だ」
「分かった。腕のいい鍛冶師を呼ぶ。欲しい刀を作らせるといい。全ての準備が済めばまずは帝国の勇者を倒しに出撃してもらう事になる」
「分かった」
こうして私は見ず知らずの勇者を殺す事を承諾した。
もちろん隷属の首輪がある以上断ることなど出来はしないが。
帝国に勇者がいなかったら私達は召喚されずに済んだかもしれない。
私が加奈を、他のクラスメート達を殺さないで済んだかもしれない。
だから殺す。
しかしチャンスがあればセラス王と召喚を行った魔導師も殺す。
邪魔する奴も全て殺す。
私は固く心に誓った。
次回こそ戦闘シーンの続きをします。




