小話25 ある魔法鍛冶師の落胆
ひねりはありません。
ヤツが来た。
待ちに待ったヤツが来た。
毎日鏡に映る自分の頭を見て悲哀に暮れる日々ももうすぐ終わる。
明日からヤツは禿げ勇者と呼ばれ俺はふさふさ髪のダンディな魔法鍛冶師として復活するのだ。
「ようダン」
ヤツは油断しきった顔で挨拶してきた。
しかしここで焦ってはいけない。
ヤツは悪意に敏感だそうだ。
そう俺は魔道具の正規の代金を徴収するだけなのだ。
そこには善意も悪意もなく純粋な商取引があるだけなのだ。
「よう、ユウキじゃねぇーか。又急ぎの仕事ってぇのなら勘弁してくれよ」
努めて冷静に応対する。
これは代金徴収、まともな商取引。
俺は頭の中で念仏の如く繰り返す。
「いや聞きたいことがあって来た。前に頼んだ飛行ユニットの設計図なんだが今どうなっている?」
これは代金徴収、まともな商取引。
「金庫に大事に保管してあるぞ。もっともあんなもんお前以外には使えないだろうから意味ないかもしれないが」
決してやましくない、聖なる商取引。
「確認してもらっていいか?気になることがあってな」
経済は人の善悪を超えて巡る、商取引に善悪なし。
「分かった。ついて来い」
売買は物々交換から始まった、だからこれも元の形に戻るだけ。
俺達は地下の金庫室に向かった。
俺はこの国一の魔法鍛冶師、代金が高価になるのは当たり前。
「ところで美人の大魔導師様はどこにいるんだ?」
俺は金庫を開けながら努めて冷静に聞いた。
手筈では美人の大魔導師様がユウキを縛り上げて特殊な方法で無力化して施術することになっていた。
後少しだ、後少し。
「ああ、今回は連れてきていない」
・・・。
一瞬意識が飛んだ。
「じょ、冗談だろ。店の前で待たせているんだろ」
「いや、今回も急ぎでね。連れてくる余裕がなかった。シオンからはダンのところに寄る時は連れていけって言われていたんだが仕方ない」
それから後のことはよく覚えていない。
金庫に飛行ユニットの設計図がなくそのことをヤツに伝えたような気もするが全てあやふやだ。
正気を取り戻した時には一週間経っていた。
俺は落胆していたが美人の大魔導師様が約束を守る気なのは確認出来た。
ならば次に来た時はヤツを確実に仕留めてやる。
俺はまだ見ぬ未来に執念を燃やした。
弟子I「禿げた中年オヤジは生理的にどうも・・・」
魔法鍛冶師D「こ、今度こそは!」




