24 我が征くは大海原
新展開に突入です。
新世歴217年12月、小国ローアンを壊滅させた翼竜によって世界はそれまでにない大きな危機を迎えた。
レインディア王国とラード王国はいち早く国境沿いの村々を避難させ事なきを得たが勇者の警告を無視したシュルト王国は翼竜に襲撃され国土の1/3に壊滅的打撃を受け王都にも大きな損害を被った。
あわや王都壊滅という時空の彼方より飛来した勇者によって翼竜は駆逐され世界は存亡の危機を脱した。
(一部には更に強大な巨竜が現れこれも勇者によって討滅されたという噂もあるが真偽定かではない)
翌新世歴218年はそれまでの激動の年と違って何事も過ぎていった。
しかしそのまま新たなる年を迎えることを期待していた人々の願いはまた裏切られることになるのであった。
「シュナ王から至急の呼び出しだって?」
俺は訝しく問い返した。
「はい、国境からの連絡では一刻を争うとのこと。使者を送って招聘出来ない非礼をお許し願いたいとのことです」
「フーン、あの狸爺がそんなに焦っているのか。分かった直ぐに発つ」
俺はラード新女王に出立の意志を伝えた。
「・・・・という訳で来たぞ」
俺はラード新女王から話しを聞き一時間でシュナ王城の謁見の間に現れた。
あまりの速さにシュナ王はびっくりした表情を隠せない。
普通馬を昼夜兼行で乗り継いでもラード王城からここまで一週間は掛かるのである。
通信用魔道具で国境沿いに連絡を入れて半日もしない内に現れるなど予想外であったのだ。
「こ、これはお早いお越しで。無理を言って申し訳ございませんでした。しかしこれは大陸全国家の存亡に関わる事態のため勇者殿にお越し願いました」
しかしシュナ王は頭を切り替えて話し始めた。
「現在、超大陸の三番目の大国クーイアン帝国の軍艦五百隻がこの大陸に向かっているとの情報が間諜より入りました。目的はこちらの大陸全土の制圧と見られます。以前よりかの帝国よりこちらの大陸全土の服属の要求が再三に渡りきておりましたが超大陸との貿易を一手に握る我が国が朝貢でお茶を濁していたのです。しかし昨年皇帝が崩御し新皇帝に替わってから覇権主義の傾向が強くなり近隣諸国と戦端を開くのも間近と聞いております。多数の軍艦を準備していた情報も掴んでいたのですが海沿いの諸国との戦争に使うとばかり思っていたのです。しかし先週急遽大量の食料が五百隻全ての軍艦内に運び込まれ今朝方約十万の兵を乗せ出航しこちらの大陸に向かう航路を取ったそうです」
「こちらへの到着予定は?」
「天候が良ければ十日ほどで着くはずです」
「こちらの軍艦は何隻あるんだ?」
「正規の軍艦が三十隻ほど、商船を臨時改造しても百隻にも届きません。それにこちらの軍艦は向こうの1/3程度の大きさです。同数で当たっても一方的に蹂躙されるだけで」
「つまり勝ち目が全くないから俺になんとかしてほしいってことだな」
「その通りです。勇者殿におすがりするしか・・・」
「しかし、向こうにも俺のことは伝わっているんだろう?」
「はい、件の世界の危機の宣言に併せて超大陸主要国家に送っておきました。帝国側の間諜もここでの数々の事件の顛末を本国に連絡しているはずですので勇者殿を怖れてこちらには来ないと思っていたのも予測出来なかった原因の一つです」
「俺のことを知っていてなお攻めてくるか・・・」
俺は少し考えた。
「・・・今のところ帝国と近隣諸国との戦端は開かれていないんだな?」
「それは間違いなく」
「あまり人同士の闘争に係わりたくないんだがなぁ」
「そこをなんとか。勇者殿が懇意にされているレインディア王国やトーア王国にも惨禍が及ぶことですし」
「だからしがらみを増やしたくなかったんだ。まあシュナも含めてここまで手助けして見捨てるのも偲びない」
「それでは!」
「なんとかしよう。但しシュナの軍艦十隻、それと廃船間近の同じぐらいの大きさの商船二十隻を囮として使わせてもらう。全部沈められる覚悟はしていておいてくれ」
「分かりました」
かくして俺は海戦に挑むこととなった。
それから九日経った。
全ての準備を終えて俺はシュナの軍艦の帆柱の上で敵大艦隊を待ち受けていた。
高空から確認したところ敵大艦隊の航路上に間違いなく乗っている。
シュナの軍艦十隻と商船二十隻は既にもぬけの殻でロープで繋がれ浮いているだけである。
先頭に軍艦を配してあるのでシュナの総艦隊に見えるはずだ。
乗員は残り二十隻の軍艦に移ってシュナの王都に戻ってもらっている。
無駄死にすることもないだろう。
やがて帆柱の上からでも敵大艦隊が見えてきた。
こちらから見えればあちらからも見えるのだろうがこれといって変化はない。
速度すら変えずにこちらに向かってくる。
五百隻の軍艦の威容はこちらに近づけば近づくほど圧迫感を与えてくる。
こちらが1/3の大きさだから実際より大きく感じるのだろう。
かなり接近してから向こうの魔導士が火弾を撃ち込んできた。
軍艦には耐火の魔法防御が組み込まれているが精々十発程度しかもたない。
敵艦隊前衛がこちらを半包囲して火弾をガンガン撃ち込んでくる。
こちらの艦隊は全て炎上を始めた。
飛行ユニットを起動して後方に飛び退いた。
そして燃え上がる艦隊の後方の海の上に降り立った。
「出でよ!氷結戦艦スサノオ!」
その言葉を合図にして海面下から巨大な氷塊が大波を起こしながら浮上してくる。
前方の燃え上がる艦隊は大波に呑まれあっさり沈没し敵大型軍艦も大きく揺らいでかなりの人数が振り落されたようだ。
敵艦隊は前方にいきなり出現した巨大な氷山に大混乱に陥っていた。
氷山の大きさは海面上五百mはあり海面下も同程度ありそうであった。
「アハハハッ、恐れ慄け!そして貴様らの非力さを知れ!スサノオビーム!」
俺の声に合わせて氷山中央から直径十mの光線が発射され敵大艦隊中央を貫いていく。
光線に直撃された軍艦は一瞬の内に炭化し消滅した。
光線近くの軍艦は掠めもしないのに強力な輻射熱で耐火魔法の力も一瞬で尽き燃え上がっていく。
一撃で敵艦隊の八割が消失した。
そして水平線の彼方できのこ雲が上がった。
「さて、残りの艦隊に止めを・・・」
俺が氷山の上から飛び立とうとした瞬間後方から水飛沫を上げて人影が飛び上ってきた。
雷撃
電撃が背中に突き刺さった。
俺はさっきまで立っていた氷山頂上の平坦部に倒れ伏した。
「ギャハハハッ!やった!やったぜ!これで俺が正真正銘唯一の勇者様だぁ!!」
そこには茶髪で耳ピアスをしビスのようなものがついた皮鎧を着けた男が宙に浮いていた。
両腕両脚には金属製の筒、飛行ユニットが装着されていた。
「しかしやってくれたな。皇帝から預かった艦隊をこんなにしやがって、なんだこの氷山はよー。まあいい、お前さえ殺ってしまえば邪魔出来る者はいなくなる。かなりヤバイ奴だって聞いていたが呆気なかったな。噂倒れか」
男は蔑むように見下ろす。
「き、貴様、何者だ・・・」
俺は切れ切れに言葉を吐く。
「ヘッ、俺の雷撃を喰らってまだ生きてるよ。こいつはスゲーや。ま、虫の息のようだがな。ン?俺か?俺はお前と同じく召喚された勇者様さ。クーイアン帝国の前皇帝に召喚されて隷属の首輪で繋がれていた。だが当時の皇太子と取引して首輪を外してもらって前皇帝と召喚を行った魔導師をぶっ殺し現皇帝に勇者として仕えているのさ」
「そ、その魔力はどうした?クーイアン帝国ではここ暫く大きな戦争はなかったはずだ・・・」
「お前は知らなかったようだがよ。俺達異世界人同士が殺し合えば勝った方はこの世界の人間をぶっ殺すより多くの魔力が得られるのさ。そしてより多くの魔力を持った者同士だと更に多くの魔力が得られる。俺達もお前と同じようにクラス単位で召喚されたんだが最初にクラスメート同士で殺し合いをさせられてな。最後に残ったのが俺だったって訳だ。ま、どいつもこいつも俺をバカにしていたクソ野郎ばっかだから俺は嬉々として殺したがな。そしてお前を殺せばもっと魔力が上がる」
「・・・」
「お、もうそろそろおっ死ぬか。まあ雷撃でも即死しなかった奴だ。念のため首も落としてやるよ。精々いい断末魔の声を上げてくれよ」
男は側に降り立ち腰の剣を引き抜くと首を刎ねようと振り下ろした。
俺はゴロンと仰向けになりながら剣を抜き振り下ろされる剣を受け払いそのままの体勢で男の腰に蹴りを叩き込んだ。
男は蹴られ宙に飛ばされたが飛行ユニットで立て直す。
俺はそれを尻目に何事もなかったかのように平然と立ち上がった。
「て、テメェー!いったいどうして」
「俺がいるのに普通に攻めてきたからな。俺に対抗する手段があるんじゃないかと考えた。前皇帝が死んだって話しだから警告を受けていたのに召喚をやらかしたのかと。後は奇襲を仕掛けやすいように隙を見せてやられた振りをした。いやー、情報を引き出すためとは言えやられた振りというのも案外疲れるものだな。特にバカが調子に乗って喋り捲るのを大人しく聞くのは忍耐がいる」
「バ、バカにしやがって!なら実力で勝負してやる!」
「まあ、待て、お前は命拾いをしたんだぞ。俺を殺さずに済んで」
「なんだと!」
「このスサノオの動力はなんだと思う」
「ディーゼルエンジンとかじゃねぇのか」
「外れだ。核融合を使っている」
「バ、バカ言うな。そんな元の世界でも実用化出来ていないものを」
「魔法の深い知識があれば案外色々と出来るものさ。さっきのスサノオビームはなんだと思う?」
「なんかの魔法じゃねぇのか」
「それも外れだ。核融合を魔力力場で封じ込めているんだがその一部に穴を開けただけさ。それであの威力だ」
「信じられねぇ」
「翼竜退治の時に使ったからクーイアン帝国の間諜から報告が上がっているはずだぞ。ローアン方向であれと同じきのこ雲が上がっていたと」
「それが本当だったとしてなんでお前を殺さなくて命拾いをしたってぇ話しになるんだ」
「つまり俺を殺したり意識を失わせたりすると俺が支えている魔力力場が消えて核融合のエネルギーがこの辺一帯に解放されることになる。そうなれば誰も生き残れない」
「テ、テメー、いかれていやがる。つき合っていられるか!俺は逃げるぜ!」
「逃がすと思うか?さっきのビームの軌跡を見たかどうかは知らないがビームが近くを掠めるだけで人間なんか一瞬で消し炭になる。そして射程は水平線に見えるあのきのこ雲の位置までだ。がんばって逃げてみるか?」
「ク、クソがー」
「お前に出来るのはこの場で俺と戦って殺しも気絶もさせずに無力化するだけだ。もちろん俺はお前を容赦なく殺すつもりだから精々生き足掻け」
俺は飛行ユニットを起動して男に接近する。
男は逃げるか戦うか迷っているため動きが鈍い。
辛うじてこちらの剣を躱すが逆に打ち込みを掛けようとして動きが止まる。
致命傷を与えれば自分も吹っ飛ぶのだ。
手が出せない。
こちらは容赦なく斬り掛かり続ける。
男はなんとか躱し続ける。
剣技についてはそれなりの師匠についてしっかりと学んだのだろう。
我流の剣技から大魔導師に師事して魔法特化型に移行した俺とは逆のタイプだ。
「クソがー!」
男が苦し紛れに剣を薙いだ。
俺は避けない。
「クッ!!」
男は必至になって剣を止め、そして俺の剣がその男の胸元を下から斬り裂いた。
「ガハッ!」
男は血反吐を吐き落下していく。
ビームの影響で中の人間が蒸し焼きになって全滅した軍艦の甲板に叩きつけられた。
「き、汚たねぇーぞ・・・」
男は叩きつけられた姿勢のまま呟くように言った。
既に顔に死相が出ていた。
「外道同士の戦いでより外道の方が勝った。それだけだ」
俺は男の心臓を一突きして止めを刺した。
こうして名も知らぬ男との戦いは終わった。
同じ世界から召喚されたであろう人間を殺してもなんの感慨も湧かなかった。
この状況を予想した時からこの瞬間は相手が外道であってももっと葛藤を感じるものと思っていたのだが。
俺は自分が思っている以上にいかれているようだ。
寂寥感を覚えるが只それだけである。
俺はそれを振り払うように機械的に残敵を掃討するために飛び立った。
一見さんには基本名前をつけないようにしています。




