小話24 トレンジャーハンター再び
彼らは戻ってきた。
「チッ、しつこい」
俺と相棒の二人は谷間の底にある道を馬で駆け抜けていた。
後方を黒装束の姿の男達を乗せた十騎の馬が追走している。
現在のラード王国領になった旧ローアン地帯は極端に人の往来が少なくなっており盗賊も商売あがったりで皆無だ。
相手の馬影が見えた俺達は係わり合いになるのを怖れて逃げるように馬を走らしたのだが奴らは追掛けてきたのだ。
大分近付かれて顔を隠した黒装束を見て確実にヤバイ連中だと分かった。
しかし奴らの馬の脚は速く逃げきれそうにない。
無言で追跡してくる奴らの様子から追いつかれれば命はなさそうである。
「どうする、逃げきれないぞ!」
相棒も同意見のようである。
「谷間を抜けるところで勝負を掛けよう!」
「そ、そうだな!」
俺の言っていることを理解した相棒は同意した。
やがて谷間を抜ける寸前俺達は馬を谷の両側に分かれて走らせツルハシを持って飛び降りた。
谷の岩盤の具合を確かめ一気にツルハシを叩きつける。
叩きつけたところから無数に罅が入り広がっていく。
谷間の反対側の相棒も同様だ。
俺達は又馬に飛び乗り一気に谷間を抜けた。
丁度そのタイミングで谷間が鳴動し始めガラガラと崩れ始めた。
黒装束達は岩石に埋もれていく。
「どうだ!魔竜山で鍛え抜かれた岩石一撃粉砕の手練の技は!」
俺は誇らしげに叫んだ。
黒装束達は完全に土砂崩れに巻き込まれたようだ。
俺達二人は勝利の雄叫びを上げた。
事の起こりは勇者に大魔導師の財宝を奪われ酒場で管を巻いていた時のことだった。
相棒がローアン王家の財宝の話しを持ってきたのだ。
話しの概略はこうである。
翼竜災害直前にシュルトから故ローアン王家に脅迫があったそうである。
ローアン王家の財宝と国庫の金を全て差し出せと。
シュルトはよっぽど経済的に行き詰っていたのだろう。
なりふり構わなくなっていたのだ。
しかしそれらは届かず怒ったシュルトはローアンへ懲罰軍を送ったとのことである。
懲罰軍は翼竜に全滅させられたそうだがそれはどうでもいい。
問題は翼竜退治後三ヶ国条約が締結されラードによりローアン王都の調査が行われた結果それらが無くなっていたことが判明した。
つまりローアン王家の財宝と国庫の金はシュルトに送られたがおそらく翼竜に襲われてシュルトに届かなかったのだ。
つまり・・・、
「そのお宝を見つけてしまえば・・・」
「俺達は大金持ちだぜ!」
「行くぜ!相棒!今度こそ俺達は夢を掴むぜ!」
「合点だ!」
かくして二人の夢追い人は再び立ち上がったのだった。
「しかしあいつら、なんだったんだ?」
俺は立ち上る土煙を見ながら言った。
「どっかの国の裏稼業の連中じゃないのか?目的が一緒だったのかもな」
「とにかく急ごう。他の連中に先を越されたらたまらん」
俺達がこの話しをラードの酒場でキャッチした時にはこの噂はかなり広がっていた。
但し前回俺達は大魔導師の財宝探索でこの辺りの地理には大分詳しくなっているから大概の連中よりは先行しているはずだ。
「ああ、そうしよう」
俺達は駆け続けで息の上がった馬を宥めながら進み始めた。
『キャシャー!』
その俺達の頭上から妙な泣き声がした。
俺達は恐るおそる上空を見上げた。
そこには一頭の黒い翼竜が滑空しており今まさに俺達に向かって降下しようとしていた。
「逃げろ!」
俺達は慌てて馬を再び全力で走らせた。
馬の方も翼竜が迫ってきているのが分かっており必死に駆けている。
しかし翼竜の羽ばたきは直ぐ間近に迫っていた。
逃げきれない!
俺と相棒は迫る死の咢に絶望した。
バシャ!
ものが弾ける奇妙な音がして血と肉の破片が空から降ってきた。
俺達は血塗れになりながらも呆然と空を見上げていた。
そこに翼竜の姿はなく忘れたくても忘れられない姿があった。
「「勇者!」」
「なんだ、お前らか」
勇者は前回と同じように四本の金属製の筒を腕と脚に着け宙に浮かんでいた。
「土煙が見えたので確認しにきたらはぐれの翼竜の生き残りがいたから始末した。どうしてお前らはこんなところにいるんだ?」
「お前に教えることは何もない」
「そうだ。この横取り勇者め!」
「・・・ひょっとしてローアン王家の財宝の件か?」
「な、なんでそれを!」
「いや、俺もラード女王から財宝の回収を請け負った。所有権は現在この地の領有権を持つているラードにあるからな。噂が大分広まっているから至急回収してくれと財宝の半分で手を打った」
「なんだと!しかし今度こそ俺達が先に手に入れてやる!」
「拾得物隠匿をいばって主張されても困るんだが」
「とにかく今度こそ早い者勝ちだ!覚悟しろ!」
「いや腰を折るようで悪いんだが・・・」
勇者は背負っていた大きな風呂敷包みを見せる。
「ま、まさか・・・」
「・・・既に回収済みだ」
死刑宣告のようにその声が俺達の頭の中に鳴り響く。
「まあ気を落とすな。今度こそ真っ当な仕事につくチャンスだと思えばいい。それでは去らばだ」
呆然としている俺達を尻目に勇者は飛んで去っていった。
「馬鹿野郎―!!」
「死んじまえ―!!」
自失から立ち直った俺達が上げた罵声は勇者に届くことはなかった。
夢追い人はいつ夢から覚めるのか。




