小話22 トレンジャーハンターの喜劇
今回もひねりはありません。
二人の男がかつて魔竜山と呼ばれた岩石が崩れて出来た小山で穴を掘っていた。
周辺に何十もの穴が開いていた。
ここ半年間の彼らの成果であった。
半年前勇者の翼竜退治によって魔竜山の隠された財宝が安全に手に入ると探しにきた彼らは魔竜山自体がなくなっていることに驚いた。
慌てて周囲を探し回ったが見つからずこの厖大な岩石が折り重なって出来た小山が魔竜山の成れの果てだと認めざるを得なかった。
何をどうやればあんな巨大なものが崩れて無くなるのか彼らには検討もつかなかったが勇者と翼竜の戦闘の結果そうなったと考えるしかなかった。
そして全財産を叩いてここまで来た彼らの頭には撤退という考えは浮かばなかった。
財宝のほとんどが高価な魔道具であると伝わっていたため魔竜山崩壊時に壊れてしまっただろうがそれに埋め込まれていた魔力の大きな魔導石自体は残っていると考えられたからだ。
魔導石だけでも財宝の予想金額の半分にはなる。
それでも一財産だ。
彼らはその日から今日まで寝食を惜しんで一生懸命穴を掘り続けた。
ツルハシ一本で堅い岩石を砕く極意を執念で身に着けスコップとバケツで岩や石や泥をもの凄い勢いで掻き出し極度に最適化した作業で日に十m以上の穴を掘り下げていく。
はっきり言ってこの努力を土木工事に半年注ぎ込めばそれなりの稼ぎになったであろう。
しかし彼らは脇目も振らず今日も穴を掘り続けていた。
彼らが昼飯を食っていると突然日が陰った。
見上げると空から逆光の中何かが降りてきていた。
「あ、あれは鳥じゃないな。大き過ぎる。まさか翼竜か!?」
「そ、そんな、翼竜は勇者が全部退治したって聞いていたぞ!」
「ひょっとして生き残りがいたのかも・・・」
彼らは慌てて手近な穴に飛び込もうとした。
「おい、お前ら」
しかし上空から声がして彼らは動きを止めた。
振り返ると若い男が宙に浮いていた。
奇妙な四本の金属の筒を腕と脚に装着していた。
そしてフワリと地上に降り立つ。
「な、なんでぇ、お前は。空を飛ぶなんておかしなことしやがって・・・。空を飛ぶ?」
男の一人が何かを思い出しかけたが若い男が近付いてきたので気が逸れた。
目つきの鋭い異様な威圧感を放つ若い男だ。
二人は知らずしらずの内に後退った。
「な、なんでぇ、空なんか飛びやがって。お前人間か?」
「そんなことはどうでもいい。お前達は誰の許可を得てここで穴を掘っているんだ?」
「だ、誰って、ローアン王国の人間はほとんど死んで王家も残っちゃいないって話しだ。何をしようが俺達の勝手だ」
「・・・先週、シュルト・ラード・レインディアの三国で翼竜災害の復興計画と国境線についての条約が批准された。それによってここら一帯はレインディアの領土となった。レインディア王国の法では如何なる採掘作業であれ事前に王国への届け出と許可、保証金が必要とされる。無暗に穴を掘られては危険だし穴を掘られて放りだされても困るからな。因みに俺は全ての手続きを終えて許可証も貰っている」
若い男は二人にレインディア女王の直筆のサインが入った許可証を提示した。
保証金は二万ガル、大人一人が一年遊んで暮らせる額だ。
「し、知ったことか!俺達は半年前からここで掘っているんだ。先住権ってものがあらぁ」
「フム、確かに土地の所有権が消えていた時期からここで生活していたのなら認められないことはないか。ところでお前達は何を掘っているんだ?まだ掘り出しが済んでいないのならレインディア王国の法に従ってもらうのは同じだ。それと所有権がお前達にないもの、例えば盗品や埋蔵金の類については本来の所有者に権利は帰属する」
「・・・」
二人は押し黙った。
「大魔導師の財宝だろ」
「な、なんでそれを!」
「やっぱりそうか」
「カマ掛けやがったな!しかしそれがどうした!何百年も前の大魔導師なんて生きちゃいまい。掘り出せば俺達のものだ!」
「俺は本人からの了承も得ているが」
「嘘を吐け!それにお前のような細腕でこの厖大な岩石の下からお宝を発掘出来るかってんだ!それともこれから大人数が来て発掘するっていうのか?」
「いや、俺一人でやるんだが」
「なら早い者勝ちだ!俺達のこの半年間で鍛え上げられた堅い岩石でも一撃でも砕き十人前の土砂処理能力に敵うものか!」
「・・・早い者勝ちでいいのか?」
「そうだ!やれるものならやってみろ!」
若い男は二人から少し離れ岩石に軽く手をつけた。
その途端ゴゴゴッと崩れた岩石の小山が鳴動し始め勝手に押し分けられ地の底から何かが押し上げられてくる。
よく見るとそれは土に塗れ壊れた魔道具と潰れた小箱から溢れている金貨や銀貨や宝石だった。
若い男は呆気にとられている二人を放置し金貨銀貨宝石を拾い上げ手慣れた様子で魔道具から魔導石を抜き取り回収していった。
「これで以上だな。もうこれで会うこともないだろうが一攫千金なんて考えずに真っ当に稼げよ。あぶく銭なんて身につかないぞ」
言いたいことだけ言って若い男は来た時と同じように飛んで去っていった。
二人は呆然としたまま空を見上げるだけだった。
暫くして一人が言った。
「なあ、勇者は翼竜退治で空を飛んでいたって話しがあったよな・・・」
「ああ、そうだな・・・」
「あれがそうか」
「そうなんだろうな」
「・・・帰るか」
「そうだな」
そして二人の道化は何処かへと帰っていった。
T1「あれは何だ!鳥か!翼竜か!」
T2「いや!横取り勇者だ!」




