小話20 書簡
長い一晩です。
「・・・でなんの用だ?」
気まずい雰囲気を振り払うように俺はラード新女王に問い掛けた。
あわやというところで救ってもらった形になるので礼の一つもしたいところではある。
しかし、新女王が訪れた時シオンがそのままの格好で扉を開けたため今の気まずい状態になっている。
シオンだけならいつもの奇行で済むかもしれないが俺も変な縛り方で拘束されていたので責任を擦り付けるのも難しい。
落ち着いて話しが出来ないからシオンにはお願いして退出してもらった。
「は、はい。ユウキ様宛の他国からの書簡が届いておりましてそれをお渡ししておこうと思い夜分遅くにお邪魔しました」
「書簡?俺にか?一体誰が・・・」
「最初にトーアの王太子から次にトーア王、最後にシュナ王からです」
俺は書簡を受け取り順に目を通していく。
読み進む内に顔がにやにやして緩みさっきの醜態などどうでもよくなってきた。
「フフフフッ、我が野望のために蒔いた種が順調に実を結びつつある。特に最後のシュナ王からの申し出がいい。これでメイド公国の恒久財源が確保出来る。しかもシュナから超大陸に販路を広げれば全世界征服も夢じゃなくなる」
「ハァ、その関連のお話しですか。トーア王族やシュナ王まで巻き込んだのですね。どうやれば世界を危機から救いながらそんな策謀を張り巡らせられるのやら」
「シュナ王の方は知らないぞ。大方トーアに潜伏させている間諜からの情報で目をつけたんだろう。しかしシュナ王も利益に目が眩んで足元がお留守になっているようだ。トーアに引き続きシュナも間もなく我が軍門に降ることだろう」
「程々になさいませ。下手をすると歴史に“救世の勇者”様ではなく”メイド勇者”という名を残すことになりますよ」
「フッ、構わん。“救世の勇者”なんて厨二病的名前よりはそっちの方が好みだ」
「ハァ、そうでしょうとも」
新女王は溜息を吐きながらも部屋を出る気配がない。
「・・・それと確認しておきたいのですが一旦再会した後ユウキ様が再び翼竜討伐にローアン方向に飛び立たれ暫くしてその方向から妙な雲が幾つか立ち上り大きな音がして更に上空を岩のようなものが通り過ぎた後に轟音がして建物の屋根が剥がれたりなどの被害が出ていたのですが何があったのでしょうか?」
「・・・冗談にしか聞こえないだろうが翼竜を全て討伐した後魔竜山が崩れて同じぐらいの大きさの黒い巨竜が出てきて戦闘になった。なんとか倒したがそちらで見えたのは戦闘の影響だ」
「そんなことが・・・」
「無用な混乱は避けたいから内密で頼む。もっとも俺とシオンしか目撃者はいないから喋っても信じる者はいないかもな」
「分かりました。口外は致しません。話しは以上なのですが・・・」
新女王は急にモジモジし始めた。
「・・・先程のあれはユウキ様の御趣味なのでしょうか?」
「違う!シオンに縛り上げられて今回の無茶な独断先行の仕置きをされる寸前だっただけだ」
「しかしユウキ様なら縄の一本や二本どうにでもなりますでしょう?」
「詳細は省くがシオンに嵌められた。大魔導師の名は伊達じゃなかったと思ってくれ」
「でも大魔導師様の御姿にしてはあれもちょっと・・・」
「あれはシオンの趣味だ!シオンの実力とは関係ない」
「そうですか。私はてっきりユウキ様が特殊な性癖を持っていらしゃったのかと思ってしまいました。各国の美姫にも手を出されないのもそれが原因かと」
「ライザやルシアに手を出さないのは其々の国の紐つきになるのが嫌だからだ。俺にそんな特殊な性癖はない」
「しかしシオン様にも手を出しておられないのでしょう?」
「あれこそ特殊な性癖の持ち主なんだよ。危なくて手が出せるか」
「・・・分かりました。ところで書簡といえば私もこの頃トーアのライザ様と手紙のやり取りをさせて頂いていますの」
「フーン、意外と気が合ったんだな」
「それと今回の翼竜騒ぎで避難費用ねん出のため幾つかの公共事業が滞っておりまして」
「・・・それで?」
「今回の事の顛末をライザ様にお伝えしたらさぞや面白がられると思うのですが」
「・・・図太くなったな」
「鍛えられましたので」
「・・・分かった。土木工事だけなら片づけておく」
かくして俺は一晩で二敗という不名誉を蒙ることになったのであった。
予定以上に逞しくなってしまいました。




