22 巨竜目覚める(後編)
作者急病により連載を中断します。
という冗談を一度やってみたかったので・・・。
大山のような黒い巨竜の背中が両側に膨れ上がっていく。
それは大きく展開され巨大な黒い翼となった。
大きさは桁違いだがその姿は西洋ドラゴンのそれであった。
翼を大きく羽ばたかせるとその巨体がフワリと浮き上がった。
「翼竜の時にも思っていたんだがあの翼で身体を宙に浮かせるのは無理だろう」
『現に浮いていると思うが?』
シオンの使い魔がカンガルーの子供よろしく俺の胸元から頭だけ出して巨竜を見ていた。
「重量と翼の大きさ、翼を支える強度と動かす筋肉も重量を増やしていくから元の世界でも太古の翼竜の飛翔について色々と疑問がある。翼竜でも重過ぎて飛べるはずがなかったんだが巨竜に至っては飛ぶ以前にあの巨体を足で支えることすら出来ないはずだ」
『ということは魔力で浮いているってこと?』
「気球のように中の比重を空気より軽くしているか重力制御かは分からないがな。翼は船の櫂のように推進力として使っているのだろう」
『突破口になりそうか?』
「どっちかというと不幸中の幸いといったところだな。あの動きを見るかぎり急激な重量変化は出来ないようだ。横方向にも使えないようだし」
『でどうする?』
「この世界に世界地図ってあるか?あるなら世界地図のイメージを送ってくれ。あんなものと陸上で戦う訳にはいかない。陸地から離れて広い洋上に誘導するために必要だ」
『平面地図と地球儀、どっちがいい?』
「あるのか地球儀?」
「随分前の勇者が測量して作るのを手伝った。生憎現物は残っていないがな」
「じゃあ地球儀のイメージを送ってくれ」
『分かった』
使い魔を介してシオンから地球儀のイメージが届いた。
「・・・おい、これはなんだ?」
『これとは?』
「俺達が旅をしていた北半球の大陸よりもっとでかい大陸が南半球にあるんだが」
『言ってなかったっけ?我々が旅をしていたのは呪われた大陸といわれているところで南半球にある超大陸の方が本土になるな』
「なんだ、そのとってつけたような話しは」
『いいじゃないか。物語りなら超大陸での新展開が待っているから生き延びられるだろ』
「今の主人公は殺すか行方不明にして新主人公で続ける可能性もあるだろ」
『どの道勇者の水先案内人の私の出番が無くなることはないな』
「・・・」
『与太話はここまでだ。奴が近付いて来ているぞ』
シオンの声に俺は広い洋上に誘導すべくゆっくりと後退していく。
『しかし何故奴はこっちに付き合っているんだ?陸地の人が多いところで戦った方がこっちは戦い難くなって向うは有利だろうに』
「駆け引きだよ。それをさせたくなければ休息を取らず連戦しろってことだな。向こうは機動力がないから俺を捉えきれない。連戦させて魔力切れを狙っているんだろう。俺が奴の目の届かないところに逃げて休息したらさっさと都市攻撃に切り替えるな」
『魔力は大丈夫なのか?』
「なんのために飛行ユニットをジェット方式にしたと思う?魔力を直接使うロケット式の方が消耗は激しいが構造も簡単で速度ももっと出るっていうのに」
『つまり?』
「魔力容量にはまだまだ余裕がある。それにこの間の騒乱でシュルトの騎士を殺しまくって魔力容量が増えているし。世界救済の糧になれば彼らの死も無駄にならなくてよかったじゃないか」
『あまり勇者が言うべき台詞じゃないと思うが』
「敵の命や尊厳なんて守っている場合じゃないからな。来るぞ!」
巨竜の口元が発光し始めた。
俺は又最大機動で横方向に逃れる。
直径十mの光の吐息が通り過ぎ更にこちらの移動予測位置にももう一射が来る。
だが俺はそれを読んで既に上昇して逃れていた。
後方では水蒸気爆発が起きてきのこ雲が立ち上っていた。
俺は回り込むように奴の足元に接近した。
奴は構わず吐息を自分の足元に撃った。
激しい水蒸気爆発が起きて巨竜自身が巻き込まれていた。
俺は吐息が発射される瞬間最大加速で奴の足元を抜け距離を取っていた。
そして俺は海水面まで降り両手を浸け氷魔法で瞬時に直径十mの氷塊を作り出した。
それを極細ワイヤーの束で牽引し最大出力で上昇していく。
奴が自分で起こした水蒸気爆発ぐらいでくたばるはずもない。
かなり高空まで移動した後水蒸気爆発の中のヤツの頭があるだろう大体の位置に向けてつっこんでいく。
そしてぎりぎりまで近づいたらワイヤーを解いて離脱した。
氷塊はそのまま膨れ上がった水蒸気の中に突入する。
バゴ!!
何かが砕ける音がした。
『グワー!!』
怒りの叫びが聞こえる。
翼のはためく音が聞こえ水蒸気の中から巨竜の巨体が現れた。
頭部には氷の破片が散らばっており見事命中したのは分かったがヤツを怒らせただけで傷一つついていなかった。
全長千mを越える巨竜に直径十mの氷塊など小石が当たったほどにも感じないだろう。
奴は追掛けようとするが俺は一気に加速して遠ざかっていく。
怒りに我を忘れたかに見えた巨竜が戸惑いの様子を見せていた。
俺はそのまま奴の視界から消え最後の一手の仕込みをしながら岩でゴツゴツした無人島を見つけ全長十mぐらい大岩をワイヤーで牽引して飛び立った。
そして奴とは反対側に最大出力で加速していく。
下の海面が流れるように過ぎていきやがて速度が音速に到達する。
更に加速を続けマッハ2を超えたあたりでラムジェット方式に切り替えてラム圧のみで空気を圧縮し加速し続ける。
前方に展開した魔力力場で空気を押し退け更に身体を魔力コーティングで固めていてもミシッミシッと身体が軋む。
後ろに牽引している大岩の空気抵抗で限界速度には達していないがこの状態で出せる最高速度に到達した頃大陸が見えてきた。
物凄い速度で下の景色が流れていき前方の洋上の三つのきのこ雲を目安に巨竜の姿を点として捉えた。
奴は大陸の方に戻り掛けていたようだ。
瞬時に軌道を微調整して大岩のワイヤーを解く。
俺は強引に軌道変更して奴をすり抜けた後減速し大岩はそのままの速度で奴の胴体部を直撃した。
ドコーン!!
先程とは較べものにならない轟音がして大岩は圧潰して融け崩れる。
巨竜の胴体部も命中箇所が大きく凹み巨体も大きく撥ね飛ばされた。
俺は減速してもかなりの速度があったため大きく迂回しながら戦果の確認のため巨竜の近くまで戻ってきた。
奴はヨタヨタしながらもまだ飛んでいた。
相変わらず表面的には龍鱗に傷一つついてはいないがダメージは入ったようである。
大陸からも十分離れている。
これなら最後の一手も通じそうだ。
俺は魔力の膜で包んで圧縮していた水球を直径二十mまで膨らませ前方に配置し真正面から突っ込んでいく。
巨竜は俺に向けて吐息を放つ。
吐息は水球に命中した。
しかし爆発は起こらずそのまま水球の中に吸い込まれていく。
俺は魔力の膜の中で荒れ狂う巨竜の吐息を無理矢理抑え込む。
奴はムキになって何度も何度も吐息を放つが全て水球の中に吸い込まれていった。
水球の中は白熱化し輝いていた。
俺は水球を奴の口目掛けて放った。
巨竜は最後まで吐息で迎撃をし続けため口の中に見事に嵌り込んだ。
俺は最大加速で後退しながら水球を魔力の限界まで圧縮した。
一瞬にして小さくなった水球はそのまま巨竜に飲み込まれて魔力の繋がりが切れる。
やはり龍鱗は魔力無効もあるようだ。
これなら物理無効も期待出来る。
俺は巨竜側の方向に魔力力場を最大出力で展開した。
その瞬間巨竜の只でさえ巨大な身体が更に大きく膨れ上がった。
口や鼻や目など龍鱗に包まれていない箇所から吐息よりも遥かに強烈な閃光が放たれる。
そして巨竜はもうもうと煙を吐きながら力なく落下していき激しい水飛沫を上げて海中に没していった。
『・・・何をしたんだ?それにあの水球はなんだ?』
シオンが呆然とした口調で聞いてくる。
「あの水球の中身は海水から水魔法で集めた重水素と三重水素だ。それに奴の吐息の熱量を目一杯封じ込め圧縮した。体内に転がり落ちた水球は龍鱗で魔力の繋がりが遮断され内部で起こっていた反応が解放された」
『・・・その反応とは?』
シオンが恐るおそる聞いてきた。
「核融合反応。中心温度4億℃の超々高温が巨竜を内部から焼き尽くしたんだ。色々攻撃して試してはみたが本当に龍鱗が物理無効じゃなかったら俺は死んでいたかもな」
『お前、なんということを。放射能汚染とか起きているんじゃないのか』
「俺の世界で実用化されている核融合爆弾だと色々やばいものが飛び散るけどな。俺が今回使ったのはきれいな核融合さ。もっとも爆発時に大量の中性子やαβγ線が出るからこんな相手じゃなきゃ単なる自爆技だがな」
『・・・とにかくさっさと戻ってこい。みっちり説教してやる』
「お手柔らかにな」
やれやれ世界を救ってやったのに説教されるとは損な役回りだ。
巨竜が沈んでいった海面を見ながら俺はぼやいた。
巨竜を倒して気を緩めた主人公が狙撃され海に落ちて行方不明になって第一部完というのも考えてはいたのですがボツりました。




