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異世界無双血風録  作者: 大五郎
第8章 ローアン亡国編
39/119

20 脱出

本編の後日談です。

カリッ、カリッ、カリッ、カリッ・・・。

洞窟の奥の薄明りの中硬いものを引っ掻く音が聞こえる。

カッ、カッ、カッ、カッ・・・・。

今度は突っつく音だ。

私達十人は身を寄せ合って恐怖に震えていた。

目の前には大人の身長ぐらいある十個の大きな黒い卵、そして私達も十人。

卵は今にも孵りそうだ。

翼竜(ワイバーン)に襲われた時街の皆は奴らに嘴で身体を貫かれたり脚爪で胴体を引き裂かれたりして喰われていたのに私達だけは脚爪で掴まえるだけで生かしてここまで連れてこられこの洞窟に放り込まれた。

私も含めて十歳から十三歳までの子供で大体同じぐらいの背格好だった。

私達は奴らの雛の生餌だ。

誰に言われることもなく皆それを理解していた。

卵はさっきから揺れている。

孵化するのだ。

私達は逃げ場のない浅い洞窟の奥で絶望に満ちた目でそれを見ていた。

ここは険しく切り立った絶壁に囲まれた魔竜山の中腹の洞窟だ。

入り口の下は断崖絶壁で羽でもなければ来ることも出ることも出来ない。

しかも外には成獣の巨大な翼竜(ワイバーン)が雲霞のごとく飛び交っている。

助けも来ないし逃げることも出来ない。

もっともあの数の翼竜(ワイバーン)が荒らし回っていたとしたら既にローアン王国中の人間は喰い尽くされているかもしれない。

パリッ、パリッ。

ついに卵の一つから嘴が現れた。

卵が割れていき中から翼竜(ワイバーン)の雛が現れた。

ネバネバとした粘液が糸を引き親と違って体毛が生えておらず黒い地肌が露わになっており異様に醜い。

次々に他の卵からも雛が出てきた。

「ヒイ・・・」「い、いや・・・」「誰か助けて・・・」「死にたくないよう、死にたくないよう・・・」「か、母ちゃん・・・」

口々に恐怖の声が上がった。

私も何か言っているのだろうが頭が言葉の意味を理解しない。

奴らは生まれたばかりで動きは鈍い。

しかし大きさは既に私達の何倍もあって敵うものではない。

洞窟の入り口から飛び降りて死ななかったことを後悔した。

今入り口は奴らの後ろにあるのだ。

これから私達は生きながら喰われる。

街で見た光景が又蘇る。

脚を引き千切られて苦しみのたうち回り残った手足を更に引き千切られて喰われていく男の人、胴体を嘴で貫かれ絶望の叫び上げるお腹を大きくしていた・・・・妊婦さん。

下半身を喰い千切られそれでも死ねず腸を引き摺りながら転げ回る男の人、丸呑みされる子供、嬲られるように喰われ殺されていくこの世の地獄。

あれが又この場で繰り返されるのだ。

恐怖が実際の時間を何倍にも引き伸ばし頭の中を何度も何度も苦しみながら喰われていく光景が繰り返えされる。

奴らの生臭い息が顔に吹き掛かるほど近くに嘴が迫ってきた。

クワッと開く。

私は目を閉じて身体を限界まで縮こませた。

バシュッと熱い液が顔にかかった。

一瞬自分の頭がもげ噴き出る血が自分の顔に掛かった光景が浮かんだ。

ああ私は死んだんだ。

痛く無くてよかった。

それが実感だった。

しかし死んだはずなのに以前物音は聞こえるし抱き合っている他の子供の身体も感じる。

ヒュンヒュンと風切音がする度にギャ、ギャと悲鳴のような声が上がり血がぶちまけられる音がする。

そして私達の呼吸音以外静かになった。

私はそうっと目を開けた。

目の前にあったのは細かい断片に切り刻まれた黒い肉片の山とおびただしい血の海。

そして入り口の逆光の中に立つ一人の男。

手足に妙な金属製の筒を着けている。

「おい、生きているか?」

男が平坦な声で聞いてきた。

「は・・・」「う・・・」「た・・・」・・・」・・・」」

恐怖に引きつっていた私達は上手く喋れない。

「頭がおかしくなっているなら面倒は見れない。置いていくぞ」

男は本当に出ていくそぶりで背中を見せた。

「待って!正気です!正気です!助けてください!」

やっと私は声が出た。

他の子も口々に意味のある助けを求める声を上げた。

「よし、じゃあもうちょっと待ってろ。絶対助ける」

男は結局洞窟を出ていった。

しかし出る前に振り向いた若い横顔に浮かんだ本当に嬉しそうな表情が私達の希望を奮い立たせた。

私達が生きていたのを本当に喜んでいる顔だ。

絶対助かる。

そんな確信を私達に抱かせるのに十分な笑顔だった。



結局魔竜山の生き残りは私達を含めて五十人程度だった。

ユウキと名乗った若い男の人は不思議なことに空を飛んで生き残りの子供達を大きな洞窟の一つに集めた。

「お前達がここでの生き残りの全員だ」

ユウキは無表情に言った。

私達は自分達が助かったことを喜ぶので精一杯だったが彼は他のものも見えているのだろうか。

「今から脱出する。この辺りの翼竜(ワイバーン)は全て俺が始末した。一旦お前達を安全な場所に連れていった後ローアン王国中に散らばっている残りも一匹残らず始末する」

表情は変わらなかったがその目に異様な殺気が宿る。

私達は気圧されるが信頼は揺るがない。

彼の言うとおり洞窟の外にひしめいていた翼竜(ワイバーン)達が一匹残らず消えていたのだ。

「これからお前達を運ぶ箱を作る。お前達を抱えていたら残ったはぐれに襲われても戦えないから全速で飛ばす。しっかり掴まって喋るなよ。舌を噛むぞ」

私達を整列させ座りこませるとユウキは両手を地面につけた。

土がどんどん盛り上がっていき私達を覆っていく。

暗闇に閉ざされていく私達は悲鳴の声を上げた。

「土魔法だ。空気穴は開けておく。酷い乗り心地になるだろうが暫く我慢してくれ」

そして周囲が全て土に囲まれ暗闇に包まれた。

背もたれのようなものに身体が押し付けられる。

フワリとした感覚があって次の瞬間猛烈な加速感があり私達は気を失った。



次に目を覚ました時辺りは光に包まれていた。

ローアンの警備兵の服装をした男の人達がよかった、よかった、と言いながら周囲の子供達を土の座席から引っ張り出していた。

少し離れたところにユウキが立っており綺麗な貴族の女の人と話していた。

さっき見た姿より皮鎧のあちらこちらが煤けて焦げていた。

私と目が合うと一瞬微笑んで背中を向け又不思議な方法で飛び立っていった。

その時になって状況の激変に呆然としていた私は初めて助かったことを実感して嬉し涙が溢れた。

ローアンの警備兵とは違う警備服を着た禿頭のおじさんに助け起こされていると先程ユウキと話していた綺麗な貴族の女の人がこちらをじっくり見ながら通り過ぎようとした。

お供に私と同じぐらいの双子の侍女を連れていた。

「あ、あの・・・」

近くで見るとより一層美しい貴族の女の人に気圧されながらも声を掛けた。

「こ、コラッ!」

禿頭のおじさんが私を押し留めようとする。

「いいのですよ」

「しかし女王様・・・」

「構いません」

女王様は禿頭のおじさんの方を制止し私に優しく微笑み掛けた。

「それでお嬢さんは私に何か聞きたいことがあるのですか?」

「エッ、エート、そのー」

女王様という途轍もなく偉い人だと聞いて私は慌てた。

「貴方はローアン王国の民でしょう。私はラードの女王で貴方の王ではないのですからそんなに気負わなくていいのですよ」

「あ、あのユウキって人は何者なんです」

私は女王様の言葉に勇気づけられて聞いてみた。

「あらッ、ユウキ様は説明なさらなかったのですか。よほど余裕がなかったのですね。あの方にしては珍しく手傷を負われていたようですし。脱出前に皮鎧はそんなに痛んでいなかったのでしょう?」

「は、はい」

「あッ、いけない。質問に質問で返してしまいました。御免なさいね。ユウキ様は“救世の勇者”様ですよ。この世界を災厄から救える只一人の御方です」

「“救世の勇者”様、あの方が・・・」

「今回の黒い翼竜(ワイバーン)の襲撃もあの方以外には対処出来なかったでしょう。まして魔竜山に連れ去られた子供の救出など誰が出来るものでもありません」

「・・・」

「ユウキ様が手傷を負ったのも貴方達を安全にここまで送り届けるために無理をなされたのでしょう。あの方は冷酷非情に敵を殺しますが同時に弱く虐げられている者には驚くほど甘く優しい。決して表には出しませんが」

「私、あの人にありがとうって言っていない。もう会えないかも知れないのにあの人は只笑って行ってしまった」

只でさえ溢れていた涙がポロポロと零れ落ちる。

「私が伝えておきましょう。貴方が泣きながら感謝していた事を。今度のことでは多くの人が亡くなりました。貴方も多くの大事な人を亡くしているのでしょう?でもいつか心の傷を癒して元気に笑えるようになりなさい。きっとそれがあの人の望んでいることだから」

女王様はあの人が飛び去った遠い空を見ながら優しく語り掛けてくれた。

私は只泣きながらそれを聞いていた。

因みに女王様は文官が命令通りに動いているか現地視察中に偶然勇気と再会しています。

勇気は前線に出過ぎと注意して後始末に向いました。

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