小話16 ある王子の苦悩(流行りの「と」は使いません)
あの人は今・・・。
妹のライザの様子がおかしい。
勇者に随行してレインディア王国で発見された大空洞での長期視察から戻ってきてから以前の子供のような無邪気さが消えていた。
以前はお兄様、お兄様と子犬のように可愛くじゃれついていたものだが戻ってきた時には王族としての礼儀に適った通り一辺倒の挨拶しかしてくれなかった。
勇者の影響なのだろうかまるで別人のようであった。
それが成長というものなのかもしれないが無邪気な頃の妹を思い出して寂しくもなる。
勇者の方は妹と別れた後はラード王国再興に噛んでいたようで暫くラード王城に留まっていたがローアン王国で異変が起こりまた動いているようであった。
それはそれとしてその勇者からの個人的依頼で本日レインディアの大空洞から行儀見習いとして二十二人の侍女を預かることとなっていた。
既にアンナが向うにいた間にある程度礼儀作法は仕込んだそうなので他国での実習が目的であるとのことだ。
王城の勝手口に近い廊下から外を何気なく見ると数台の馬車が停まっておりそこから十二、三歳ぐらいの少女達が出てきた。
そしてその姿から目を離せなくなった。
その少女達の服装は一般的な侍女が着ている地味な仕事着ではなくショートスカートにフリルのついた黒いドレスに純白のエプロンが鮮やかに掛けられており頭には同じくフリルのついたホワイトプリムをしていた。
なんと可憐な。
慌てて勝手口に向かった。
「あら、お兄様、如何なさいました?」
アンナを連れたライザがにこやかに尋ねてきた。
その前には二十二人の少女達が整列して並んでいた。
「ウム、偶々窓からここの様子を見かけたのでね。これがレインディア王国から来た侍女達かい?」
「はい、お兄様。正確には『メイド』と呼んでほしいとユウキ様が仰っていますが」
「しかし何故アンナだけじゃなくライザまでいるんだい?」
「ユウキ様から私がこの娘達を預かりましたから立ち会う責任があります」
「そうか・・・、時にこの娘達の何人かを私の側仕えとしてもらえないだろうか?対価は幾らでも払うが」
「この娘達は奴隷ではありませんし先程申し上げた通りユウキ様より私が責任を持って預かっております。王太子であるお兄様であろうとお渡しすることは出来ません」
「そ、そうか」
ライザの気迫の籠った拒否の言葉にタジタジとなる。
あの可愛く私の言うことはなんでもはいと答えてくれていた素直な妹はどこに行ったのだろう。
「ところでこの者達の着ている服を何着か譲ってもらえないだろうか。私付きの侍女達にも着せたいのだが」
アンナがススッと前に出てきた。
「この『メイド服』も大魔導師シオン様が調子に乗っ・・・、いえ丹精込められて縫われた一品もので糸一本一本にも勇者様の魔力が織り込まれたこの世に二十四着しかない特別なもの。勇者様いわく正式名称は『ゴールドメイド服』とのことで選ばれた『メイド』にしか纏うことが許されておりません」
「そんな大変な代物なのか、しかし二十四着しかないのなら着替えはどうしているのだ?」
「シオン様から頂いた同じ布を使ってこの娘達が『ゴールドメイド服』を手本に縫った『シルバーメイド服』が普段着となります。『ゴールドメイド服』を纏うのは最初に職場に訪れる時と特別な場合だけです」
「それならその『シルバーメイド服』を譲ってもらえないだろうか?」
「こちらも門外不出の品です。普通の布を使った『ブロンズメイド服』なら勇者様の許可があれば可能ですが」
「そうか分かった。早速勇者殿に許可を頂けるよう手紙を書こう」
かくして勇気の知らぬところで野望は達成されつつあった。
王太子の名前はアルバートです。
因みに『ゴールドメイド服』はシオンが仕込んだ魔術文様で耐火、耐ショック、防刃効果があり『シルバーメイド服』はある程度の耐火、耐ショック効果があります。
『ブロンズメイド服』は普通のメイド服です。




