小話14 魔法鍛冶職人の災難
お約束のネタですが。
「でどうやって使うんだ」
隈が浮かんだ目でそれでも興味津々に魔法鍛冶職人のダンが聞いてくる。
「まずこいつを腕と脚に装着する」
勇気は四本ある円筒を横の留め具で順々に装着していく。
円筒にはびっしりと魔術の術式が外も内も刻印されている。
「それで?」
「これで後は魔力を通すだけだ。何が起こるかは自分の目で確かめてくれ」
そしてダンの頭を見てすまなそうに言った。
「無理をさせて悪かった。ダン、あんたの犠牲は無駄にはしない」
「?」
イミフな顔をするダンを放っておき勇気は魔道具を起動させた。
円筒に魔力が注ぎ込まれ内部に圧縮力場が形成され上部から吸気が始まる。
内圧が高まり下部力場が消え絞ってある下部ノズルから爆発的にエアーを噴き出す。
吸気と排気が断続的に繰り返され勇気の身体がフワリと浮き上がった。
「そうそうシオン、ここの支払いは任せた」
「なんだと!ちょっと待て」
勇気はシオンの制止を無視して一気に上昇していきドンと爆音を響かせてあっという間に西の空に消えていった。
「ほー、ああやって使うのか」
その一部始終を見ていたダンは感嘆の声を上げた。
「あの野郎~」
おいていかれたシオンが忌ま忌まし気に軌跡を見上げていた。
「ハハハッ、お前さんも大変だな」。
ダンは笑いながらシオンに声を掛けた。
「いや、ダン、君の方がもっと大変だと思うが」
「まさか踏み倒す気か!」
「いや、そっちの方は多分大丈夫」
そして同情を込めてダンの頭を見た。
そういえばユウキの奴も変な目で俺の頭を見ていたなと思いダンは自分の頭を触った。
「な、ん、だ、と・・・」
馴染んだいつもの感触がない。
まるで・・・。
「イルザ!手鏡を貸してくれ!」
「はーい、分かりました」
渡された手鏡を覗く。
「な、なんじゃこりゃ!」
確かに生え際の後退は気になってはいたがこんなことになっているとは思いもしなかった。
鏡に映るダンの頭は丸禿げになっていたのだ。
「ど、どうしよう、どうしたら・・・」
あわあわとダンは混乱した。
「あれ?気合いを入れるために剃っていたんじゃないのですか?」
「そんな訳あるか!」
イルザの天然ボケに突っ込みを入れる。
「そうだ!あんた大魔導師様なんだろう。治癒魔法でなんとかしてくれ!」
藁をもすがる気持ちでシオンに詰め寄った。
「それが・・・、私は内臓器官の再生だって出来るのだが唯一そんなふうに毛根の死滅した髪の再生だけは出来ないんだ。すまない」
鎮痛な面持ちでシオンが答える。
「そこをなんとか。方法はないのか?」
「・・・他のところから毛根つきの髪を持ってきて移植すればなんとか」
「!?ここは駄目だぞ!」
ダンは股の間を押さえて後退った。
「誰が中年のおっさんのそんなところを触りたがるか。多少目つきの悪い美少年ならともかく」
「じゃあどうするんだ」
ダンはイルザのショートカットの髪をやばい目で見た。
「私の髪は駄目ですよ。それに親方の身体に私の身体の一部がくっつくなんて死んでも嫌です」
手で髪を隠すように押さえながらお父さんの下着と一緒に自分の下着を洗うのを嫌がる娘のように拒否する。
なんとも人情味の薄い師弟関係である。
「アハハハッ、私は可愛い女の子の味方だよ。そんなことは絶対にしない。それに適任者がいるじゃないか」
西の空を見た。
ダンも思い当ったように同じ方向を見た。
「時に店主、あの魔道具の支払いについてだが毛髪の提供者と施術費込みでチャラということにしないか?元々魔道具の注文は奴がした事だし。若くて魔力みなぎる毛髪だ。一旦定着すれば死ぬまで髪の心配をすることがなくなるぞ」
「な、なるほど」
悪い顔をしているシオンの言い分に納得するダン。
かくして勇気に鬼門がひとつ出来たのであった。
再び魔道具が必要になる日が来なければいいのだが。
因みにパルスジェット方式をシオンなりにアレンジしています。
魔力の術式による超圧縮でジェット燃料との混合気の爆発的燃焼の推力に匹敵させているということにしてください。
なんせ燃焼方式にすると魔道具の耐熱温度とか勇気自身が噴流の熱で火傷するとかの問題が出ますので。
なお、マッハ2ぐらいを超えるとラムジェットに切り替えて更なる加速が可能ですが勇気の身体が危険な状態になるという設定にしています。
元々生身で音速を超えること自体が無茶ぶりですが。




