19 竜は集う(後編)
色々と手を考えていたのですが思いっきりぶっ飛んだ方法にしました。
シュルト国境線よりローアン側に少し入ったところで地獄が現出していた。
空を覆わんばかりの黒い翼竜の群れ。
雨あられのようの降ってくる火弾。
シュルト軍の一万の騎士は元より魔導士達も射程外のため全く手も足もでない。
落馬した騎士や魔導士達が次々についばまれ引き裂かれて喰われていく。
逃走する騎士達も背後から襲われ餌食となっていった。
「ばかな!ばかな!あの言伝は真実だったのか」
シュルト軍の指揮官の将軍は既に統制を失った軍の中孤立し呆然と立っていた。
その上を掠めるように翼竜が通り過ぎた。
将軍の頭は消えており首元から血柱が上がった。
かくしてシュルト軍一万はこの地で消え去ったのであった。
シュルト国境警備隊詰所。
ローアン王国側から来る者もなく懲罰軍の侵攻に警戒してあちらに向かう者もなく閑散としていた。
ローアンへの懲罰軍一万が通過し始末されたローアン側警備兵の死体の埋葬も済み気分が緩んだ警備兵の一人が国境線の彼方をなんとなく見詰めていた。
その空に小さな黒い塊が現れた。
それは段々大きくなっていく。
個々の姿を確認出来た時警備兵の顔が真っ青になった。
もの凄い数の黒い翼竜の群れが急速にこちらに近づいていたのだ。
仲間に警告の声を上げ慌てて繋いである馬の方に走った。
ここにいたら確実に死ぬ。
馬に乗って駆け出した途端後方の詰所が炎に包まれた。
驚いた馬が警備兵を振り落とし駆け出すが舞い降りてきた翼竜の脚爪に掴まれ引き裂かれる。
警備兵は落馬し仰向けになった状態のまま後退る。
そして何かにぶつかって止められた。
恐るおそる後ろを見る警備兵の目に巨大な嘴が映り意識が砕かれた。
ローアン王国の人間を喰い尽くした黒い翼竜の群れはシュルト軍一万が呼び水となってシュルト王国に浸透を開始した。
まず国境に近い村々が襲われ助けを求める間もなく全滅していった。
次に襲われた街々も同じように黒い翼竜の群れに呑み込まれていった。
それは一週間もしない内にシュルト王都に到達した。
その日シュルト王都の空は数千頭の黒い翼竜の群れに覆われた。
それらは火弾を撒き散らしながら街を焼き逃げ出した住民達をついばみ喰らっていく。
王城から騎士団も出陣したが地上を闊歩する翼竜に辿りつく前に上空の翼竜に自軍の魔導士の射程外から火弾を一方的に受けある者は焼かれある者は落馬したところをついばまれなす術もなくローアンの時と同じように殺られていった。
しかしそこからローアン王都と展開が違っていた。
「仕方ない。あれを出せ!」
物見の塔から観戦していたシュルト王の命令一下城門が開き金属製の巨人が現れる。
全長30mを越える巨人がギチギチと音をたてて歩き始めた。
速度は人の歩く程度だがその巨体ゆえに迫力がある。
翼竜もそれに気付き殺到してきた。
「やれ!遺失兵器機神よ!」
機神の身体の各所にシュコンと穴が開いた。
カッカッカッカッカッと歯車が回る音がしてその穴から丸い石の砲弾が射出された。
密集していた翼竜は避けきれず貫かれていった。
砲弾をすり抜けた翼竜達がなんとか機神に取りついていく。
しかし機神には嘴も脚爪も効かず逆に両サイドのアームで掴まれ引き千切りられていった。
アームには人間の間接のような制約はなく自在に曲がり背中に取りついた翼竜も同様に処理していった。
「ワハハハッ!どうだ!古代遺跡から発掘した異世界人が作ったとされる機神の力は!」
翼竜達は一旦砲弾の射程外まで退き火弾を放ち始めた。
機神からカチカチカチと音がして砲弾の射出口からシャワーのように水が噴き出す。
火弾は水のバリヤーに威力を減衰され弱弱しく機神の装甲表面で弾けて消えていく。
「クククッ、古代の異世界人も火弾の対策ぐらいはしておるわ。ガハハハッ!」
シュルト王の高笑いが聞こえたのか何頭かの翼竜が物見の塔に火弾を放つが窓に鉄板が下りそれを弾いた。
むきになった翼竜達に数百頭が加わり火弾を放ち続けた。
塔の周辺が灼熱地獄になり中の人間は蒸し焼きになったと思われた。
「ワハハッ!貴様らごときに殺られる儂ではないわ!」
今度は王城の各所からシュルト王の挑発する声が響いた。
実は物見の塔には昇降機がついており鉄窓を閉めると同時に急速下降して地下通路を通じて移動していたのだった。
城壁に取りつかれた敵からの火弾に対する備えと物見の塔からの連絡員の移動時間短縮のための備えが思わぬところで役に立った形である。
翼竜達は王城全体に火弾を放ち続けるが火攻め対策が講じられている広い王城には効果が薄かった。
機神も無数に放たれてくる火弾によく耐えていた。
が異変が生じる。
機神から噴き出していた水が途絶えたのだ。
魔導石式では魔力が足りないため全機械仕掛けである機神から放出される水は内臓タンクから供給される。
これ程の火弾の猛攻は考慮されていなかったため内臓タンクの水が尽きたのだった。
尚も執拗に放たれる火弾によって中の操縦者や乗員は蒸し焼きになっていた。
それでも攻撃は終わらずやがて機神は赤熱化して融けていった。
「ああ、儂の機神がぁ・・・」
他の物見の塔から今度はこっそりと覗いていたシュルト王が情けない声を上げた。
そして翼竜達は火弾の効果が薄く手間のかかりそうな広い王城は後回しすることにしてくるりと向きを変え王都中に散らばっていった。
先に無防備に近い王都の住民を襲った方が効率的と判断したためであった。
「おい!こら!ちょっと待て!」
王の引き止める声が虚しく響く。
再び王都の住民が襲われ始めた。
とその時王都の外から轟音が響いて近づいてきた。
翼竜達も一斉に音源の方を向いた。
しかしその時には既に翼竜の群れの中を一直線に小さな人間程の物体が通過していた。
その物体が通り過ぎた後にはズタズタに引き裂かれた百頭以上の翼竜の肉片が飛び散っていく。
物体は大きく旋回しながらも二度三度と翼竜の群れに突っ込んでいき肉片を増やしていく。
翼竜はその速さについていけず一方的に蹂躙されていった。
やがてその物体は空の一点に停止した。
「少しは蹂躙される側の気持ちが分かったか」
宙に浮かぶ勇気の姿。
その両腕両脚には金属製の円筒が装着されていた。
『ギーッ!』
数百頭の翼竜達が勇気に向かっていく。
「遅い」
勇気は高速機動でその翼竜達の間をすり抜けていた。
翼竜達は刹那のすれ違いにやはり反応出来ず又細切れの肉片となって散らばっていった。
「さあ、どんどん掛かってこい!全部まとめて相手をしてやるぞ!」
全ての黒い翼竜がその挑発に乗るかのごとく向かっていく。
勇気に接近戦を挑むものはその高速機動についていけず瞬時に細切れの肉片となっていった。
仲間の巻き添え覚悟で放つ火弾も異常な速度で移動する勇気を補足出来ず仲間の犠牲を増やすだけだった。
「さて一気にいくか」
勇気は両腕を横に上げる。
火炎大剣
両腕から10m程の長さの炎の大剣が伸びた。
そして回転しながら翼竜の群れに突っ込んでいく。
炎の竜巻に巻き込まれた翼竜達は瞬時に燃え尽きていった。
炎の竜巻は縦横無尽に空を駆け巡り翼竜達を呑み込んでいく。
あらかたの翼竜を喰らい尽くすのに大して時間は掛からなかった。
僅かな生き残り達が四方に逃走を始める。
「逃がさん」
今度は腕を下した姿勢になり頭上に傘のような円錐の魔力力場を展開し速度を上げた。
爆音がしやがて音の位置と勇気の姿がズレ始めた。
逃走していた翼竜達にあっさり追いつき体当たりを掛けていく。
最初の時と同じように翼竜達は円錐に触れると同時に四散していく。
全ての黒い翼竜が殲滅され勇気は北の空に飛んで去っていった。
「あれはなんじゃ」
一方的な殺戮戦になった時から呆然と見ていたシュルト王が口を開いた。
「“殺戮の戦鬼”ではないかと・・・」
付き添いの大臣が恐るおそる見解を述べた。
「奴め強大な魔法に引き続き空まで飛べるようになったのか!」
「そのようです」
「くそう、ならばこっちも飛行魔道具を作ってやる。国内の魔導師、錬金術師、魔法鍛冶職人を集めろ!予算は幾ら掛かっても構わん!」
「陛下、お待ちください!今回の黒い翼竜の襲来で王都の被害は甚大、奴らの侵攻ルートの街や村も只では済んでいないでしょう。国土の復興が先です。何より財源がありません。我が国は経済破綻寸前なのです。お止めください」
「離せ!やるったらやるのだ~!」
取り縋る大臣を振り祓おうと足掻くシュルト王の絶叫が木霊する。
この王も懲りることはなさそうだ。
数日後大臣全てが物理的に首を掛けて説得した結果踏み留まったそうである。
めでたし、めでたし?
鉄腕アトムかイクスバーナーか。
因みに機神は有人兵器で動力は人力です。
人力を動力に歯車とばねを使って歩行、射出口のシャッターの開閉、投石、機構切り替え、放水ポンプ等を動かす異世界仕様の巨大學天則です。
操縦者以外にも動力要員が乗っていて懸命にペダルを漕いでいました。
魔導石をどんどん交換していく方式なら操縦者一名と魔力力場であらゆる攻撃を弾く不思議仕様にも出来るのですが建造した古代文明の予算的都合で全機械仕掛けになっているという設定です。




