15 竜は集うⅡ
構成の都合で前章の章番号を変更しました。
『『ギャ!ギャ!ギャ!』』『『ギャウ!』』『『ギ、ギ、ギ・・・』』
ローアン王城の外ではけたたましい鳴き声が多重音で響き渡っていた。
ガッ!ガッ!ガッ!
王城の正面の大扉が嘴や脚で突かれたり蹴られたりしている。
その音が王城中央の地下にある要人専用の避難部屋まで響いていた。
音が響く度に室内の人間達は押し殺した小さな悲鳴を上げている。
「シュ、シュルト王国からの救援はまだ来ないのか!」
「陛下、落ち着いてください。この状況では王城から出た急使は王都からすら出れたかどうか。それに例えこちらの要請が届きシュルトが救援軍を派遣してくれたとしてもヤツラには敵いますまい。今はじっとここに立て籠もり事態が好転するのを待つしか」
恐怖に顔を歪ませ叫ぶローアン王を大臣の一人が宥めた。
「待ってどうにかなるのか?」
「幾度も黒き魔物を退治している“救世の勇者”様ならあるいは・・・」
「都合のいいことを抜かすな。レインディア王国からトカゲ人を連れて逃げ込んできたシュルト王国の手の者を通り抜けさせレインディア側からの捕獲要請を蹴った我々のためにレインディアと友誼を結んでいる勇者が助けになどくるものか。お前らが黒き魔物などトーアとシュナの戯言、シュルトに従うべきだと言ったのではないか。それを今更・・・」
「しかしあの時シュルト王国は旧ラード王国を併合し富を収奪して自国を富まし飛ぶ鳥を落とす勢いだったのです」
「だが実際にはあの黒い翼竜どもに敵わないとお前自身が言ったではないか」
「それは言葉の綾でございます」
ローアン王は目を血走らせ既に正気も怪しくなっていた。
ここ暫くの目まぐるしい国外の情勢変化に後手を踏み続け外交的に追い詰められた挙句この災厄である。
ケチのつき始めはトカゲ人を連れて逃げ込んできたシュルト王国の手の者を通り抜けさせレインディア王国からの捕獲要請を蹴ったことだった。
旧ラード王国を併合して超大国となったシュルト王国の後ろ盾を当てにして同じ小国とはいえ国力においては二倍の差があり大空洞の開拓で更に増しつつあったレインディア王国に喧嘩を売ったようなものである。
それがいつの間にかシュルト王国が遥かに格下のレインディア王国に謝罪と賠償を行い責任者のクロフト伯爵も子爵に降格され自死したこととなっていた。
上った梯子を外されたようなものである。
それでも尚シュルト王国の後ろ盾を当てにしていた。
だが旧ラード王国駐屯軍がラード王家の唯一の生き残りのデリラ王女を旗頭に決起した反抗軍に大敗しラード王国を再興されてしまい更にシュルトの再侵攻軍も壊滅した。
既にシュルト王国にかつての勢いはなく国内経済も悪化し周辺の属国に過大な上納金を要求する始末であった。
属国であるローアン王国も国庫を空にし王家の財宝まで差し出さされた。
それだけでも十分悪夢を見ているようであったが更に特大の厄災が王都を襲った。
黒い翼竜の大襲来である。
王都の西方の遠く離れた魔竜山に生息し周辺の領域の外には出て来なかった翼竜が本来灰色の体色を黒く染め突如襲い掛かってきたのだ。
数千頭の黒い翼竜が王都上空に現れ火弾を撒き散らしながら街を焼き払い逃げ惑う住民達をついばみ喰らっていった。
王城から騎士団も出したが地上を闊歩する翼竜に辿りつく前に上空の翼竜にこちらの魔導士の射程外から火弾を一方的に受けある者は焼かれある者は落馬したところをついばまれなす術もなく壊滅してしまった。
その時点でローアン王は民を見捨てシュルト王国に救援依頼の特使を送り城門と王城の正面の大扉を閉ざし籠城する決断を下した。
大量の避難民を受け入れていれば翼竜に城内に入り込まれるかもしれず又籠城するための食料も足りなくなるためであった。
これにより王城に逃げ込もうとしていた多くの住民が城門前で翼竜についばまれ命を落としていった。
翼竜達は数日は守りの固い石造りの王城を放置し王都の住民達の家屋を漁り隠れていた住民達を喰らっていた。
そして住民達を喰らい尽くし王城に押し寄せてきた。
日夜王城の正面の大扉を打ち壊そうとする翼竜達の立てる音に城内の人間は疲弊の極地にあった。
しかし最悪な事態はそれで終わりではなかった
ドコーン!!と大きな音と共にギッ、ギッ、ゴッ、ゴッと唸り声が城内に入ってくる。
ついに正面の大扉が繰り返された翼竜達の攻撃に耐えかね破壊されたのだ。
使用人と近衛兵達の悲鳴と雄叫びが暫く響いた後城内から人の声が消えた。
翼竜の唸り声だけが城内に響き渡る。
やがて唸り声は地下にある要人室の前まで近づいてきた。
室内の要人達は息を呑んで身を潜めていた。
一旦近づいた唸り声が少し離れる。
難を逃れたと思った人々は安堵の吐息を漏らした。
ドン!!
次の瞬間もの凄い音と共に扉が弾け飛び翼竜の鋭い牙が並んだ黒く巨大な嘴が覗いた。
室内に通常よりやや小型の黒い翼竜が入ってきた。
王妃や王子・王女達、大臣達は悲鳴を上げた。
室内に残っていた五名の近衛兵達は決死の覚悟で突っ込んでいくが全員翼竜の嘴に薙ぎ払われ倒れたところを鋭い脚の爪で引き裂かれていった。
ローアン王はその間に王族専用の隠し通路の扉を開きその中に飛び込んだ。
少し遅れて王妃や王子・王女達、大臣達が続こうとしたが隠し通路の扉は無情に閉まってしまった。
「陛下!陛下!お開けください!」「貴方!貴方!」「父上!父上!」
助けを求める声が隠し通路まで響いてくるが鍵を閉めローアン王は恐怖に追われるように奥へ奥へと走っていった。
既にローアン王の理性は要人室の扉が弾け飛んだ時に一緒に失われていたのだった。
「ハァハァ・・・」
逃げることだけが頭を占めているローアン王は息を切らしながら走り続けやがて出口に辿りついた。
出口の扉を開けるとそこは王都から少し離れた森の中だった。
理性を失ったローアン王はそれでも恐怖から逃げ切った安堵感でケラケラ笑い始めた。
そしてその背後にバサッと羽音がして死が舞い降りた。
長期に渡るストレスは人間を壊します。




