14 竜は集うⅠ
今回は分割方式です。
新世歴217年2月、北方の小国レインディアに現れた雪男の“救世の勇者”による討伐と続いて発見された極北の山脈の中の大空洞、その中で生存していた遥か昔に滅びたとされるトカゲ人に1月のキマイラ騒動に引き続いて世界の人々は驚愕に包まれた。
それだけに留まらず8月には旧ラード王国のガイエス辺境伯領よりラード王家の唯一の生き残りであるデリラ王女が決起、一万の寡兵で駐留シュルト軍二万を打ち破り占領された時と同じ僅か一ケ月で国土を奪還しラード王国を再興、シュルトの再侵攻してきた精鋭の騎馬軍団三万を殲滅と世界の人々は驚かされ続けた。
多くの人々はさすがにこれで暫くは世を騒がす事件もないだろうと思っていた。
しかしその人々の思いを他所に世界はいきなり存亡の危機を迎えることになる。
『グルルル・・・・』
鋭い牙が並んだ黒く巨大な嘴が目の前に迫っていた。
生臭く鉄臭い呼気が吹き込まれてくる。
「ヒィ!!」
妹が恐怖に小さな身体を強張らせしがみついてくる。
オレも恐怖に泣き叫びたかったが幼い妹をこれ以上恐がらせないようにしっかりと抱き返す。
オレ達は少しでも巨大な嘴から逃れようと後ろの壁に身体を押し付け張り付いていた。
どうしてこんなことになったんだろう。
父ちゃん母ちゃん、村の皆はどうなったんだろう。
恐怖と疑問がグルグルと頭の中を巡るが答えは出ない。
ほんの数刻前までは村は平和だった。
母ちゃんは朝飯、父ちゃんは畑に出る準備をしていた。
オレも畑で手伝いをするため準備をしていた。
妹は拙い手つきで母ちゃんを手伝っていた。
『ギャオーン!!』
突如村の上の方から鳥の鳴き声と獣の唸り声を合わせたような吠え声が聞こえた。
窓から見える隣の家が何かが弾けるような音と共にボウッと燃え上がる。
「か、火事だ!!」
父ちゃんと母ちゃんが家を飛び出した。
オレは妹の手を引いてその後を追った。
しかし外に出たオレ達は隣の火事など目に入らなくなっていた。
空を舞う数十頭の巨大な鳥のような何かに目を奪われていたのだ。
村のあちこちで火の手が上がっていたがオレ達も近所の皆も呆然と空を見上げていた。
「なんで翼竜がこんなところに・・・」
父ちゃんが空を見上げたまま呟いた。
オレはそれらが翼竜であること知った。
ここよりもっと西のこのローアン王国の王都の向う側にある高い山を根城にしているとは聞いていた。
この村から出たこともなくあまりにも遠くの話しのため別世界のことのように思っていた。
それが今オレ達の頭の上を飛んでいた。
オレ達が茫然と見上げていると翼竜達は一斉に村に降りてきた。
オレ達は突風に転がされ次に見上げた時には向かい隣のオバちゃんの身体が一頭の黒い翼竜の巨大な嘴に挟まれていた。
「ギャー・・・」
オバちゃんの悲鳴は丸呑みされ消えっていった。
周りからも同様の悲鳴が聞こえてくる。
恐ろしさが固まっていた身体を動かした。
さっき転がった時に父ちゃんと母ちゃんを見失っていた。
仕方なく手を離さなかった小さな妹の身体を抱きかかえて街道に続く道の方に逃げようとした。
しかしそっちにも翼竜が現れ逃げていた近所の人をついばみ始めた。
オレは恐ろしさのあまりガタガタ震えながらも反対側に逃げた。
家の中に逃げ込んだ人は屋根や壁をあっさり壊され喰われていった。
オレは物陰に身を隠しながら逃げ続けた。
妹はオレの腕の中で恐ろしさに身を縮めていた。
オレはその体温に力づけられながら必死に逃げ続けた。
やがて村の裏手の山の前に出た。
『ガオー!!』
翼竜の一頭がそのオレ達を見つけこちらに向かってくる。
でかい図体で地上を走っているのに人より速い。
オレは裏山の下に子供しか入れない小さな洞穴があるのを思い出してそちらに走った。
後ろから迫る足音。
恐ろしさにしゃがみ込みたくなるがギュッとしがみついている妹の存在がオレの足を止めさせなかった。
ぎりぎり洞穴に辿りつき滑り込んだ時には背中に翼竜の噛み合う嘴が掠っていた。
オレ達は洞穴の奥の壁まで逃げ込んだが翼竜は諦めず嘴を入り口に突っ込ませ続けている。
すると少しずつ洞穴の入り口の土が崩れて広がり始めた。
鋭い牙が並んだ黒く巨大な嘴が段々迫ってくる。
既に触れんばかりになっていた。
翼竜は最後の一突きを入れるため頭を少し後ろに下げた。
あの嘴ならオレ達二人ぐらい簡単に串刺しにしてしまう。
オレは嘴が迫ってきた瞬間目を閉じた。
「・・・」
しかし最後の一突きはいつまで待ってもこない。
オレは目を開けた。
目の前の嘴がズルズル後ろに下がっていく。
翼竜の嘴が入り口から抜けると若い人間の男の顔が覗いた。
「おい、大丈夫か?」
鋭い目つきをしている若い男が聞いてきた。
「ヤツは、翼竜はどうなったの?」
「俺が倒した。村の中にいた他の翼竜もな」
「ほ、本当?」
「自分の目で確かめればいい」
男は顔を引っ込めた。
オレ達は恐る恐る外に出ていった。
洞穴の前には翼竜の首が胴体と離れて転がっていた。
村の方も炎が燃え盛っていたがそれ以外は静まっていた。
「他の人は?」
「そっちは間に合わなかった。村人はお前達を除いて全滅だ」
「そんな・・・、父ちゃん!母ちゃん!」
オレは村の方に走り出そうとした。
しかし男に腕を掴まれ止められる。
「気持ちは分かるがそんな暇はない」
「離せよ!俺は父ちゃんを母ちゃんを助けるんだ!」
「あっちの空を見てみろ」
暴れるオレを押さえて男は指差した。
その方向の空に黒い塊がありそれが段々大きくなっていた。
「あれは・・・」
「黒い翼竜の群れだ。あれだと千頭ぐらいはいそうだ。こちらに向かってきている」
「そんな・・・」
「その子はお前の妹か?お前が死ぬのはお前の勝手だが妹まで巻き込むつもりか」
「クッ・・・」
オレは暴れるのを止めた。
「シオン!この子らを頼む」
馬に乗ったキレイな女の人がこちらに近づいてくる。
「構わないがお前はどうする?」
「俺は残ってヤツらの足止めをする。国境で落ち合おう」
男はオレ達を軽々と持ち上げ馬上に乗せた。
女の人が片手で俺達を抱く。
「分かった。こんなところで死ぬなよ」
「当たり前だ。俺は勇者様だぜ。この程度で死ぬかよ。さあヤツらに補足される前に行け」
女の人は頷き馬を走り出させた。
オレは驚いて男の方を見て尋ねた。
「あれが“救世の勇者”様なの?」
「そうだ。かっこいいだろう」
「うん・・・」
オレはたった一人であの黒い翼竜の群れに向かっていく男の姿を目に焼きつけていた。
第一部完。
主人公が強大な敵に挑んで消えていくEND。
今回登場の兄の名前はリュウ(十歳)、妹の名前はミュウ(六歳)です。
第二部、辺境の少年編をお楽しみに。
冗談です。




