小話13 王の鬱憤
次章が納得の出来るものにならないので取り敢えず小話を入れます。
「何!黒騎士が死んだだと!!」
シュルト王が諜報部門の長に問い返した。
先の敗戦はシュルト王国に暗い影を落としていた。
繋ぎとはいえラード駐屯軍二万の壊滅に次いでシュルトで立て直しが済んだばかりの精鋭の騎馬軍団三万が全滅させられラードは完全にシュルトの手を離れてしまった。
多数の国軍だけではなく大陸の中央に位置しシュルトが覇権を握るための重要な橋頭堡であり又搾取しシュルトを富ます糧でもあるラードも失ってしまったのだ。
ラードからの収奪をあてにして膨れ上がった国内経済への影響も多大で財政破綻も避けられない状況であった。
それら全ての元凶がラードの黒騎士であった。
“殺戮の戦鬼”を陥れるために使い捨てにしたはずのデリラ王女を擁立しシュルト軍を悉く破りラード王国再興を果たした立役者。
その素性も経歴も名前すらも分からず数々の奇怪な魔法を操りシュルト軍を壊滅に追いやった黒騎士が斃れたのならば残った戦力でラードへの再侵攻も可能である。
シュルト王は八方塞がりの状況に光明が見えた気がした。
「いえ、胸を剣で貫かれ王城に辿りついた後遺言を残して動かなくなっただけで死んだかどうかの確証はございません」
「胸を剣で貫かれ動かなくなったのであろう?ならば死んでおるではないか」
「それが玉座の横に座り動かなくなった黒騎士の兜をラード女王が取ると中が空だったそうで」
「死体を抜き取って鎧だけ座らせたのではないか?」
「それがその直前まで自分で歩いて椅子に座ったのが確認されておりまして」
「むう、面妖な。しかし遺言し動かなくなったのなら死んだのであろう。ヤツさえおらねばラード軍など怖れるに足らん。ラードを再び手に入れる好機だ」
「しかし遺言でラードに国難ある時再び目覚めると言っております。寝た子を起こすことになるのでは」
「死んだ者は蘇らん。死者の影に怯え好機を逃すなど愚の骨頂だ」
「しかしそう簡単にはいかない事情がありまして・・・」
「なんだと?」
諜報部門の長はその理由を説明した。
黒騎士の兜を取り中が空であったのを確認した時全ての契約は終わり二度と会えないのではないかと思っておりました。
「・・・なのに何故、貴方方はここにいらっしゃるのでしょう」
王城の一角、貴賓室ですっかりくつろぎ双子メイドにお茶を用意させ優雅にティータイムを楽しんでいる勇気とシオンにラード新女王は詰め寄った。
「そりゃあどこで発生するか分からない次の“世界の危機”に素早く対応するには大陸の中央に位置するこの国が一番都合いいからさ」
「もう二度と会えないかもと感傷に浸っていた私がバカみたいじゃないですか」
「アハハッ、そんなに私達を慕ってくれていたのかい。暫くシュルトも悪い虫が収まらないだろうから牽制のためにもここにいた方がいいのさ。どうせシュルトには間諜を通して筒抜けだろうから特に内外に対して宣伝する必要もないよ」
「そんな深慮遠謀があったのですか・・・」
「いや本音を言うと俺はレインディアやシュナ辺りに行くと土木工事をさせられそうなのでここに避難しているだけだ」
「私もここの地酒が気にいったから暫くいようかと」
「・・・やっぱり簡単に人の言う事を信じてはいけないのですね」
ラード新女王は又一つ成長した。
「・・・つまりラード新女王と“殺戮の戦鬼”は和解し今現在ラード王城に滞在中なのです。この状況で再びラードを攻めるとトーアの時と同じで一旦敵対した相手でも和解がなれば助けたように今度も我が軍を阻むのは必定。手を出すのは無理でしょう」
「ぐぬぬ・・・」
かくしてシュルト王の野望は未然に防がれたのであった。
信じる者は救われず。
捕らぬ狸のちゃぶ台返し。




