小話12 黒騎士の鎧
次章の伏線です。
「・・・剣で胸を貫かれたまま黒騎士は王城に戻ってきました。戦に勝利し自らの主君の元に戻るとの約束を果たしたのでした。玉座の横に座し永遠にラードを守る誓いを立て黒騎士は動かなくなりました。その兜を女王様が取ると中はなんと空だったのです。数百年を経て精霊が宿った鎧が絶世の美貌の持ち主である王女であった頃の女王を見初め王国再興に手を貸しただのシュルトに処刑された王太子が亡霊となって鎧に宿り生き残りの王女を支えて王国再興を果たしただの様々な噂が囁かれましたが事実を知るはずの女王様はその美しい顔に憂いを浮かべるだけで黙して語らなかったそうです」
鍛冶手伝いのイルザが近所の子供におとぎ話しをしていた。
男の子は黒騎士の英雄譚にワクワクし女の子は美しい女王様と黒騎士の関係にドキドキしているようだった。
昨今では噂を聞かない“救世の勇者”様より流行りだそうだ。
しかしイルザは黒騎士の鎧に夢もロマンもないのを知っていてよくも話しを盛れるものである。
魔法鍛冶職人であるダンは呆れながらイルザ達を見ていた。
ここはトーア王国の再興したラード王国との国境にほど近い街にある魔法鍛冶工房であった。
職人は中年のダンと年若い女弟子のイルザの二人だけであったがトーア王国一の魔法鍛冶工房と噂に高く引っ切り無しに訪れる金満貴族の相手が嫌になって情勢が不安定で人口が減っていた辺境地方のこの街に引っ越してきたのだった。
魔法鍛冶職人というのは魔道具の土台を作る職人で魔導石の魔力を受け魔法を発動する魔剣であれば剣の部分を魔装鎧であれば鎧の部分を担当している。
因みに魔導石は錬金術師の領分であり如何に大きな魔力を魔導石に封入出来るか日夜研鑽している。
魔導石に封入される魔力の大きさが魔道具で発動する魔法の強さになるため魔力の大きな魔導石の需要はうなぎ上りだが錬金術師が自分の魔力を封入する文字通り命を削る製造法のためこんな辺境地方の街ではあまり魔導石が出回らず従って魔法鍛冶職人である彼らも暇をしているのであった。
それでも一ケ月に一度くらいは王都から魔導石持ち込みで高価な魔道具の作成依頼が来るため生活に困ることもなく普段は開店休業状態でのんびりとしていた。
ダンは黒騎士の鎧の話しを聞きながら数ケ月前のことを思い出していた。
「魔法鍛冶職人のダン殿はおられるかな」
身なりのいい上級文官らしい男が店に入ってきた。
皮鎧を着て腰に剣を差した目つきの鋭い若い男と魔導師のロープを纏った美人を連れている。
護衛にしては若い男は上級文官より偉そうな雰囲気をまとっていた。
「俺がそうだよ」
「貴殿が王国一の魔法鍛冶職人のダン殿か。お初にお目に掛かる。私はこの辺境領の代官をしている者だ。至急の仕事を頼みたくて伺った」
「フーン、お代官様か」
王都では大臣クラスの貴族まで直接依頼に来ていたから今更領主の代官クラスでは驚くこともない。
「でどんな仕事だい」
「こちらの方に鎧を一つ大至急で作ってもらいたい」
「期間はどのくらいだ?」
「三日で頼む」
代官が鎧を作ってくれと頼んだ若い男がずいと割って入ってきた。
近くで見ると顔は思ったより若い感じだがその目は相手を射抜くように鋭い。
「無理だ、無理だ。普通の鎧でも一週間は掛かる。魔装鎧なら一ケ月あっても足りねぇ」
「作ってもらいたいのはこれだ」
若い男はこちらの否定の言葉を無視して話しを進める。
美人魔導師が紙の束を渡してきた。
魔装鎧の設計図だ。
ダンは勝手に話しを進める相手に不快そうな顔をしながら職人的興味からじっくりと眺める。
「な、なんだこりゃ!?」
構造と機能を理解して驚きの声を上げた。
「魔力による多関節駆動どころか指先まで動かし動歩行までするだと。そんな贅沢な魔力の使い方をしたら一瞬の内に魔導石の魔力が尽きるぞ。しかも魔導石の設置場所も見あたらない。それにこの無数に開いた小さな穴はなんだ?こんな位置に設置しちゃ呼吸穴にも使えない。各関節の余計な装甲もなんなんだ?これじゃかえって動きを阻害し重量が増えて魔力ロスも大きくなる。普通魔装鎧といえば耐衝撃や耐火をつけるだけでしかも魔導石の魔力があっという間に尽きるから一撃凌げればいい方だ。一体どういうつもりでこんなハリボテを高い金掛けて作るんだ?」
「俺がそれを着て実戦に出る。魔力は俺から直接供給する」
「バカ言え、こんなもんに魔力を流し込んだら一分もしない内に枯れ果てて死ぬぞ。ましてや戦闘なんぞ出来るはずがない」
「信じられないならなんでも試してくれればいい。その代わり納得したら三日で頼む」
「よし、わかった。イルザ!魔力の計測器を持ってきてくれ」
「はーい」
店の奥からイルザが計測器を持って出てきた。
計測器は重量計のような形で上部に金属棒がついていた。
「この棒を握って魔力を込めてくれ。普通の人間なら一目盛り、魔導士で十目盛り、魔導師で二十目盛りが目安だ。この鎧を魔力で一分直接動かすだけで軽く二百目盛り分は必要だ。目盛りは二千目盛りまであるから力一杯やってくれればいい」
「力一杯だな」
若い男はニヤリと笑い金属棒握った。
次の瞬間目盛りを示す針が凄い勢いで回転し二千目盛りを越えて吹き飛んだ。
「な!なんだと!目盛りは二千目盛りまでだがその十倍以上の魔力が掛かっても壊れるはずがない計測器が壊れただと!最低でも二万、実際はそれ以上の魔力を持っているってことだ。お前一体何者だ」
「名乗るほどの者じゃない。約束は守れよ」
若い男はさっさと出ていこうとした。
「ちょっと待て!」
「なんだ?」
男は振り返った。
「力一杯やれとは言ったが壊していいとは言っていない。計測器の弁償代を払っていけ」
「・・・」
「クククッ」
ダンはあの時の若い男の戸惑った間抜け面を思い出して含み笑いをした。
まあその後完徹の突貫作業で地獄を見たがそれなりの成果は上げたようだ。
ラードからの難民の流入も止まりこの街でも路上で魂が抜けたように座り込んでいる者もいなくなった。
ラード王国からの要請にトーア王国が応じ本国に送り返したらしい。
租税が軽くなって民の暮らしが楽になり国土の復興も急速に進み働き手が幾らあっても足りないらしい。
国境の緊張状態も無くなりこの街にも多くの住民が戻ってきている。
中々いい仕事をした事にダンは満足していた。
二度とあの地獄は味わいたくはなかったが。
そしてふと店の前を見るとあの時の若い男が美人魔導師と共に店の前に立っていた。
「よう、ダン。又急ぎの仕事を頼みたいのだが」
「勘弁してくれ!」
ダンは頭を抱えた。
イルザちゃんはそばかすのある可愛い娘さんです。




