小話8 悪魔の財政再建
ラード王国の財宝ネタは引っ張るほどのものでもないのですが何故か引っ張り続けております。
「お金がありません」
切羽詰まった顔でラード新女王が言った。
「やっと気付いたか」
俺が返す。
「分かっておられたのですか!?」
「前にシオンが一ケ月で足りなくなるって言っていただろう」
「でもその前にラード王国の財宝を放出してくださると仰っていたでしょう。未だに出される様子がありませんでしたのでまだ余裕があると思っていたのです」
「俺の方はそっちが正確に状況を判断するのを待っていただけさ。俺達はいずれいなくなる。国の最高責任者になった以上文官から上がってきた情報を自分で理解し判断出来なければ国家の運営なんて出来ないからな。そのためにシオンから教えを受けたろう」
「確かに教えを受けていなければ国家が財政破綻していても気付けなかったでしょう。これほど国家運営にお金が掛かるものとは知りませんでした。特に戦費が致命的です。危うく臣下を謀殺しまくった残虐非道な女王としてだけではなく財政破綻させた愚かな女王としても歴史に名を残すところでした。ハッ!?まさかそれが本当の狙いですか!ラード王国の財宝を出さずに自滅させ歴史に悪名を残させるという」
「それも魅力的な方法だがね。そんなことはしないさ。国家規模の財政破綻を起こしたら民に被害甚大だから契約に反する。やるなら国家財政に影響が出ない形で王家だけの借金として子々孫々まで貧乏王家にするという案は考えていたがどうやっても子孫の代で国家予算に手をつけて悪政を招く原因になりかねないからな。最高責任者が公金に手をつけ始めたら倫理低下に歯止めが掛からなくなる。これも民に被害甚大だ」
「もっとえげつない方法を考えてはおられたのですね。本当に油断も隙もない」
「俺に言わせればお前さんは油断と隙だらけだぞ。最高責任者は常に油断なく気を配り失言はせず迂闊な言質は取らせず一旦口に出したことは有言実行する必要がある。でないと民にも家臣にも信用を無くし侮られ国政の舵取りが上手くいかなくなる。諸外国にも信用をなくし侮られ相手にしてもらえなくなるし悪質な謀略を仕掛けられやすくなる。下手をすれば相手を激怒させて要らぬ騒乱を招くことにもなる。重々気を付けることだ」
「はい・・・」
「それでは俺はこれで行かせてもらうぞ」
俺は席を立ち執務室を出て行こうとした。
「ハッ!?待ってください!まだ用件の方が済んでいません!」
慌てて呼び止められた。
チッ、少しは成長してやがる。
「フフフッ、合格だ。よく誤魔化されなかったな」
「貴方の方こそ適当なことばかり言っていると信用をなくしますよ」
「俺の信用はストップ高だぞ?人だろうが魔物だろうがあらゆる敵を打ち倒し世の人々の窮地を救って歩く清廉潔白完全無欠の“救世の勇者”様とは俺のことだ」
「その清廉潔白な勇者様が年端もいかぬ少女二人を寝所に引き込んでいたのはどういうつもりだったのでしょう」
あ、蔑む視線が痛い。
しかもシオンと違って勘違いした方向で蔑んでいるし。
メイド文化の普及の道は遠い。
アンナ仕込みの完璧な礼儀作法と持前の可憐さ、そして何よりメイド服の素晴らしさを世の人々に見せつけるために彼女達を連れ歩いているというのに。
「それは本当に誤解だぞ。彼女達は元々俺の嫁(元の世界での意味合いとは違うぞ)で手を出しても問題ない相手だ。それに手を出して否定することはない。俺の守備範囲は十六歳以上だし」
「本当でしょうか?」
あ、本当に信用がない。
「コホン、他に用がないなら行くぞ」
俺は再び執務室を出て行こうとする。
「同じ手を二度使わないでください」
今度は冷淡に止められる。
成長著しい。
「ああ、ラード王国の財宝の件な。あれは必要なくなった」
俺はドタドタと近づいて来る文官の足音を感知して言った。
「女王陛下、黒騎士様、大変です!各地の代官達から金銀財宝がドンドン送られてきています!」
俺は受け入れて順次国庫に収めて経理処理を行っていくよう命令した。
文官は慌てて指示を実行するために出ていった。
「ほらな。これで財政難は解決だ」
「どういう魔法を使ったのです?」
「俺が先日まで地方に出張って反抗していた代官や諸侯の遺族達を自裁させて回っていただろう。その前に他の代官達に俺の名で書状を送っていたのさ。諸侯の私財を保全して王都に送れってな。でないと俺が視察に行くぞって。その後反抗していた代官達の自裁の情報が流れたんだ。そりゃ送って来るだろう。逃げ出した諸侯の遺族達は執務全般を取り仕切る代官より情報を手に入れるのが遅かっただろうから大して私財を持ち出すことも出来なかっただろう。金もない血筋頼りで傲慢なだけの元貴族達、亡命の受け入れ先すらあるかどうか。これで将来の禍根も断てた。代官達は平伏し財政難は解消し元貴族達の禍根も断って俺の個人的な私怨もはらせた。一石四鳥だな」
「本当に悪魔のような方ですね。残された遺族すら徹底的に苛むとは」
「勘違いするなよ。そいつらは民が塗炭の苦しみを味わっている中贅沢三昧をしていたんだ。それはお前も見てきただろう。お前が慈悲を感じなければならないのは虐げられてきた民にであって責任を果たさなかった下種連中にではない」
「・・・はい、分かっています」
「それでは俺はこれで行かせてもらうぞ」
俺は席を立ち執務室を出て行った。
君主のありように思いを巡らしていた新女王はそれを見逃した。
「ちょっと待ってください!ラード王国の財宝はどうなったのです!」
執務室からそんな声も聞こえた気がしたが俺は気のせいということにして立ち去った。
勇気はラード王国の財宝をメイド文化普及資金にするため隠匿する予定です(笑)




