拝啓 何か勘違いしていらっしゃる元王太子殿下様 【第6話】
王国の尊き太陽たる輝きを取り戻した元王太子殿下様。
貴方様の運命の愛を捧げた聖女はわたしじゃありませんし、魔物と化した聖女だってもうこの世にはおりませんよ?
わたしは手紙を書くだけが権能の、セシャトという名のしがない聖女です。
ホント勘弁してください。
公爵令嬢様とデューン様は、魔のモノを討伐してすぐに光の柱の中へ仲睦まじく旅立って行かれましたが、何で貴方様はまだここに居るんですか⁉
しかも入れなかった神殿にちゃっかり入れるようになってるのはどう云うことでしょう⁉
神様の赦しを得た⁉ って、ええ、まあ結果から推察すればそうなんでしょうけど。
王国を危機に陥れた後始末を、ちゃんと貴方様も成し遂げられましたもんね。公爵令嬢様とデューン様の手に手を取った一閃では、斃し切れなかった魔のモノに、自分の危険を省みずに飛び込んで退治に加わられましたもんね。お陰で、貴方様は魂魄の存在も危ぶまれるダメージを受けながらも、騎士や魔術師の被害は随分と少なく済みましたもんね。
「王族なら当然のことだ」……って、なんで今更そんなまともになってるんですか。本当に。
「盆暗だから仕方がない」——って!?
わたしと公爵令嬢様とのお手紙を聞いてたんですか⁉ 「本当のことだ」って、ちょ、気まずいですよ。さすがにわたしでも!
とにかく、王族としての誇りを取り戻されたものの、既にこの世に生きる者では無くなった貴方様が取られるべき道は、この王国の守護神を目指すことってとこですか。え? ちがう?
「護りたいものは別にある」ですか?
公爵令嬢様なら、先に逝かれてしまいましたけど。今頃はデューン様とおふたり、来世への転生準備に入られているから、急いで追い駆けないと間に合いませんよ!
違うんですか。はあ、「邪魔者になるつもりはない」と。お二人の気持ちは知っていらしたんですね。それはちょっとだけ意外な事実でしたね。繊細な心の機微を察せる方だったなんて。
「見直したか」ですか? いえいえ、婚約破棄なんてデリケートで私的な問題を公衆の面前で宣言しちゃう暴挙をなさった方とは、とても同一人物だとは思えない改心のしかただなぁと、ちょっと呆れ混じりの感心をしただけですよ。甘ちゃんですね。
「辛辣だな。先は長そうだ」って、何の先でしょう? 守護神を目指すわけじゃないんですよね。
え? 「護りたいのはひとりだ」って。けど公爵令嬢様は……「だから違うって」と?
いやまさか⁉ だめだめだめ、止めてくださいよ! なんでわたしの前で跪いていらっしゃるんでしょうかねぇ? 宣言なんてさせませんよ!
「違う。告白だ」……って余計にまずいじゃないですか!
聞きません。なーんにも聞きませんよ。
「穏やかで長閑な空気に包み込む『手紙の聖女』の懺悔聞きは、全てを信じられなくなって荒んだ心にじんわりと染み入り、ゆっくりと温めて、頑なな気持ちを解かしてくれた。
そんなセシャトをどうして想わずにいられようか」
なんて、そんなことわたし知ったこっちゃありませんからね⁉
「時間だけはじっくりあるし、君が行くところ何処へでも共に行ける」
って、そうじゃなくって、聖女としては担当した魂魄には逝っていただきたいわけですよ⁉
「わかった」
って本当ですか?
「意地っ張りで、鈍感なふりをする君の心を私が解かしてあげよう」
って、何ですかその寒いセリフは!
「何度も聞かせる、時間なら幾らでもあるから」
って……もぉ、もぉ、勘弁してください! それなら家の中でミシミシめきめき音を立て続けられる方がまだマシですからーーー!
っとに。
貴方様の一日も早い成仏を待ち望んでおります。
万が一、わたしが逝くまで諦め悪く残って居られたときには、貴方様を力尽くでお連れしましょう。
敬具
手紙の聖女 セシャト
拝啓 婚約者を聖女に取られた公爵令嬢様 わたし別口の聖女です
― 完 ―
叶わなかった想いを通じ合わせた公爵令嬢と騎士。新たな想いを見付けた王子と聖女。ふた組それぞれのハッピーエンドは如何でしたでしょうか?
お楽しみいただけましたら、嬉しいです!




