拝啓 ……もとい。 果し状 多情な魔のモノ に告ぐ 【第5話】
そもそも、人でも魂魄でもないアナタに手紙に書いたわたしの文字が届くのか、甚だ疑問ではありますが。書かずにはいられないのですよ。
わたしの気持ちの消化のために。
お目にかかった事はありませんが、わたしはアナタのお陰で平穏無事なノンビリ平坦な生活を、現在進行形で邪魔されまくっている手紙の聖女です。
まずは一言。お恨み申し上げますよ。
アナタが籠絡した聖女のおかげで、公爵令嬢様が命を落とされ、彼女を亡くした公爵家が家名に付いた泥を濯ぐのに躍起になって動いて、ソレにせっつかれた国王陛下と神官長までもが原因追求に躍起となり、結果アナタの存在が明らかになりましたよね。その過程でわたしのお仕事が追加に追加を重ねることになったんですよ! この怠惰で面倒くさがりが服を着て歩いているはずのわたしがですよ! いくらなんでも、わたしの主義を無視しすぎてる今の状況は憤慨ものなんです!!
それもこれも、アナタみたいな魔のモノが気紛れにこの国を狙ったせいで、このわたしの矜持が脅かされてるんです!
だからアナタには是非とも退治されて欲しいものです!!
今わたしたち聖女たちが、アナタの存在に気付いた王国騎士団と魔術師団の連合戦力を以てアナタを討伐しに向かっているわけですよ。何を隠そう、今お手紙を書いているこの場所は、討伐の大部隊の中に有る野営テントなのです。ざまあみろです。
伝わるかどうかなんて関係なしに、とにかく腹立たしいので書かずにはいられないんです。
って、あれ? もしかして伝わりました? 声が――――
貴女の本当の魅力を知るのは俺だけ。俺が真実の愛で君の空虚な心を埋め尽くしてあげよう。愛溢れる君と俺とのふたりの世界へ、俺が君のナカを満たして連れて行ってあげる――――
は? 愛で手紙書きは熟せないし、三度の食事は並ばないし、ましてやおかずは増えない上に、お布団も厚くなりませんが⁉
何より、何も無い平穏平坦なノンビリが良いって言ってるのに、愛なんて面倒を持ち出すとは、アナタ最早わたしの安穏平和な生活をぶち壊すだけの危険因子でしかありませんよね!
そんなんでよく聖女が操れたもんですね。え? 大抵の女はコレで堕ちるのにって、自己評価高過ぎじゃないですか? それに惹かれるモノ、大切なモノはそれぞれですからね。
オモシレーオンナ?
って、なんで元王太子殿下様まで現れて、魔のモノとハモるんですか!
ええっ⁉ 公爵令嬢様に、デュラハンさ……デューン様まで現れてっ⁉
王国騎士団と魔術師団の皆さんまでが、わたしのこの狭い野営テントの中の異変に気付いて、踏み込んできちゃったじゃないですか! わたしの平穏どころか、プライバシーがどっかいっちゃってますけどっ
って、この狭い場所で戦闘なんて始めないでくださいーーーーーー!!!
元王太子殿下様が、わたしの前に立って護ろうと? え? わたし貴方様の「運命の愛の聖女」じゃありませんよ。分かってるって? なら何ででしょう。わたしより婚約者だった公爵令嬢様を護るべきでは?
彼女にはデューン様が居るだろって。そうですね、抜き祓った剣を手にした甲冑姿のデューン様と、凛々しくお顔を上げられた公爵令嬢様が肩を並べて立つお姿……はぁぁあ、お美しいです! 絵になります!! 夢で繰り返し見たいです!
何だか王国騎士団と魔術師団の皆さんの視線が痛いですね。そうでした、魂魄となった皆様のお姿は、わたしみたいな聖女や神官にしか見えていないんでしたね。勿体ないですね。この眼福な光景は、あとで是非お伝えしなきゃですね。
ああ、まずいです! 騎士の剣も、魔術師の魔法も、魔のモノには効いていないですよ⁉
公爵令嬢様とデューン様がお二人、手に手を取って剣を構えて魔のモノに向かって行かれて―――!!!
討伐、成功です!!!!
見事、魔のモノは討ち果たされましたーーーーーーーーーーーー




