拝啓 めんどうな駆け引き好きの公爵令嬢様 【第2話】
まさかのご返信。驚きました。
わたし、これまでの聖女生活で初めての経験です。なにより前回のお手紙で随分と拒絶されたようでしたから、だめだこりゃーとお手上げ宣言を神官長にしたところだったんですよ。「恩知らずと同じ聖女ってところもダメなんじゃないっすかね。趣向を変えて、公爵令嬢様の儀礼を担当して以来何度か交流の機会を持たれた進行神官の方が良いんじゃないですかー」なんて強く強くお勧めしていたんですけど、なんでまたわたしの所に戻って来ちゃっうのかなぁ。
あ、いえいえ。面倒だから放っておこうなんて断じて思ってませんよ。ただ机の上のお手紙道具をぶちまけておいて、しれっとまた近付いて来られてもねー。気持ちが追い付かないんです。
あのときは突き放す素振りをしちゃったけど、実は気になってたの……なんて、駆け引きの好きな貴族のご令息にはうけるかもしれませんけど、わたしは前回申し上げた通り、とことん面倒くさがりな聖女ですから。
まあ、またわたしのところに来られたのも、縁があったってことなんでしょうね。いいですよ。面倒だけど、頼られて悪い気はしませんからね。子沢山男爵家の五女なんて、家族や領民は勿論、他人からの関心を向けられる機会にはとことん飢えてるんですから。だらだら延々お付き合いしましょう。
そう決めたからには公爵令嬢様へのお手紙を続けないとですね。
まずはご返信ありがとうございます。さすが王太子殿下の婚約者様ともなると、素晴らしい教養をお持ちなのですね。わたし、これまでの聖女生活で何柱もの方々にお手紙を出してきましたけど、お返事をいただけたのはこれが初でした。
まぁ、世を隔てた文字は、わたしには解読できませんでしたけど、なんとなく分かりましたよ? 今もわたしがペンを取る横で、予備のペンがヘロヘロな線……絵? いえ、文字……? うん、多分文字を書き連ねているのは、公爵令嬢様がわたしに現世の鬱憤を伝えたいと思われたってことですものね。良い傾向です。このままガンガン言いたいことを言ってスッキリしちゃいましょう!
聞きますよ、恋バナ好きな女子の本質は聖女だって公爵令嬢だっておんなじです。盆暗王太子への文句も鬱憤も、恩知らず聖女への非難も嫌悪も包み隠さずぶちまけちゃいましょう!
遠慮なんてすることないですよ。貴女がこうして聖女のわたしの前に、来られているってことが、既に神様に赦されているってことなんですから。
なんでわたしにそんなことが分かるのかって? そりゃあこんな怠惰に人格を持たせただけの、愚痴を聞いて書き綴ることしか能のないわたしではありますけども!
最初に自己紹介させていただいた通り、聖女ですから。
10歳の時に王都の大神殿に神託が下されるのと同時に、辺境の貧乏男爵家のボロ屋敷に強大な光柱が降りて聖痕が両手に顕れた「手紙の聖女」とはわたしのことです。
書いて、聞いて、読ませて、書き綴る。この世に迷う魂魄の愚痴聞き役。
聞いたことがありますか、そうですよね。良かった、聖女としての知名度が、ちゃんとあって。昼夜問わず突然訪問して来られる皆様の愚痴に付き合った苦労が、ちょっと報われた気がしますよ。
それで愚痴ですね。え? 愚痴はもう大丈夫?
それよりも伝えたいことって……えぇー。公爵令嬢様は、ぐうたらが聖衣を着ただけのわたしに追加の仕事をさせたいと仰るのですか。聖女だからこそ、追加のお手紙書きを頼みたいと。王国の為に……ですか。なら国王陛下への伝言だけで、あとはまるっとお任せした方が良くないですか?
駄目、と。受けてくれなきゃ成仏しないって⁉ はぁ、めんど……いえ、聞きますよ。聞くのは、ご飯と寝床の為のお仕事ですもん。
誰にお手紙をしたためたら良いんでしょうか。
色々悩んでおられるようですが、考えがまとまったら教えてくださいね。
貴女様の一日も早い成仏を待ち望んでおります。
敬具
手紙の聖女 セシャト




