拝啓 婚約者を聖女に取られた公爵令嬢様 【第1話】
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本作は全6話(約9,700文字)。主人公の書く手紙形式で「とある婚約破棄劇」の全容が徐々に明らかになる構成となっております。彼らに何が起こったのか、どうぞお見届けください。
突然のお手紙を失礼します。
わたし身分は聖女でして、名前をセシャトと申します。この度貴女様を担当させていだくこととなりましたので、まずはご挨拶をしたためさせていただきます。
聖女の肩書きなくしては、ただの田舎の貧乏男爵家五女にすぎぬわたしではあります。そんなわたしが、何故やんごとなき御身分の公爵令嬢様へ個人的なお手紙を書く羽目になってしまったのかと言えば、ひとえに国王陛下ならびに神官長様からの勅命という、抗えぬ手段を取られたせいであります。書くのも不敬、書かぬも不敬。とは言え国王陛下はこの国の生きとし生ける者の最高位。こちらとしても断れない力関係のゴリ押しがあったわけです。吹けば飛ぶような下級貴族の理不尽を、どうか笑い飛ばす感じでお目溢しくださいませ。
さて、わたしの仕事における愚痴はこれくらいで、早速本題に入らせていただきます。
王太子妃教育をほぼ終えておられた聡明な公爵令嬢様。貴女様のお名前は、わたしは勿論のこと、神殿に仕える聖女たちの中で感謝の言葉と共に幾度となく話題に上っておりました。
だって公爵令嬢様は、尊き貴族の中では稀有な、貴重な、聖女への多大なる寄付……お心づけを寄せてくださる有難いお方でしたから。神殿の奥深くで、地味な結界や浄化を担うわたしたち聖女にとっては、国王陛下よりも有難い出資元で、女神の如く神々しく有難い存在なのです!
直接ご飯や身の回りに影響の届きにくい見えない権威の守護より、おかずが一品増えて、お布団の綿が厚くなる公爵令嬢様からの寄付こそが正義なのです!
なのにあの盆暗と恩知らずのふたりと来たら……。
ああ、その顛末はすでに儀式の場の進行役神官から聞いてご存知ですね。わたしの役目はそんな形式ばったものじゃないので、肩の力を抜いて、穏やかなゆるーい感じでお付き合いくださると嬉しいです。っていうか、本望なのです。わたしの役割は、愚痴と本音をとことん聞いて、ついでにわたしのも聞いてもらって、互いにスッキリしちゃいましょってことなんですから。
あ、けどスッキリするために奴らの顛末をもう一度聞きたいと仰るのであれば、儀式の進行役神官の居所は神殿内の青の塔3階「言の葉の間」なのでどうぞ。今の公爵令嬢様ならいつでも、どこへだって行けますものね。
困ったものですが、わたしに無茶振りしてくる神官やお貴族様たちも、ちょっとはわたしの苦労を分かったら良いんですよ。ね、だから是非是非、青の塔3階へひとっ飛び行っちゃってくださいませ。
わたしの書く手紙がとりとめなくダラダラと続いて、いったい何が言いたいのかと仰りたいですよね。ところがですよ、この気の抜け具合が良いのです。公爵令嬢様の諸先輩方には、このやり方で好評を博し、光溢れる中での賛辞をいただいておりますから!
騙されたと思って是非お付き合いくださいませ。
おや? インク瓶が倒れましたね。予備の便せんも飛んで行ってしまいました。これでは書けない、いえ、書くなということでしょうか。
ならばわたしもこの辺りでペンを置きましょう。わたし、実は結構な面倒くさがりなんです。自分の意思を貫き通すために、労力を使ったりしません。必ずやり遂げますとか、お任せくださいとか、誰かのためになんて、そんな、面倒なことは大っきらいですから。避けて通れることは、とことん知らんぷりして素通りして、のんべんだらりと寝て過ごしたい人で、聖女だって嫌々やってますからね。
わたしを嫌がる人に何かしたいなんて、欠片も思いませんよ。
では、次があれば。
敬具




