第二話:王血への反乱
「……王家は腐った」
静かにそう言ったのは、若き当主――アレンだった。
彼はライゼル家の城壁から、夜の王都を見下ろしている。
灯りは多い。
だが、そのどれもが“民の希望”ではなく、“支配の証”に見えた。
「準備は整っております」
側近が跪く。
アレンはゆっくりと目を閉じた。
「始める」
それは――
王に牙を剥く、反乱の宣言だった。
同時刻。
王都の北、荒野に築かれた黒鉄の城。
「遅ぇんだよ」
玉座に足を乗せ、酒をあおる男――レヴァル。
クローデル家当主。
野蛮。粗暴。だが――
「王家を潰すなら、最初から全部燃やせ」
誰よりも現実を理解している男だった。
「ライゼルの坊ちゃんは、まだ“理想”を見てる」
部下が苦笑する。
レヴァルは、酒杯を叩きつけた。
「だからいいんだよ」
砕けた破片が床に散る。
「俺が現実をやる」
ニヤリ、と笑う。
「王を殺すのは、どっちが先か――勝負だ」
三日後。
王都近郊――
炎が上がった。
それは偶然ではない。
アレンの軍が、王家の補給線を断ったのだ。
「民を巻き込むな」
彼の命令は徹底されていた。
精密。計算。最小被害。
まるで“理想の反乱”。
だが――
「甘いな」
別方向から、さらに大きな炎が上がる。
村ごと焼かれていた。
「なっ……!?」
アレンの副官が絶句する。
「あれは……クローデル家の旗……!」
黒い狼の紋章。
レヴァル。
「……あいつか」
アレンの目が細くなる。
夜。
焼け跡に、二人は立っていた。
偶然ではない。
互いに、ここに来ると分かっていた。
「やりすぎだ」
アレンが言う。
「効率が悪い」
レヴァルが返す。
「民を巻き込めば、支持は得られない」
「支持?笑わせるな」
レヴァルは肩をすくめた。
「勝てば王だ。負ければ賊。それだけだろ」
沈黙。
価値観が、まるで違う。
「お前とは相容れないな」
アレン。
「最初から分かってる」
レヴァル。
そして――
同時に剣を抜いた。
ガキィン!!
火花が散る。
一撃。
互角。
「……強いな」
「当然だろ」
笑うレヴァル。
「俺は“現実”だ」
押し込む。
「理想だけで王は殺せねぇ」
アレンは、歯を食いしばる。
「……だからこそ」
弾き返す。
「俺がやる」
二人の剣が再びぶつかる。
だが――
その瞬間。
遠くで、巨大な角笛が鳴った。
「王家の本軍……!」
副官が叫ぶ。
二人は同時に、戦いを止めた。
「……チッ」
レヴァルが舌打ちする。
「今日はここまでだ」
アレンも剣を下ろす。
背を向けながら――
「次に会うときは」
「どっちかが死ぬかもな」
レヴァルが笑う。
「楽しみにしてるぜ、“優等生”」
「……お前こそ、“野犬”」
炎の中。
二つの反乱が、同時に始まった。
理想で王を倒す男。
現実で王を殺す男。
そして――
この戦いは、やがて世界を変える。




