第一話:王家の腐敗
「税を、三倍に」
玉座の上で、その男は退屈そうに言った。
黄金に覆われた広間。
だが、その輝きはどこか濁っている。
「……陛下、それでは民が――」
老臣が震える声で進言する。
だが。
「聞こえなかったか?」
王は、笑った。
冷たい笑みだった。
「三倍だ」
その一言で、全てが決まった。
逆らえば――処刑。
それが、この国の“常識”だった。
王都の外。
市場は静まり返っていた。
「……買えねぇよ、こんな値段じゃ」
パン一つが、昨日の三倍。
肉など、もはや貴族の食べ物だ。
「子どもが……」
母親が、腕の中の小さな体を抱きしめる。
軽い。
軽すぎる。
「……ごめんね」
誰も責めない。
責められない。
責めるべき相手は――遠すぎる。
「また、死んだそうだ」
石造りの屋敷。
若き当主アレンは、報告書から目を離さなかった。
「北部の村です。飢えで……」
側近が言葉を濁す。
「数は?」
「……十七」
沈黙。
紙を持つ手が、わずかに強くなる。
「昨日は?」
「二十三です」
減っている。
だが、それは改善ではない。
“もう死ぬ者が減ってきた”だけだ。
「……終わっているな」
アレンは、静かに呟いた。
王都・地下。
湿った石壁。
鉄の匂い。
「離せ……!」
縛られた男が叫ぶ。
ただの農民だった。
罪は一つ。
税を払えなかったこと。
「命令だ」
兵士は無表情で剣を抜く。
「やめ――」
声は、途中で途切れた。
床に落ちる音だけが響く。
それを見ていた別の囚人が、崩れ落ちる。
「……神よ……」
だが、その神は。
もう、この国にはいなかった。
夜。
ライゼル家の塔。
アレンは、王都を見ていた。
光はある。
だが、それは“生”ではない。
搾取の光。
「まだ、耐えろと?」
誰に言うでもなく呟く。
「法に従えと?」
拳が、白くなる。
「……違う」
静かに、だが確実に。
何かが変わる音がした。
「これは、統治じゃない」
振り返る。
側近が息を呑む。
その目は――
もはや、貴族のそれではなかった。
「支配だ」
同じ頃。
王都北方――クローデル家領。
「また増税かよ」
レヴァルは、紙を一瞥して笑った。
「いいじゃねぇか」
部下が驚く。
「いいんですか?」
「最高だろ」
彼は立ち上がる。
「民が限界まで追い詰められてるってことだ」
ニヤリ、と歪んだ笑み。
「爆発する準備が整ってる」
紙を破り捨てる。
「火種は、俺だ」
王城。
宴が開かれていた。
音楽。酒。笑い声。
だが、その全てが虚ろだ。
「陛下、北部の反乱の兆しが――」
報告が入る。
王は、酒を飲みながら言った。
「潰せ」
一言。
「徹底的に」
「はっ」
誰も疑問を持たない。
持てない。
この国は――
もう壊れているからだ。
その夜。
二つの場所で、同時に。
「……やるか」
アレン。
「……始めるぞ」
レヴァル。
方向は違う。
方法も違う。
だが――
目的は同じ。
王家を、終わらせる。
こうして。
静かに、確実に。
“王血への反乱”は動き出した。
誰も止められない。
もう――
止まらない。




