第十二話:黒影の演算
衝撃波が戦場を駆け抜ける。
ドォォォォン!!
兵士たちは立っていられない。
馬が倒れ、旗が折れる。
土煙の向こう。
四つの影だけが立っていた。
アレン。
レヴァル。
セラ。
そして――
王の意志を持つ黒影。
黒影はゆっくりと剣を下ろす。
その鎧には、小さな傷が一つ。
「……傷を付けた。」
セラが息を呑む。
だが。
その傷はみるみる塞がっていく。
「自己修復。」
黒影が呟く。
レヴァルが顔をしかめた。
「ふざけんな。」
「治るのかよ。」
黒影は答える。
「損傷率二・三%。」
「戦闘続行。」
■演算開始
黒影は動かない。
ただ三人を見ている。
いや。
"見て"いるのではない。
「解析。」
「剣技。」
「呼吸。」
「筋力。」
「思考。」
一つずつ言葉を並べる。
アレンの表情が変わった。
「……まずい。」
「何だ?」
レヴァルが叫ぶ。
「戦っているんじゃない。」
「俺たちを"計算"している。」
その瞬間。
黒影が消えた。
「右だ!」
アレンが叫ぶ。
ガキィィィン!!
セラが辛うじて受け止める。
しかし。
「重っ……!」
押し込まれる。
レヴァルが横から斬り込む。
だが。
黒影は振り向きもせず受け止める。
「予測済。」
一撃。
レヴァルが吹き飛ぶ。
■アレンの違和感
アレンは動かなかった。
ただ黒影を見続ける。
「違う……。」
「何かある。」
黒影は強い。
だが。
強すぎる。
「完全すぎる。」
戦場で完璧な動きなど存在しない。
なのに。
黒影には迷いが一切ない。
「……演算。」
アレンの目が見開く。
「そうか!」
セラが叫ぶ。
「何が分かったの!?」
アレンは白銀剣を握り締める。
「あいつは"最適解"しか選ばない!」
■策
アレンがレヴァルを見る。
「レヴァル!」
「派手に暴れろ!」
レヴァルは笑う。
「言われなくてもだ!」
黒狼式。
戦域圧縮。
戦場が歪む。
王血兵たちが次々吹き飛ぶ。
黒影はレヴァルへ向きを変える。
「優先目標変更。」
その瞬間。
アレンが呟く。
「今だ。」
セラが消えた。
■想定外
セラは正面へ行かない。
真横でもない。
王血兵の間をすり抜け、
倒れた槍を拾う。
その槍を黒影へ投げた。
一本。
二本。
三本。
どれも当たらない。
レヴァルが笑う。
「外してるぞ!」
アレンは首を振る。
「違う。」
槍は黒影ではなく、
地面へ突き刺さった。
三本。
四本。
五本。
黒影が初めて止まる。
「……?」
計算にない行動。
最適解が出ない。
わずか一秒。
その一秒で十分だった。
■白銀剣
「はあぁぁぁ!!」
アレンが駆ける。
白銀剣が輝く。
黒影は迎え撃つ。
だが。
一瞬遅れた。
ガキィィィン!!
白銀剣が黒影の胸を斬る。
鎧に大きな亀裂。
初めて。
黒影が後退した。
■初めての感情
黒影は胸を押さえる。
「……理解不能。」
「誤差発生。」
「演算失敗。」
レヴァルが笑う。
「ようやく焦ったか。」
セラも剣を構える。
「完璧じゃない。」
アレンは静かに言う。
「お前は計算できる。」
「だが。」
「人間は計算通りには動かない。」
黒影の赤い瞳が光る。
「修正開始。」
「新演算。」
その瞬間。
空が黒く染まる。
王血兵全員が一斉に剣を掲げた。
アレンの表情が険しくなる。
「まずい……。」
レヴァルが剣を握る。
「まだ切り札があるってか。」
セラが息をのむ。
「今度は何をする気……?」
黒影は空へ剣を掲げ、
静かに告げた。
「第二演算。」
「――戦場統合。」
次の瞬間。
十万の王血兵から黒い光が放たれ、
そのすべてが黒影へと流れ込み始めた。




