第十一話:王の意志
黒い軍が左右へ割れる。
その中央から、一つの影が歩いてくる。
王ではない。
鎧に包まれた黒い人影。
顔は見えない。
目もない。
だが、その一歩だけで戦場全体が沈んだ。
「……あれが」
セラが小さく呟く。
アレンは白銀剣を握り締める。
「違う……。」
「王本人じゃない。」
レヴァルが笑う。
「分身ってわけでもねぇ。」
「もっと嫌な感じがする。」
黒影は静かに口を開く。
「我ハ王ノ意志。」
「王ノ裁キ。」
「王ノ命令。」
感情のない声。
まるで機械が喋っているようだった。
兵士たちは震える。
「しゃ、喋った……。」
「処刑騎士団とは違う……!」
アレンは一歩前へ出る。
「お前は何者だ。」
黒影は答える。
「我ニ名ハ無イ。」
「王ガ望ム限リ。」
「我ハ滅ビナイ。」
その瞬間だった。
ズン――
黒影の足元から無数の黒い鎖が飛び出す。
「散れ!!」
アレンが叫ぶ。
三人は同時に飛び退く。
直後。
大地が砕けた。
爆音。
地面が数十メートル沈み込む。
レヴァルが口笛を吹く。
「いきなり殺しに来やがった。最高だぜ。」
黒影は腕を上げる。
王血兵たちが一斉に立ち上がる。
倒れていた兵まで。
「再起動。」
その一言だけで。
数百体の王血兵が再び武器を握った。
セラの顔色が変わる。
「倒しても意味がない……!」
アレンは首を振る。
「違う。」
「蘇らせているんじゃない。」
「操っている。」
黒影の存在そのものが王血兵を動かしている。
つまり――
「あいつを倒せば全部止まる。」
レヴァルが剣を肩に担ぐ。
「話が早ぇ。」
「ぶっ壊す。」
一瞬で距離を詰める。
黒狼式。
「砕牙ァッ!!」
轟音。
大剣が黒影へ叩き込まれる。
しかし。
ガギィィィン!!
受け止められた。
しかも片手で。
レヴァルの目が見開く。
「……は?」
黒影は静かに言う。
「力量分析。」
「完了。」
次の瞬間。
同じ軌道。
同じ速度。
同じ威力。
黒影がレヴァルの一撃を完全に再現した。
ドォォォォン!!
「ぐっ!」
レヴァルが数十メートル吹き飛ぶ。
地面を転がりながら笑う。
「なるほど。」
「見た技を盗むのか。」
セラが黒影へ飛び込む。
剣姫の連撃。
八連撃。
十五連撃。
二十連撃。
だが。
黒影は全てを受け流す。
そして。
同じ二十連撃を返した。
「っ……!」
セラの肩から血が舞う。
「こいつ……!」
アレンが叫ぶ。
「戦うほど強くなる!」
黒影は静かに言う。
「学習。」
「最適化。」
「更新。」
その言葉と同時に。
王血兵たちの動きまで速くなった。
兵士たちは押し返される。
戦線が崩れる。
アレンは白銀剣を構えた。
「なら。」
「学習できない速度で終わらせる。」
白銀の光が戦場を包む。
レヴァルも立ち上がる。
「いいぜ。」
「俺も本気で壊す。」
セラは二人の横へ並ぶ。
「今度は三人同時。」
黒影は初めて剣を抜いた。
漆黒の刃。
その刀身には王家の紋章が刻まれている。
「排除開始。」
三人が同時に地面を蹴る。
黒影も踏み込む。
白銀。
黒。
漆黒。
三つの光が激突した瞬間――
戦場全体を飲み込む衝撃が走った。




