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両天使のウォッチング ③

 朝7時ごろ、誰もいないと思っていた教室にいる親友を見つけたリョウは話したくてたまらないとばかりに走り寄った。智弘もまたその様子を見て呆れることなくいつものことかと流す。まるで飼い主を見つけた大型犬のようだった。



「おはよー智弘君!!」


「おうリョウか、おはようさん。今日もテンション高いな」


「いやぁ、それも当然というべきかなんというか。エルが珍しく寝る時の髪型見せてくれたんだよね!!あの、なんだっけ?ルーズサイドテールだっけか。若奥様みたいで可愛かったんだよ。みんなにも見せたくなるくらい……。いややっぱり独り占めしたいな……」


「テンションの急降下が激しいな……」


「ふふふ……!!しかもエルだけじゃないんだぜ?今回はシルフィも珍しい髪型しててね!!なんとポニーテールにしてたんだ!!なんとうかこう、後ろから眺めた時の髪の合間から見えるうなじがなんとも言えない色気を感じてね……」


「どうしたんだ?急ににやけ面からアホ顔になって」


「いやだって、これ聞かれたら絶対ヤバいと思って。本人達はもちろんの事クラスメイトにも聞かれたら僕の評価が地に落ちちゃうよ。いやちょっと待ってその前に僕のことアホ顔って言った?」


「言ったな」


「そこは誤魔化すところじゃないかな???」


「そんなことより聞いてくれよ。インターハイ、俺達が参加出来ることになっただろ?」


「そんなことで流さないで欲しいmmだけど……。予選もちゃんと見に行ったから覚えてるよ。鈴ちゃんも引きずって行ったからよく覚えている」


「客席でパジャマのままの妹見た時は何事かと思ったけどな」



 その時のことを思い出して苦笑いをする智弘にリョウは苦い顔をしながら親友の妹のぐうたらさを口にする。そういう少女だというのは知ってはいたが、あそこまでとは思わなかったと言いたげに。



「だって鈴ちゃんが「お兄の試合見たいけどそれまで寝てたいからリョウ兄連れて行って」って言うから。起こそうとしても起きないし着替えさせるとか出来ないからそのまま俵を運ぶようにお米抱っこで行ったよ。エル達にはドン引きされた上鈴ちゃんに平手されそうになって躱したけど」


「アイツに羞恥心を覚えさせた功績を俺は忘れていないぞ」


「恥ずかしさよりも先に怠けたいが来る子だもんねぇ。受験勉強の時は苦労したもんだ……」


「期末テストもピンチになってるみたいだけどな。まぁ一夜漬け駄妹(だまい)に関してはいいんだ。それより話を戻すけど」


「インターハイだっけ?補欠に入れたって言ってたけど……」


「実は最初の試合、スタメンになれた」


「えっ!?凄いじゃないか!!!これはもうお祝いをしなくては……!!ケーキ作るから食べにくる?鈴ちゃんも一緒に」


「アイツが一人でワンホール食いそうだけど、その気持ちだけでも嬉しいわ」



 互いに遠慮のない掛け合いは信用の証だろう。中学時代から何かと気の合った二人はこうして毎日を下らない話で盛り上がっている。本人達にとってはとても大切な、いつもの日常の光景だ。

 リョウが一緒に暮らしている少女達のことについて語れば、智弘もまた自身が所属しているサッカー部について話しをする。

 その様子を教室の外側から姿を隠してみている二人の天使は誉められたことに対して顔を真っ赤にしながら二人の会話を聞き続けていた。



「仲がいいとは思ってましたけど、あそこまでとは……。しかし髪型一つであんなに喜んでくれるとは……」


「親友って言うのも納得の関係性だわ。あそこまで遠慮なく言える相手とか本当に貴重だし。……やっぱりリョウは胸よりそっちの方をチラ見せの方が効く……?」



 2ヵ月に渡る平穏な生活は彼女達の色惚けレベルを引き上げたようだ。悪魔が出現した場合即座に使命を果たす為に飛び出すので、天使としての本質は失ってはいない。二人は知らない事だがリョウはそういうところも含めて好意を持っている。



「おはおはー。あれ、沢渡君いつもより早いじゃん」


「本当だ。いつもはもっとゆっくり来てるよね。ライトガーデンさん達と一緒に中良さそうに。愛想尽かされちゃった?」


「なんか用事があるからいつもより遅くなりそうって言われたんだよね。だから今日は一人で遅刻しないよう早く行ってほしいって。そして上池さん、超絶不吉なこと言わないで欲しいんですけど。」


 リョウと智弘が二人で話している教室の中に髪を桃色に染めている派手な少女と、それとは対照的な大和撫子を想像すれば大体当たっている少女の二人組が入って来た。

 桃色の髪の少女の名は桃園華、黒髪の大和撫子の少女は上池くろね。共にリョウのクラスメイトでありこのクラスの中心的人物でもあった。去年から同じクラスだったからか四人の仲はそれなりによかった。だからこそ雑な扱いも受け流せるようになっていたのだろう。



「まったくもう、僕達喧嘩もしてないくらいに仲良く……。いやこの前シルフィが唐揚げにレモンを勝手にかけたから喧嘩したな……」


「それもう重罪だと思うよ?殴られても仕方ないと思うんだけど。殴ったりしてたらファンとして殺しに行くけど」


「うん、その通りだよ。だから罰として色々と着せ替えした上でライブしてもらったんだ、我が家で。最高の時間だったよ」


「なんで私を呼んでくれなかったの?ファンだって知ってるよね!?すっごい羨ましいんだけど!!」


「だって我が家のことで上池さん関係ないんだもん」


「きぃいいいいいい!!!!!!ここ最近まで彼女のことまるで知らなかったくせにぃ!!!!」


「最近といっても二ヵ月は立ってるんだけど……」


「そんなの新米も新米じゃない!!!」



 大和撫子な雰囲気を台無しにする形相でつかみかかろうとするくろねに対して軽やかにステップを踏んでその悉くを避け続けるリョウ。

 ただでさえ身体能力が高かったのにドッペルとしての経験が重なれば、一般人に捕まるなどということはありえなかった。

 その内疲れ切って息を荒げているくろねを尻目にその光景を笑って見ている華に視線を向けてふと気付く。



「あれ?桃園さん今日髪留め変えてきたんだ。昨日水色だったのに今日は緑なんだね」


「あっ、マジで気付いた。昨日くろねと賭けた甲斐があったわ。これでジュース一本奢りゲットだぜやった」


「ぜぇぜぇ……。よく気付くね……。よく見てるというかなんというか……、華の彼氏は気付かないのに……」


「そーそーそれなー。毎日会ってるのに小物変えてもなーんも反応しないんだもん。ワンポイント無視とか酷いと思わない?」


「横から口挟むけど女子ほど男側は小物にこだわりないから仕方ないと思う」


「秋野さぁ、そういう正論っぽいこと言うからサッカー部レギュラーなのにモテないんだゾ?」


「いやいやラブレターとかは貰ってるから。今は部活とか妹の面倒で色々と大変なだけで」


「智弘君シスコンだもんね」


「はっはっは、要らないこと言う口はここかリョウ?」


「いひゃいいひゃい!!」



 頬を引っ張られて情けない声をあげるリョウ。それを見て可愛いと若干興奮しているエル。同じ気持ちではあるが同類だと思われたくないのでにやけるのを必死に我慢するシルフィ。



「しっかし、見ている限り大体の人間と仲良くなれている辺りコミュ力が高いわね……エルとは大違いだわ……」


「リョウ君の真似して余計な一言を付け足さないで欲しいんですが」


「だってアンタ、クラスメイトから未だに敬遠というか遠巻きにされてるじゃない。表情筋が仕事してないせいって言うのもあるけどもう少しこう、リョウと接する時の十分の一でいいから愛想出した方が良いわよ」


「えっ、そんなに違いますか?」


「全然違うわ」



 そんな会話をしているがエルの表情はリョウといる時も大きく変わることは少ない。ただ少ない変化でリョウやシルフィが気付けているだけだ。二人の後輩であるアリナが聞いていたら「分かるのは二人くらいのもんすよ」と言い出しそうだ。


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