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両天使のウォッチング ②


 朝五時、リョウはいつものように起床し身支度を整えてキッチンに立つ。普段から続けている習慣は既に彼にとって当然になっておりそこに眠気などは見られない。いや一応欠伸をしているが動き自体は問題ないというべきか。



「あくびを噛み殺しているリョウ君、いいですね……」


「あんまり言いたくないけど変態っぽいわよアンタ……」



 エルの能力による光の屈折を使い姿を見せないようにしている二人は物陰からその様子を見ていた。二人共平時は六時ごろに起きるのでいつもより早めの起床で少し眠そうだがそれもリョウの働きぶりを見て吹っ飛んだようだ。エルに関しては崇拝者達には聞かせられないことを言っているが。



「さて、と。それじゃあチャチャッとお弁当作っちゃおうか」



 手際よく片手で卵を割りながら玉子焼き専用のフライパンを準備。フライパンで油を熱しながらだし巻き卵の材料を混ぜ合わせて準備をする。その手に一切の迷いもなく流れるように行われる。



「っと、エルは甘いのが好きだから砂糖多めにしないと。シルフィは逆に甘いの苦手なんだよね。見た目的には逆に見えそうだけど。ギャップ萌えってやつだよな~」



 それぞれの好みに合わせてだし巻き卵の砂糖の分量も変えていくあたりよく見ているというべきか。当然エルもシルフィも好みについては言っていなかった。ただ単に食べた時の反応によってその好みを把握しているだけだ。

 その後もそれぞれの好みに合わせた味付けをした料理を作り、お弁当箱に詰め込んでいく。全てが全て手作りではなく弁当用の冷凍食品なども使用しているがそれでも手際がよく、時間もかからずに30分程度で作り終えた。



「こうして見ると主夫力高いわね……。専業主夫……」


「リョウ君なら出来ると思いますけど。でも結構見栄っ張りなところがあるので専業は嫌だって言いそうじゃないでしょうか。養われる状態がリョウ君のプライドを傷つけちゃいます」


「あー、確かにそれはそうね。適性があることとそれをやりたいってことは別だって覚えとかないと」



 弁当作りを見ていて思わず将来養うから嫁に来いと言いたくなったシルフィをエルが諫める。互いにツッコミあえるいい関係と言えるだろう。話の中身は色惚けのそれ以外の何者でもないが



「さーて、それじゃあ行くかぁ」



 三人分のお弁当を作ったリョウはジャージに着替え、運動靴を履いて毎日の日課のランニングに行く。二人の天使もまた追いかけるように家を出て行く。7月に入ったこの時期は昼は非常に暑くなるが朝はまだマシなためこの時間に運動している人を見かける。



「風で包むわよ。熱遮断するように」


「お願いします。空調というか、気温調整はシルフィの能力が羨ましくなります」


「操作が難しいから同じ風の能力持ちでも同じこと出来るとは限らないけどね」



 この時間から汗をかきたくないシルフィは二人を風で包み、空気を断熱し暑くならないようにする。普段ならばこんな能力の使い方はしないが、ここで汗をかいたら朝からシャワーを浴びなければならない。二人共がシャワーを浴びたら学校に間に合わない可能性が出てくるから仕方ないと自分に言い聞かせている。



「それにしてもリョウ、結構早いわね。運動部並じゃない?」


「リョウ君は走るのが好きですからね。競う事自体はそこまでではないし家事もあるので部活動には参加してませんけど。それでも度々陸上部とかに誘われてたりしますよ」


「…………誰が誘ってるの?」


「陸上部所属の後輩ちゃんですね。女子です。中学の後輩の男の子も誘ってましたけど」


「男女問わず、か。らしいと言えばらしいけど……」



 好いた少年が他の人間にも好かれている事実自体は自分の見る目もあったと思えるのだがそれはそれとして少し不安な気分にもなる。エルもずっとこうだったのかと思うと足踏みしている理由も少し分かるとシルフィは考え。



(いやでもこのヘタレ具合は素の性格よね)



 と思い直した。

 ジト目で見られていることに気付いたエルがリョウから視線を外してシルフィを訝し気に見る。不穏というより失礼な視線を感じたことに対して少し不満そうにしながら。



「なにか?」


「ううん、アンタはもうちょっと積極的にいった方が良いと思っただけ」


「怒っていいですか?」



 そんな会話をしながらもリョウの後ろを追いかける二人は息切れもしていない。上級天使の格を持つ二人にとってこの程度はまるで疲れないようだ。天使としての力も使わず素の身体能力で無理なくついていく少女達。もし第三者がそれを見ることが出来たら三度見しそうではある。すれ違いで一回、容姿で一回、余裕で男子高校生についていく走力に三回で。



「おはようございまーす」


「ああ、沢渡君。おはよう。今日も元気そうだねぇ」


「それが取り柄の一つですから!!それ以外にも取り柄はいっぱいありますけど!!」


「相変わらず自信家だねぇ」



 すれ違っている人全員に挨拶を交わすリョウだったが、とある一人の元で脚を止める。ゴールデンレトリバーの散歩をしているお爺さんと仲良く話し始める。これもまた日課の一つ。動物好きのリョウはこうして散歩している犬を見ると思わず立ち止まってしまうのだ。



「いやぁ、人懐っこいいい子ですねぇ。おお可愛い可愛い」


「沢渡君の撫で方が上手いんだろうね。ここまでこの子が身を委ねるのはあんまりないんだよ」



 いつものように許可をもらい撫でさせてもらう。ジャージに毛が付かないように気をつけながらも、夏という季節の影響で抜けた犬の毛はどんどん増えていく。毎回帰ったらコロコロの粘着クリーナーでジャージから毛を取っているのはこれが原因かと洗濯担当のシルフィは納得した。



「ずるい……私も撫でられたいのに……」


「犬に嫉妬するのはどうかと思うわよ。というか頭とかよく撫でられてるじゃない」


「頭は、はい……。でもあんな風に顎とか撫でられたいとか思いませんか?」


「アンタの色惚けも人に見せられないレベルになってきたわね……」



 頬を膨らませて呟くエルに呆れたように言うシルフィだったがその気持ち自体は理解出来る。理解できるがそれを口にするのとしないのとではまるで違うとも思っているが。

 彼女達の後輩であるアリナが見たら「どっちもどっちなんすけど。自覚が足りないんじゃないすか?」と言ってアイアンクローを食らうことは確実だろう。

 そんな会話を二人がしてるとも思っていないリョウは仲良く飼い主のお爺さんと会話を続けていた。



「僕も犬を飼いたいんですけど。時間とか色々と足りなくて。バイトとかも始めちゃいましたし」


「ペットを飼うのは大人になってからでも遅くはないさ。命に責任を持たなくちゃいけないしねぇ」


「でも一軒家にわんちゃんとか絶対楽しそうじゃないですか?」


「生きる気力は湧いてくるのは間違いないかな。妻と一緒にこの子を可愛がっていて中々にいい老後を過ごせていると思うよ」


「僕も将来はそういう生活送りたいですね」


「先のことを見過ぎたら近い所で躓いちゃうから程々にね」



 毎日の習慣になっているのだろう。二人の会話はまるで友人のように和やかだった。年齢が離れた二人だったがお互いに友好的に接している。



「わんちゃん……白い一軒家……夫婦で同じ趣味……」



 一方それを見てエルは大人になったリョウとの生活を想像する。今の家で犬を飼い、遊んでいる子供達を隣り合って眺めながら平和な日常を過ごすという夢のような生活を。

 そんな未来はありえないと断じる天使としての使命感と、欲しいと思ってしまう少女としての願い。自分の矛盾に気付きながらもどうしても求めてやまないその未来。

 その苦悩に気付いているのは親友であるシルフィと、交流深いアリナくらいだった。



「シルフィ、やはり子供がいた場合大型犬より小型犬の方がいいのでしょうか?」


「未来ばかり見てたら足元で躓くってあのお爺さんの話聞いてなかったの?」



 それはそれとして真剣な顔をしながら聞いてくるエルに呆れを隠せないシルフィだった。

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