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両天使のウォッチング ①


 赤い炎が視界を埋める。触れれば熱く、同時に何かを奪われていく感覚が存在する。生存本能が触れることを拒む赤の中手を伸ばして彼女に触れる。



『なんで……なんでここまで来たの……?奪われていくだけなのに……』


「君が幸せになれるように頑張るって、僕は言った。自分の言葉を覆す趣味は生憎ないんだ」



 奪われていく奪われていく。記憶が、想いが、がらんどうになっていく。それでも湧き上がるものがあって、それはずっと続いている。炎に吸われてもなお決して消えないものがある。それは特別なことではなくて。大切なモノがあったと確信出来れば、誰だって思う当然のことだ。



「僕は、君を幸せにする。名前も忘れた君を、それでも引き戻す。これは決定事項だ」


『ああ……もう、本当にそういうところだよ』



 手を掴んだ彼女が泣きながら笑っている。そんな顔を見たくはなかった。笑うのであれば満面の笑みの方がよかった。だから、これを最後になんてしてやらない。『炎天渇奪』になんぞに僕の想いも記憶も“欲望”も“愛”も奪わせやしない。全て取り戻して僕は明日を彼女達と共に生きる。



『アタシは、リョウちゃんに会えてからずっと幸せだよ』



 “我欲”が奪い返していく。これまでの日常の全てを。愛しく、平穏で、刺激に溢れていたあの日々を。









「これよりリョウ君を監視します。一日だけですけど」


「なに言ってんの……?」



 早朝、時間としては四時に起きた美少女二人はリビングで静かにココアを飲みながら今後について話していた。片割れである一人、シルフィの話を聞いていたもう一人の美少女のエルが突然宣言。それは言葉は付き合いの長いシルフィからしても理解が追いつかない言葉で思わず聞き返した。

 ちなみに今の二人はいつもとは髪型が違う。エルは寝る時に邪魔にならないように銀髪をルーズサイドテールにしており薄い寝間着を着ている。

 シルフィはぬいぐるみを模したパジャマを来て頭にフードまで着けていた。



「シルフィがこの家に来て既に2ヵ月が経ちました。もうすぐ期末テスト、それが終われば夏休みがやってきます。それは分かりますね」


「そこまでは何も疑問ないわね。ここでの生活も大分慣れたわ。家事を完全分業すれば一人にかかる労力も少ないし」


「料理はリョウ君が、洗濯はシルフィが、掃除は私が分担してますからね。それぞれの手伝いをすることも多々ありますが。洗濯をシルフィが担当すると聞いた時は不安になりましたけど」


「掃除は面倒だったからやらなかっただけよ。一人暮らしだと見られてないってことで雑になっちゃうの。それでも洗濯は基本やってたわよ。服とか洗い方ひとつで色々と変わるし」



 既に『病孤涙苦』の起こした騒動から2ヵ月が経過していた。事件からすぐにこの家に引っ越してきたシルフィも馴染んできた今日この頃、沢渡家は事件に巻き込まれることもなく平穏に暮らしている。

 良い意味で遠慮のなくなったシルフィは現在動画配信者として活動している。音楽フェスにて知名度を上げた彼女の活動はファンも多く取り込み“愛”を集めるという天使としての使命も果たしていた。

 プライベートにおいても好いた少年とひとつ屋根の下ということでドギマギしていた当初から慣れが見え始める。なにせリョウは常に対応が変わらないのだ。ことあるごとに褒め殺しになっていたら承認欲求の塊であるシルフィと言えど大分慣れる。それでも不意の言葉に胸をときめかせるのは恋する乙女の本能だろうか。



「で、私がこの家に来て2ヵ月経ったのは分かったけどそれがなんで一日もリョウを監視することに繋がるわけ?」


「だってシルフィがリョウ君のことを好きになったじゃないですか。2ヵ月も見てればそれが本気だって言うのはよくわかりました」


「……そういう事言うのやめてよ。というかそんなにわかりやすくしているつもりはないんだけど」


「えっ、気付いてなかったんですか?リョウ君にココア入れた時とかニコニコして飲んでる顔ずっと眺めてるじゃないですか。美味しい?とか聞いて答え聞いてニンマリしてますし」


「あ、アンタあれ見てたの!?いつ!?いつから見てたのよ!!!」


「ここに来てから最初期の夜、慣れない環境で眠れなくなってた時にシルフィが眠くなるまでリョウ君が付き合ってた件ですか?最初から最後までですけど」


「ぶっ飛ばすわよ!?」



 エルの飛んでも発言に顔を真っ赤にしたシルフィは思わず怒鳴る。二人だけで誰にも見られていないと思っていたから親友であるエルについても色々と話していたのだ。それを聞かれていたとなると羞恥心で爆発しそうになっても仕方ないだろう。



「まぁ会話についてはあんまり聞いてなかったですよ。私も寝ぼけてましたからあんまり覚えてなかったですから。覗き見してたことは謝ります。でもそれはそれとして抜け駆けしてたのは事実ですよね」


「アンタだって二人きりになるタイミングいくらでもあったじゃない。一緒に買い物行ったりとか。私はあんまり出歩くわけにはいかないし」


「認識阻害、変装もありますけど休止中のアイドルが男性と二人で外を歩くというのは問題になりそうですしね」


「ファン全員に夢を与えるのが私の仕事。余計な現実は見せたくないのよ。それはそれとして幸せになる気は全力だけど(それに結果論だけどエルと同じ人好きになっちゃったことは悪いと思ってるし)」



 だから度々二人きりにすることがあったが、様子を見ているともう恋人を通り越して若夫婦にしか見えないことが多々あった。これで想いを告げていないとか親友のヘタレ具合にはシルフィとしても予想外だ。天使についてのあれこれを隠したままそういう関係になることを避けているというのは理解できるし、リョウを巻き込みたくない気持ちもこの2ヵ月で分かったがそれとは話しが別だろう。いや同じだとしてもそれはそれ、これはこれで呆れるのだが。



「で、結論から言ってちょうだい」


「シルフィがあのキスから今日まで、日常を一緒に過ごした結果リョウ君をさらに好きになったのは周知の事実だと思います」


「ツッコミたいけど辞めておくわね。キリがなくなりそうだし」


「アリナも言ってました。呆れながら「なんで二人共あそこまでヘタレなんすか……?」って」


「アイツも一度梅干しくらわせた方が良いわね」



 その頃自宅の自室で寝ていたアリナは急に襲ってきた頭痛で目を覚ましたという。閑話休題。



「ここまできて私も理解しました。リョウ君は、日常の方がヤバい、と」


「あーーーー……」



 エルの断言に思わず納得するシルフィ。一緒に暮らせば良い所も悪い所もよく見えてくるというがリョウの場合はどんどん沼に嵌っていく感覚を覚えるのだ。エルの言葉を一切否定できないレベルで。



「つまりアンタが今日したいのは……」


「はいっ!!リョウ君が日々過ごしている中で、リョウ君のことを好きになっている人がいないかの調査です!!!」


「ねぇエル、一つだけ言わせてほしいんだけど……」


「なにをですか?私達の仲ですから言ってもいいですよ?」


「アンタってそんなに馬鹿だったっけ?」


「な、何故!?」



 エルは若手天使の中でもトップクラスのエリートだ。それこそ若手の中には尊敬を通り越して崇拝まで行っている天使もいるくらいに。その容姿も相まって次期最上級天使の座も間違いないという前評判もある為仕方ないが。

 そんな彼女は、恋愛ごとに関しては非常に表情豊かになり、ポンコツになるというのは親しい者しか知らない事実だった。


評価&感想オネシャス


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