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両天使のウォッチング ④


 昼休み。大勢の学生が待ち望んでいた一時的な休憩タイム。弁当や学食で食事をするという高校生にとっては貴重な栄養補給の時間でもある。

 空腹が満たされた結果午後の授業の集中力が続かず、昼寝してしまう学生もいるのもまたどこかで見た光景だと言えるだろう。

 当然僕こと沢渡リョウもその時間を待ち望んでいたと言っても過言ではない。何故なら朝から都合がつかず話すこともあまり出来なかったエルやシルフィと一緒にお弁当を食べられるからだ!!



「もう駄目だ、おしまいだぁ……。僕なんかしたか……?やっぱり一緒にお風呂に入ろうとしてくるのを断ったのが悪かったのか……。ヘタレだと思われたのか……?」


『メールでお昼一緒に食べられないって伝えられただけでこれとかもう本当なんというか、愛が想いというか強いというか。流石にアタシも呆れちゃうよお兄さん』



 心の中にいるリルナが本気で呆れた目を向けてくる。あの『病孤涙苦』との戦いから二ヵ月、そこから出れるようになった彼女は今でも僕の中にいる。教授の地下施設にある居住区で暮らしたらとも聞いたのだがここの方が居心地がいいとのことだ。

 まぁ僕が所有したと思った物が大体再現できるのでかなり居心地がいいのは分かる。僕が買ったゲームはもちろんスマホやその中にある電子書籍とかまるまる使えるから。割と本気でその空間羨ましいとも思う。好き放題材料使って創作料理できるし。



『まぁたまにはいいんじゃなーい?あの天使達以外に友達いない訳じゃないんでしょ?』


「そりゃそうだけど。美少女って言うのは目の保養にも耳の幸福にも繋がってるんだよ?僕なんかもう四六時中そんなもんだから中毒になっていると言っても過言じゃないんだ」



 距離感が近いエルとかもう何度か襲ってしまいそうになったことか。その度に自分で脛を蹴って正気に戻る日々だ。告白した上で大人の夜的なのを過ごしたい気もあるが、それをするには準備が足りない。主にゴムとかそっち方面で。そういえば天使と人間って子供出来るんだろうか?結構難しそうだと思うのは現代日本によくあるライトノベルの影響なんだろうか?



「リョウ兄、珍しく一人だ、ね。お弁当つまみ食いさせ、て?」


「登場早々おねだりとはやるね鈴ちゃん。答えは当然駄目だよ?」



 机に突っ伏してリルナと話していたら窓から顔をひょっこり出した鈴ちゃんがいつの間にかそこにいた。僕の席は廊下側にあるからか、ここを通る生徒と軽い話をすることも多々あったりする。

 いつもだったらお昼は中庭などで食べるのでここにいるのは彼女の言う通り珍しいことだが。断られた鈴ちゃんは眠そうなたれ目のまま頬を膨らませる。まったく怖くないのはその可愛らしい人形のような容姿のせいか、それともそのぐうたらな気質のせいかは判断に迷う。



「いけ、ず。お兄のお弁当から摘まんだらブチギレられるから私にはリョウ兄しかいない、のに……」


「運動部からお弁当盗むとかそりゃ怒られても仕方ないと思うんだ」


「二度とやるなって拳骨食ら、った。珍しく本気で痛かった、よ」


「シスコンの智弘君が鈴ちゃんを本気で怒るとか珍しいね」


「ふっ、涙目になったらあんぱん奢ってくれた、よ。魔性の女……ブイ」


「相変わらず妹に甘いなぁ……」



 こう言うと怒るのだが智弘君は鈴ちゃんを溺愛してたりする。自分が認めた男以外彼氏にするのは許さないと堂々と言うくらいには。アレでシスコンじゃないと思っているのだから見てて面白いのだ。まぁ締める所はちゃんと締めるから鈴ちゃんもお兄さんを慕っているんのだが。



「学食行くのも面倒だから、ここで食べる、ね。お兄の机借りるけど帰ってこな、い?」


「サッカー部の部室で次の練習試合の作戦会議してるらしいから来ないと思うよ。ただ机の中を見たりするのはやめてあげてね。教科書しか入ってないから」


「知って、る。お兄、部屋にえっな本も隠してない、し。あれを探すのが年頃の妹の楽しみと聞いていたのに、残念」


「本気で嫌がると思うからやめてあげて」



 本当に見た目はお人形のような和風美少女なのだが言動がエキセントリックすぎる。運動神経も智弘君と同じく高くて今でも勧誘されてるらしい。本人は本気で面倒なので帰宅部以外考えてないらしいが。彼女の性格を一言で言うなら怠惰以外の何者でもないだろう。

 鈴ちゃんはそのまま移動して宣言通り智弘君の席に座ってお弁当を食べ始める。ただ廊下からこちらに来る時に反対側のドアを見てニヤリと笑っていたのは何だったんだろうか。そちらを見ても何も見えないのだが。



「相変わらず、リョウ兄のお弁当は美味しそ、う。毎日食べたくなる。そう、つまみ食いもはかどり、そう」


「その時はその手を叩き落とすよ?」


「こんな可憐な美少女の手を叩くなんて、リョウ兄はDV男なんだ、ね」


「僕ほどやさしい男はいないと思うけど」


『冗談めいて言ってるけど実際その通りだから何も言えないなぁ……。お兄さん的にはただの冗談なんだろうけどさぁ……』



 その後は色々と下らない話しをして昼休みを過ごしていた。智弘君の机で昼寝し始めた時は流石にどうかと思ったけど、なんだかんだで鈴ちゃんも智弘君のことが好きなブラコンだからだろう。安心して寝ているのを邪魔する気にはなれなかった。








 二人の昼食を影から観察し続ける三人の影。エルとシルフィに加えてその後輩であるアリナまでもが参加していた。もっとも、観察対象は二人と違いリョウではないが。

 いつもは何事にもドライな態度を崩さないアリナだが今は怨嗟の声を出しそうな形相でリョウの方を見ている。今にも血涙を流しそうなほどだ。



「アタイの、アタイの鈴ちゃんが、スケコマシパイセンにスケコマされてるっす……!!」


「別にアンタのもんじゃないでしょうが」


「それよりアリナ、彼女は知り合いですか?」


「……あの、スケコマシってところツッコミはなしっすか?言ったのアタイっすけど」


「そこに関しては否定できないというか、否定するにしても別に誑してるの女だけじゃないというか」



 ツッコミ前提の言動だったのだが一切そこに触れない先輩達を見ればなんとも味のある表情をしている。普段の生活からそうなのかと内心アリナは戦慄しつつ、そうでもなければ上級天使二人に“愛”を供給してなお余裕がある人間になるわけないかと勝手に納得する。



「罪な男っすねぇ……。そんで鈴ちゃんのことっすよね。アタイのクラスメイトで、秋野鈴って名前っすね。大人しくていい子っすよ?」


「秋野、ということは秋野君の妹さんですか。ふむ……」


「なにか気になることでもあるんすか?」


「いえ、リョウ君の元に行く前に一瞬だけですが彼女と目が合った気がしまして……。私とシルフィの能力で姿を完全に隠しているはずなんですが」


「いやありえないっすよそれは。お二人のこれを見破れるのとか天界組織の中でも上級天使異常じゃないと無理じゃないっすか。アタイは空間系の能力だから例外っすけど、ヒャンちゃん辺りだったらまず気付かないっすし。普通の人が気付けるわけないっす」


「そう、なんですよね」



 エルの上級天使としての戦闘感が何故か鈴に対して警鐘を鳴らしている。油断も何もかもしてはいけないのだと。普段リョウのことを見ている時は色惚けしているのが当然になっているエルだがその才覚は間違いなく全天使の中でも最上位。

 その本能ともいえる部分がどうしてもただの少女にしか見えない鈴に対して警戒心を解けない。本人にもその理由が分からなくてモヤモヤしている。


 だがそれも仕方ないことだろう。秋野鈴として転生しているその魂の中身は『怠惰』の魔王ベルフェゴール。世界を容易く改変する、七人が生まれ現在三人しか存在しない魔王の一人。

 死んで輪廻に戻ろうと記憶を維持しつつ転生することが出来る唯一無二の存在。一人で世界を滅ぼせる災害が人の形をした存在なのだから。


 当の本人は見られていることに気付いているがまるで気にすることなくうさぎ型にカットされた林檎を頬張り美味しそうにしているが。

評価&感想オネシャス


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