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影法師と急展開 ②

「すみません僕学生でプロデュースとかまるで意味が分からないんですけど。いや本当に冗談抜きに」


「うむ、言い方が悪かったな。というより説明が足りていなかった」



 さて、どこから話すべきかと目の前の社長は悩み始めるがこれに関してはただのポーズだろう。話す内容は最初から決まっているがこういうところを見せて親近感を抱かせるという。既に身内になっている上に初対面のあれこれがあるから大体の人間性は把握しているのでこういう芝居ががっているやり方が好きなのは知っている。初対面の時、それで盛大に失敗して僕に敵対心もたれてたしやめた方が良いと思うのだが。



「彼女の仕事周りの人材はこちらで用意する。無論『病孤涙苦』が介入できないよう吾輩の手がかかっている人物を。吾輩の能力ならば見抜くのは難しいことではない。心から嘘を信じることが出来る者も魂には嘘はつけん」


「凄い高性能ウソ発見器……。それでドールさんを作り出すんだから本当に凄いですね教授」


「今は社長と呼びたまえよ。吾輩は公私を分けるタイプだ」



 公私を分けるなら一人称から変えた方が良いと思うのだが。まぁ身内以外がいる時は「私」を使っているからそこらへん社長にも段階があるのだろうが。



「吾輩が沢渡君、君に任せたいのはシルフィ・エアロードのメンタルケアだ。君ならば容易にやってくれると吾輩は考えている。中級悪魔の彼女達もほら、元気に出来たし」


「まだまだですよ。出来れば外にも出したいんですけど……」


「それやったら間違いなく天界組織に目をつけられるから難しいな。吾輩の方で変装道具なんかを用意すべきか。だが人間社会のことを知らないと……やらかしそうだ」


「特にダフネが怖い。戦闘狂の気があって強者と見ると即座に襲い掛かりそうですし」



 社長に彼女達と引き合わされた時即座に殴りかかってきた時を思い出して少しげんなりする。いや自身の“欲望”に一直線という意味では実に悪魔らしいとは思うのだがその被害がこちらに来るのはちょっと困る。他に向けられた方が困るので僕にだけぶつかってくる現状はまだマシだろうが。



「うむ。だが彼女に関しては君が手綱を握っていれば問題ないと思っているぞ」


「四六時中やるのはちょっと……。たまに息抜きする模擬戦は別にいいんですけど」


「それで収まるならまだ扱いやすい人材であるとも。下級悪魔から中級悪魔に上がった者はどうにも“欲望”に抑えが効かないからな……」



 悪魔の階級は四段階あり、下級中級上級という順番で力が増してその頂点に魔王がいるらしい。この区分は扱える能力の規模と“欲望”の許容量で決まるらしい。

 悪魔は“欲望”を集めるが、それを貯蔵できるには限界があるとのことだ。その限界を超えて上の位階に上がると能力の規模も上がるらしい。


 『大飢万征』で例を言うなら、奴の“欲望”の貯蔵量は人間で換算するとおよそ千人分近くまで溜め込むことが出来たらしい。下級は精々2~3人、中級ならば20~50人分くらいが限界とのことだ。魔王にまで上がると最低許容量が億クラスになるので文字通り桁が違う。


 能力の規模になると更に格差が広がる。僕の最も身近な相棒であるリルナ。彼女は今もなお下級悪魔で、その能力は影の操作だが彼女単体の場合は影に潜ることしかできない。僕というエネルギータンクが出来たことで影の中を歩いて移動することが出来るようになり、”契約”を交わしたことでようやくドッペルの能力を使えるようになる。色々と底上げしてなお上級に届いたのだ。素で上級悪魔になっている連中がどれだけヤバいのか分かってもらえるだろうか。



『“欲望”貯蔵量は今も変わらないしね~。お兄さんが消費したところを即座に補充してくれるからこその今だし。だから火力を上げるとなるとアタシの貯蔵量を上げて一度に扱える能力規模を上げないと』


「まぁそこに関してはこれからに期待、だね。焦っても良いことなんてないしゆっくりでいいから一緒に頑張っていこう」


『あんまり甘やかされるとアタシ溺れそうになるから厳しめで良いんだよ?』


「僕、好きな子はとことん甘やかしたくなるタイプだから」



 基本僕が好きになる子は頑張っている子なので安らぎというか安心感を与えたくなる。気を抜いた居場所になりたいと思うというか、素で接してもいいと思ってほしいというか。これもまた一種の“欲望”なのだろうか。そしてリルナがうにゃうにゃ言い始めてて可愛い。

 そういう意味だと今の僕の周囲にいる子はみんな頑張り屋さんだ。頑張りすぎてその内ぶっ壊れそうなのが何人もいるから支えないと不安になるともいえるが。



「外に出せるのはヒルダくらいですかね。ディアンナは……出れるとなっても嫌だって言いそうだし」


「うむ、暇さえあれば君が買い与えた人をダメにするソファに沈んでいるからな。彼女は出来ることなら一生あそこから動きたくないのだろうよ」


『ドルザルクの馬鹿に捕まってた時エンジョイしてたのかなぁ?』


「いやそれはないね。ディアンナが好きなのは動ける状態で人が必死で働いているのを見ながら怠惰に過ごすことだから。あくまで自由意思でサボりたいんであって他人に動けない状態を強制されるとか一番嫌いだと思うよ」



 むしろ一番ストレス溜まっていたまである。言葉にしないだけで一度口にしたら洪水のように止めようもなく文句が流れ出てくるという確信があった。



「まぁ彼女達に関してはこれからも要経過観察である。話しを戻すが沢渡君にはシルフィ・エアロードの付き人というかお世話係のようなものをやってもらいたい」


「やることが分かれば受けてもいいんですけどね。実際のところ何をするんです?」


「彼女の言うことに従い欲しい物を用意したりだな。飲み物を買ってきたり荷物を持って来たり。付き人というが一緒にいる雑用係だろう。メイクスタッフなどは吾輩の方で用意する。これでも顔は広いのでその程度は出来る。だが慣れ親しんだスタッフではない事で彼女のメンタルには負荷がかかるだろう。そこの解消を君には手助けしてほしい」


「まぁ、そのくらいなら本職でもない僕にもできるかな」



 確かに他の人達がいない中でいつものパフォーマンスが出来るとは思えない。特にエアロードさんは注目されるというか、見られることが好きだ。いつも自分を見てくれている人達がいないというのは凄く不安だろう。その不安を和らげる手伝いをするというのは悪いことではないだろう。



「ここまでが表側の理由である」


「表、ということは裏もあるんですね」


「ああ。『病孤涙苦』の討伐という名の本命がな。正体不明の奴を引きずり出し、ここで討伐し今後人間社会に関われないようにしたい。その為に君の力を借りたい」



 いよいよというべきか、当然の流れというべきか。数々の流行り病を作り出し、歴史の中でも今の世界でも多くの人々を殺してきた上級悪魔の討伐をするという事か。

 それ自体に否はない。元よりその為に教授を始めとするこの会社の人達や悪魔に手伝ってもらい戦力強化をしてきたのだから。



「無論君一人で戦わせるつもりは毛頭ない。ヒルダやダフネも戦意は十分であるし、下級悪魔を奴が出してくるのならばその対処は吾輩達がする。天使からも君の正体が露見しないように最大限の警戒はするのである。だが、このチャンスは逃したくない」


「『病孤涙苦』が今回の大型フェスで何かをやらかすと考えてるんですね」


「それ以外にこの時期のこの国に入国してくるとは思えんのだよ。吾輩の能力で魂を見てどれが奴かを探り出し、そして意識の外から奇襲を仕掛けて何もさせずに潰す。それが最上だが、その為には奴を殺すだけの力が必要となる」


「だからエアロードさんの所でスタッフをやりながらそいつと接する機会を作る、と。分かりました。気は進みませんけどやります」



 正直、頑張っている人達の裏側でこんなことを企むというのはあまり好きではない。むしろ嫌いだが、上級悪魔の脅威を知っている僕からすればこれ以上の策はないともいえる。

 まぁ作戦なんて往々にして全て上手くいくとは限らないから今回も死力を尽くした戦いになることは覚悟しておいた方が良いと思うけどね。 



『まぁその前にあの緑髪天使の付き人するって銀髪天使に言わないといけないのが最大の問題だけどね。大丈夫?納得させられる?』


「エルはうん、品行方正だけど結構自分優先してもらいたいタイプだからね。納得してもらえるように頑張る」



 仕事と私どちらの方が大切なんですかって言われそう。言われたら即座にエルだって答えるのは間違いないけど、それだけで納得してもらえないよね、流石に。


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