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影法師と急展開


「やっぱり見返すと色々と直すべき点が多いよなぁ。戦闘なんて今までの人生まるで縁がなかったから仕方ないとは思うけどこうも多くちゃどこから直すべきか悩むよ……」


『アタシとしては一安心だけどねぇ。お兄さん基本何でも出来るし、こうして悩んでるところがある方が人間らしいと思うよ?アタシ悪魔だから説得力ないけど』



 模擬戦で出た問題点の洗い出しを行い、今日のバイトが終わった僕は備え付けられているコーヒーメーカーで作ったコーヒーを飲みながら頭を痛める。基本的に経験値が皆無な僕は溢れる“欲望”によるごり押しが多すぎる。

 リルナがいることで視点が二人分になっているのは大きな利点だが、相棒であるリルナもまた実戦を行うのは殆どない為二人してド素人という始末だ。経験豊富な上級悪魔と戦えば翻弄されて敗北する可能性が高いことを考えればすぐにでも経験を積みたいが、経験なんてものはそう簡単に積めないもの筆頭である。



「沢渡様、お疲れ様です。教授がこちらを使ってほしいとのことです。怪我をしている場所に巻いてください」


「これは、包帯?」


『またなんか変なの作ったみたいだね……。便利な物は本当便利なんだけどたまにとんでもない物が混ざってるせいで女悪魔達にボコられてるよね、教授』


「はい。そこが可愛い所だと思いませんか」


「あばたもえくぼってこういうことを言うのかな」


『割れ鍋に綴じ蓋って言うべきじゃない?こういうのは』



 困ったことに変な物を作って大喜びしている教授を見るのが大好きなこのメイドさんはそれを僕や他の人にお勧めすることが多々ある。大半はとても使い勝手の良い物なのだが当たり外れの差があるので初見のアイテムを使うのには結構な勇気がいるのだ。

 もしここにヒルダがいた場合率先して使おうとするだろうからいなくてよかった、というべきか。本人が進んでやってくれるとは言え実験台にするのはしのびない。

 ドールさんは使うまでその鉄面皮で見つめてくるのでその圧力に屈してその手に持った包帯を模擬戦で痣の出来た腕に巻いていく。



「あれ、包帯が消えた……?痛みはあるけど……」


『包帯も見えなくなって肌見えてるのに痣も消えてるね。なにこれ?』


「教授の作り出した緊急時用の傷隠し用包帯です。スキンケア包帯と言いますか。包帯を巻いた時、使用者の肌を再現して外から傷を見えなくするのです。今のような模擬戦でなら研究室で治療してから戻ればいいですが、出先で傷が出来た時に即座の治療は難しいですからね」


「ああ、成程。同じ部分に傷があったら僕とドッペルが繋がっちゃうからそれの対策品、ってことか。今回は当たりじゃないか」


『包帯巻いたところの肌が緑色になるとかそういうんじゃなくてよかったね。たまに何の意図があってそんなの作ったのって言いたくなるような物持ってくるし』


「教授曰くそういった物は作れたから作った以上はありませんね。その後の発明に活用することは確かですが無駄になった物も数多くあるのは確かです」



 “欲望”の方向性を考えるとそういった物を作るのは教授にとっては本能レベルなのだろうが、巻き込まれる側としては溜まったものではないので何とか良い物だけ作ってほしい。流石にこれは我儘すぎるだろうがそう思わずにはいられなかった。



「それと沢渡様、教授……いえ、社長がお呼びです。業務時間は終わりましたが向かってもらえると助かります」


「あ、はい。分かりました」


『厄介ごとのにおいがするよぉ……』



 リルナがぼやいてるのを苦笑しつつ社長室に向かう。こうして教授と社長という別の立場を行ったり来たり出来るのは凄い器用だと思う。僕には到底真似できない行為だ。

 どうしても地続きだからか引きずってしまう。ドッペルと沢渡亮を切り離せないのは未熟の証だろう。



「やぁ沢渡君。そのスキンケア包帯、いい出来だと思うが使い心地はどうかね?よければ性能を落とした物を将来的に発売しようと思うのだよ。それを使えば好きに肌の色を変化できるという売り文句でね。日焼けなども隠せるということで女性に人気になりそうだと思わないか?」


「悪魔の技術が使われてなくて再現可能なら凄いと思いますけど……。いや発売したら多分売れると思うけど天使に見られても大丈夫なんですかこれ」



 僕が一番怪我を隠したいのはエルであり、彼女は天使だ。悪魔の力所以の物だとバレてしまいそうで怖い。彼女はかなり勘が良いから色々と隠すのが大変なのだ。その分天然だから誤魔化すことに成功すればそういうものかと納得してくれるのだが。

 なんかいつかどこかで騙されそうで心配になる素直っぷりである。目を離せないというか……あの性格は生来の物もあるだろうけど育て方の問題も大いにあるんだろう。そこがいいというかそこも含めて好きなのだから僕も強く矯正しづらい所がある。



「ああ、普通に再現性のある物だから安心してくれたまえ。流石に会社の製品として売り出す予定の物に悪魔の力は使わんよ。吾輩だけが作れる物を売るなんて不健全極まりないからな」


「それなら安心ですけど……それはそれでこれどういう風に作ってるのかすごい気になるな……」


「そこは君、企業秘密という奴だよ。原理が分からなくても使ってる物なんてたくさんあるだろう?電子レンジとか多くの人はただ食べ物を温めたり解凍したりする物としか認識していない人も多いからね」



 こういうところは流石一代で大企業の長になっているだけはある。バランス感覚に優れているというか、もし自分に何かあった場合のこともちゃんと考えている所は普通に尊敬できる。問題なのはそれらの尊敬を台無しにしてしまう物をたまに作り出してしまうことだが。以前作った気分高揚剤を飲んだ悪魔達が一斉に脱ぎ出した時は必死に逃げたものだ。ヒルダとか正気に戻った後教授のことバット持って追い掛け回してたし、一週間分は動いたとか言ってディアンナもその後ほぼ動かなくなったし。



「それで、仕事の話だって聞いたんですけどどうかしたんですか?」


「うむ。ほら、例の我が社のCMを担当してくれるアイドルがいただろう?君の友人だったあの天使アイドル」


「ああ、エアロードさん。彼女が何か?」


「彼女の所のスタッフがほぼ全滅したらしい。プロデューサー含めて」


「えっ」


「このままだとゴールデンウィークのイベントに参加するのも難しいかもとのことだ」


「うえぇ!?あんなに楽しみにしてたのに!?」


「我が社としても大損害になりかねない。あのイベントに参加したアイドルを使うことで知名度アップを図っているのにその根底から崩れかねないからな……」



 額に手を当ててため息をついている所から社長本人も困っているのが分かる。僕もまたエアロードさんの友人としてかなり焦っている。彼女も今回の大きなイベントに参加することを凄く楽しみにしていたのを思い出したからだ。



「というか、全滅って一体何があったんです……?」


「流行り病、だそうだ。ほら、例の海外で広がっているのが日本にも流出したとニュースで言っていただろう?」


「それは、まぁ……。でもあれって確か、『病孤涙苦』が作ったって言ってませんでした?」


「ああ、つまり奴は既にこの日本に足を踏み入れているという事だろう。誰に成りすましてるかは分からんがな」



 傍迷惑にもほどがある……。例の流行り病、驚くほどに死人が少ないということだがその分長く苦しむとのことだ。日本だって水際で堰き止めようとしていたが、海外からのミュージシャンなんかが多く来日していることで完璧には防ぎきれなかったらしい。だが今の問題はそこではなく。



「あの、エアロードさんこのままじゃイベント参加も難しいんじゃ……。何とかなりませんか?」


「うむ、吾輩もどうにかしたいと思う。個人としても社長としてもだ」



 僕にはどうすればいいのか分からないが社長にはどうすればいいかのヴィジョンが見えているらしい。個人の趣味が絡まない限り非常に頼もしいと言ってもいいだろう。実験癖さえなければ本当に。



「ということで沢渡君。アイドルプロデューサーに興味はないかね?」


「ひょ?」



 頼もしいという評価を下すのは早すぎたかもしれない。

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