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風天使にお見舞い ③


「…………なんでまだいるの?」


「えっ、そりゃ病人を後輩一人に任せて帰るとか出来ないし。しかも気持ちよさそうに眠っちゃってるし、メモだけ残して帰るって言うのも薄情だしねー」



 エアロードさんが起きぬけにいきなりそんなこと言ってきたがこちらにもこちらの事情があるのだ。事情というより心情だが。

 お見舞いに来ておいてやったことを何も知らせず帰るのはどうかと思う。特に僕が何やったか知ったら一発は殴りたくなるだろうし。その説明を自分の口でしないのは卑怯だと思う。

 幸い顔色はいつものように戻ってきてるし体力も戻ってきているだろう。



「……なんか、部屋が綺麗になってる気がする」


「うん、床に放置してあった服とか下着とか全部洗っておいたからね。外に干すのはどうかと思ったから部屋干ししてあるよ」


「ハァ!?アレを全部!?下着まで!!!??」


「うん。というかエアロードさんもあれはどうかと思うんだね」



 何を言われたのか理解したのか、エアロードさんが怒りと羞恥で顔を真っ赤にしながら叫ぶ。そりゃ下着まで洗われてたらそうなる。しかも当然洗濯していない脱ぎ散らかしていた奴をだ。僕はまるで気にしないが女性が怒るというのは理解出来る。



「ひ、人の下着触って洗うとか常識ないの!?」


「いやだって掃除する時滅茶苦茶邪魔だったし……。歩く為の隙間があるだけって言うのはどうかと思うよ。いや本当にあのままだったらまた体調崩しそうだし」


「うぐっ……!?ひ、否定は出来ないけど……!!っふーーーー……。いいわ、常識はあるというのは理解したから聞き直すわ。女の子の下着を触るのに羞恥心とかはなかったの?」


「女子が着けてるならともかく脱いだ後の下着とかただの布っ切れだし別に……。洗濯物をよせるときとかエルの分もやってるし」



 男子高校生としてどうかと思われるがぶっちゃけ言ってしまえば下着単体で興奮することなどないと断言出来る。一ヵ月以上もエルと一緒に暮らしていたら色々と麻痺してくるのだ。無防備すぎて階段を上る時とかスカートの中が見えそうになって必死に欲望抑え込んだりしてるし。



「エルとかエアロードさんが着てる状態だったらそりゃヤバいくらい見たいけど、それは二人が着てるからで脱いだあとなんてただの洗濯物にしか見えないよ」


「んんっ!!わ、私が着てる状態なら見たいんだ……」


「そりゃ見たいけど。あれ、大丈夫?また顔赤くなってるけど」



 怒りと羞恥心からの赤じゃない気がする。一度話を聞くことにしたからかそこらへんは引っ込んだのだが、僕の言葉にまた彼女は顔を赤くしていた。



「な、何でもないわ!!ええ、承認欲求が満たされて興奮したとかそういうんじゃないから勘違いしないでよね!!!」


「…………僕が言うのもなんだけど、エアロードさんも業が深いね」



 段々と不安になってくる。エルと言いエアロードさんと言いなんというかこう、微妙に無防備というか危うい所がある。悪い男とかに引っかかったりして一生を棒に振りそうな感じというか。



『お兄さんみたいなタイプとか物凄い突き刺さりそうだもんね、天使共。私達下級悪魔とは別の意味で人間味があるって言うか。純粋過ぎる感じかな?』


『それより僕の評価に一言言いたくなるんだけど。まるで僕が天使達を引っ掛ける悪い男みたいに言うじゃないか』


『いやだって、ねぇ……?最近交流してるあの会社の悪魔も同じこと言うと思うよ?』


『解せぬ』



 心の中でリルナが的外れな評価を下してきたがそれについては横に置いておく。この相棒の言う通りエルもエアロードさんも純粋過ぎるというか、人に愛されるような仕草が多い気がする。物凄い失礼な事だとは思うのだが、どうにもこの印象は拭いされない。



「ま、まぁ今回に関しては許すわ。放置しておいた私が悪いわけだし?部屋を掃除してこうして床の大半を見えるようになったわけだし?これで下着に興奮してたら殴ってたと思うけど!!!」


「一発くらい殴られても良いんだけど。僕がしたこと、常識がないのは分かってるし」


「それならやめておきなさいよ。こんな小さい女の子に殴られるとか絶対嫌でしょ」


「やったことの責任ならとらなきゃいけないでしょ。それに無断で触られたエアロードさんの方が嫌だろうし」


「いや私は私を注目してくれるならそれ以外は別に……。私を見て興奮してくれるならそれが一番だし……見られてる感じがして物凄くイイし……」



 どうしよう、エアロードさんが自分を抱くように両手で腕を掴んで身体をくねくねさせてる。もしかしたらなんだが表面上はエルの方が非常識っぽいけど一皮むいたらこっちの方がヤバいのではなかろうか。



「ねぇ、エアロードさん。もしも、もしもだけど街中で男の人がナンパして来たらちゃんと断れる?」


「はぁ?断れるに決まってるじゃない。私これでもアイドルしてるのよ?そういうののあしらい方だってちゃんと勉強してるのよ」


「それならいいけど……」


「それにエルならともかく私みたいな小さいのをわざわざナンパする奴いないでしょ」


「いやいや、エアロードさん滅茶苦茶可愛いじゃんか。アイドルやってるって知らなかった僕ですらそう思うんだから知ってる人はアイドル補正もあって余計可愛く見えると思うよ。エルが居なかったら僕だって思わず声掛けそうになるだろうし」


「んんっ!!……ちょっと、私を褒め殺しにしてどうするつもり?お金?お金が欲しいのかしら?いくらで褒め殺しプレイしてくれるの?」


「エアロードさん、財布を取りに行こうとしないで?本当に、本っ当に心配になってきたんだけど。エルだってもう少し危機感持ってる……。いや持ってるか?あれ?あっちも不安になってきたぞ……?」



 ちょっと強めに誘ったり凄い褒めたりしたらホイホイついていきそうで怖い。エルとは別ベクトルだが凄い美少女だし危機感をちゃんと持っててほしいのだがこれだと不安になる。

 というか褒めてるだけなのにプレイとか言うのはやめて欲しい。僕だってなんか変な気分になってきてしまう。僕だって男子高校生、そういう“欲望”は人並み以上にあるのだ。



『人並み以上というか、そういうレベルじゃ収まらないんだけど。アタシの能力の燃費がいいとはいえ無限と言っていいレベルの能力行使できるのはお兄さんが異常だからだと思うよ。本当に異常なのはそれを抑えつけてる理性だけど。なんでそんな我慢できるの?』


『だって、欲望全開にしてエルに嫌われたら死んでも死にきれないし……。欲望丸出しとか男として滅茶苦茶恥ずかしいことだと思うし。僕、格好悪いことはしたくないんだよね、絶対』


『ふぅーん、まぁ納得しておこうか』



 エルやエアロードさんとかリルナ、美少女だらけの彼女達にやりたいこともやってほしいことも山ほどあるがそれを表に出すのは獣みたいというか、格好悪いだろう?

 美少女の着替えが見たいというのはものすっごく理解できるがそれを実行するのは格好悪いし、そんな格好悪い所自分であるのは凄く嫌だ。僕は綺麗で可愛い好きな人の隣に立つのに相応しい人間でありたい。それが僕の“欲望”の根幹なのだから。



「まぁ、エアロードさんに色々と言いたいことが増えたんだけど。それよりお腹は空いてる?あの様子じゃ何も食べてなかったと思うけど」


「えっ、あっ……」



 僕に空腹かどうか聞かれた瞬間に腹の虫が鳴いた。質問されたことで身体が空腹を認識したのかもしれない。中々大きい音を出したことで涙目になってるエアロードさんに苦笑しつつ焚いたご飯を使っておにぎりを作り始める。



「とりあえずおにぎり作っちゃうね。食べられない具とかある?」


「えっと、昆布とかは苦手ね。海藻はあんまり得意じゃないし……それ以外なら特に問題はないわよ」


「じゃあ鮭と梅干、あとおかかのおにぎり二個ずつ握っちゃうから。食べきれない分は持って帰るか冷蔵庫に入れておこうと思うけどどうする?」


「……じゃ、じゃあ冷蔵庫に入れておいて欲しいわ。明日の朝食べちゃうから」


「ん、了解。それじゃあ座って待ってて」



 炊いたばかりのご飯は熱いが、手早く三角形にむすんでいく。こんな物は慣れで何とかなるものだ。なおエアロードさん宅にお米はあったが具はなかった。事前にスーパーに寄っておいてよかったと思う。でなければ塩むすびくらいしか作れなかった。



「リンゴはどうする?おろしりんごにするかそのまま食べるか。もしくはうさぎさんか」


「…………うさぎさんで。ちゃんと食べるからお願いしてもいい?」


「もちろん。ちゃんとやるから待ってて」



 簡単におにぎりを作ってそれをエアロードさんの前に出してデザートについても聞いておく。時間さえあるのならゼリーにでもしていたのだが流石にそこまでは出来なかった。包丁でこちらも切ってしまう。エルがこういうのに対して目を輝かせるのですっかりやり方は慣れてしまった。



「はい、どうぞ」


「ん、ありがとう……美味しい」


「そりゃよかった。お代わりが欲しかったら言ってくれればいいから」



 使った食器をささっと洗ってしまう。それが終わればもうやることはない。ただ立っているだけではエアロードさんも嫌だろうし、許可を取って対面に座らせてもらう。

 予想通り彼女は今日一日何も食べていなかったのだろう。大きめに作ったおにぎりを3個、ペロリと平らげてりんごも3切れ食べてしまう。



「おっと、米粒ついてるよ」


「んなっ!?……さ、沢渡君、いつもエルにもこんなことしてるの……?」


「エルに?いや、エルにはしてないけど」


「そ、そうなのね」



 だってエルは米粒一つたりとも残さないからね。お箸も上手く使って茶碗の中のお米も全て平らげるのだ。見ていて気持ちのいい食べっぷりだと言わざるをえない。

 エアロードさんも普段はそうなのだろう。昼食や夕食を一緒にした時の様子を見る限りはだが。だから今のように頬にお米をつけるなんて言うのはそれだけ空腹だったという証だろう。



「……そういえば、今は何時なの?」


「もう8時くらいだね。そろそろ帰らなきゃいけないや」


「8時!?ね、ねぇ、エルが夕食待ってるんじゃないの?」


「先にちゃんと連絡してあるから大丈夫だよ。ちょっと怒ってたけど今度いうこと一つ聞くって言ったら滅茶苦茶機嫌よくなってたし。昨日の残りもあるから夕食には困らないだろうしね」


「……そんな約束簡単にしていいの?というかエルの方を優先すればいいのに」


「言ったでしょ。体調悪い人を後輩に任せて帰るのは嫌だって。そんな格好悪いのはごめんだよ。エルには悪いけど今回はエアロードさん優先だね」


「……そう。エルより、優先してくれるんだ」



 こうしてエアロードさんの対面に座って見ているとその表情がコロコロ変わって可愛らしい。エルとは違った魅力があるしそこまで対抗意識を持つ必要はないと思うのだけど。

 ただそこはもう本人の意識の問題で、何を求めるかは他人が決めることではないだろう。りんごを食べる彼女と他愛のない会話をしながらそんなことを想っていた。


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