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光天使の嫉妬

 エアロードさんのお見舞いに行き、色々と話した次の日。彼女は体調も戻ったようでちゃんと学校に来ていたらしい。我がクラスにいる彼女のファンに聞いたら物凄い勢いで教えてくれたのだ。

 ああ、当然その彼はストーカーなどではないから安心して欲しい。僕のクラスメイトに変態はいても犯罪者はいないのだ。……僕はドッペルとして街を破壊した記憶もあるので僕を除くと言った方が良いかもしれない。



「ということをシルフィパイセンに言ってたっす!!!」


「ふーん、そうなんですか。ふーーーーーーん。私より優先したんですね。ふうううううううん」


「アリナ貴様ァ!!!エルに密告するとはいい度胸してるじゃないか!!!捕まえて拷問にかけてやる!!!」



 エルを迎えに教室まで言ったら昨日の件に関してエルに報告しているアリナがいた。エルは腕組してそっぽを向きながらチラチラとこちらを見ている。滅茶苦茶可愛い。



「いやだって冗談でつけたスケコマシパイセンってあだ名がマジだったら報告したくなるじゃないっすか。エルっちパイセンに頼まれてたましたし」


「ねぇ、その被害を受けて私が正座してるんだけど。それでも何か言うことないの?」


「いや、随分幸せそうだったなぁとしか。というかエルっちパイセンそこまで言ってないじゃないっすか」


「今のエルに対して無条件降伏以外できることあるの?それと私が言いたいのは覗いたことを謝れってところなんだけど???」



 エアロードさんもエルに捕まったのか床に正座させられていた。いや、正座しろと言われたわけではなく怒りを冷ます為に自ら動いたのか。僕もまたエルの視線に屈し、エアロードさんの隣に正座することにした。エアロードさんがぎょっとした目でこちらを見てきたが許してほしい。

 しかしなんてこった。敵は身内にいたのか。まさかエルがそんなことを頼んでいるとは思わなかった。うん、これに関しては本当に予想外だった。そしてその反応もまた予想外だった。



「お、落ち着いてエル。優先といってもあれはあの時だけだよ。それに相手は病人だったわけだしそこは考慮して欲しいかなって」


「……じゃあ私が風邪を引いたりしたら私を最優先してくれますか」


「えっ、当然じゃないか。何を置いても優先するよ?」


「そ、そうですか。それなら、はい。許します……」



 もしも上級悪魔が来たとしてもその時はエルの無事を優先するだろう。そう考えると離れていても戦えるような技を作っておいた方が良いかもしれない。“影形”の操作範囲と操作技術、あと一度に出せる数を何とか上げたいな。



「チョロい!!チョロいっすよエルっちパイセン!!!いや本当に悪い男に捕まってるっすよ!?エル先輩!!!」


「悪い男呼ばわりはやめてもらおうか」


「いやだって本当に悪い男じゃないっすか。女の子の心の柔らかい部分にするっと入ってくるタイプっすよ。それも意識しないでやってるっていう一番厄介なタイプ」


『アタシも同感。お兄さんはやってること自体はいいことなんだけどもう少しこう、心臓に優しくしてくれてもいいと思うのよ』


「僕にどうしろというんだ……?」



 風評被害というものだ。僕は風邪を引いたのがエアロードさんじゃなく、例えば智弘君だったとしても同じことしてたし。まぁその場合智弘君は「なんでお前女じゃないんだろうな……?」とか言い出しそうだけど。



「ただまぁ捕まる理由は分かる気がするわね。弱ってる時にあそこまで献身的にされたら抜け出すのも難しい気がするわ。しかもエルの場合は毎日だし」


「し、しるふぃ……?あ、あの……ま、まさか……?」


「気持ちが分かるってだけよ。だからそこまで怯えた顔するんじゃないわよ。とったりしないし、とれるとも思ってないから」


「そ、それなら……。シルフィは可愛いから、本気になられたら困ります……」


「ならないから安心しなさいってば。本当にクールなのは外見だけというか……。というかそこまでするならさっさと告白しなさいよ」


「……だって、告白ならもっと特別な所がいいですもん……」


「変なところで乙女ねアンタ。いや気持ちは分からないでもないけど」



 アリナと話しをしてたらなんかエルの頭をエアロードさんが抱きしめてる。背が足りないのか頑張って背伸びしている所が微笑ましい。本当に仲が良いんだと改めて認識する。


 だがエルをここまで心配させるというのは確かに悪いことをしていたのだろう。反省すべき点は大いにあるのだ。まずはリルナの言う通り心臓に優しい言い方というのを学ぶべきか。とりあえずは思ったことをそのまま口にするべきではないってところを意識していこう。



「とりあえずスケコマシパイセン、いやリョウパイセンも反省したみたいっすね。女の子の心を弄ぶ奴は地獄に落ちるので気をつけてくださいね」


「最後だけガチトーンで言われると怖いんだけど……」


「そりゃガチで言ってますから。というかエルっちパイセン、アタイの友達とかそこらへんにも大人気っすからねぇ。そういう人に見られるとマジで喧嘩売ってくるかもしれないっすよ」



 マジか。いや、エルのことを考えればそういう人がいるのは想定内なのだが問題なのはそれをアリナが伝えてくることだ。これは僕を応援してくれているのだろうか。押してダメだなら更に押せと言っているのだろうか。今の時点でもかなり心臓に負担をかけている自覚があるのだが。



「うーーーーん……。でも僕、エルの熱烈なファンとか見たことないけどなぁ……。幼馴染だからそういう人がいたら見てると思うんだけど」


「隠れるのが得意な奴らっすからね!!!リョウパイセンの目から隠れるなんてそりゃお茶の子さいさいって奴っすよ!!!」


「それは最早ストーカーと言っていいのでは?」



 そこまで話したところでスマホからアラーム音が鳴り響く。バイトに行く時間を示すそれに合わせて時計を見ていれば随分と話し込んでしまっていたらしい。学校から会社まで走ればギリギリ、と言ったところだろう。つまり、遅刻寸前ということだ。



「ヤバっ、悪いけど二人とも今日は帰るね!!エル、今日はスパゲッティにしようと思うけどソースは何がいいかな?」


「ミートです。ミートが一番なんですよリョウ君。材料は私が買って帰るので安心してください」


「うん!!僕もミートソースが一番好きだよ!!じゃあ悪いけどよろしく!!!」



 鞄を持って急いで教室を出る。今日はドッペルとしての戦闘訓練が入っているから急がないとまずい。遅れたら複数人を相手にするスペシャルメニューに移行すること間違いなしだ。段々と力を取り戻している彼女達を複数相手にするのは中々に辛いものがある。

 そうやって教室のドアを閉める時、ボソッとアリナが呟いたのを僕の聴覚は聞き逃さなかった。



「……認識阻害は影響してる、か」



 さっきのエルのファンに対しての話で探りに来たのだろう。リルナが危険信号出してくれたから何とか会話を合わせることが出来たと思う。全部知っているのに知らないふりをするというのは、中々に大変だと再認識する。

 だけどまぁ、僕がドッペルだとかそういう疑いを持っているわけではなさそうなので問題はない。そりゃあの姿で天使達の前に出たのは一回しかないので当然と言えば当然だと思うけど。



『そもそもあの天使は疑うことが前提になってるから気にしすぎるのもストレス溜まるだけだと思うよ。アタシにはなんとなくわかる、あれは人間不信だって』


「目をつけられないようにこれまで通り大人しくしておかないといけないってことかぁ……」


『えっ、今まで大人しくしてるつもりだったの?アレで?マジで???』



 何故かリルナが物凄く困惑しているが僕はいつも通りに生活しているだけなのだ。これで疑われるとか最初から僕が変な奴だと言われてるみたいで、困るぞ。

 リルナが「いや最初から変だと思うけど……」と失礼なことを脳内で言っているのを聞きながら僕はバイト先へ走っていった。



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