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潮風カフェに遅すぎた恋が来る  作者: スパイク
第3章 遅すぎた恋は、黒糖プリンより手がかかる

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黒糖プリン婚活会、開幕します ――リョウちゃん司会で調子に乗り、美人店主の視線が冷える

「しおかぜ」は、またカフェではないものになろうとしていた。


昼下がり。

常連のおばあたちが、いつもの席で黒糖プリンを食べながら作戦会議をしていた。


「玲奈ちゃん、若い人たちの出会いの場が少ないさぁ」


「内地から移住してきた子も増えてるけど、島の子とあんまり話す機会ないわけ」


「しおかぜで交流会したらいいさぁ」


玲奈は即座に眉を寄せた。


「うちは婚活会場ではありません」


だが、亮介の目はもう輝いていた。


「いいですね。黒糖プリン婚活会」


「名前が軽すぎます」


「分かりやすいです」


「分かりやすければ良いというものではありません」


そもそも、玲奈と亮介自身が婚活パーティーで出会っている。

しかもその後、詐欺、潜入、別離、仮釈放、門司港、石垣再会という、普通なら昼ドラでも詰め込みすぎと言われる道を通ってきた。


玲奈は真顔で言った。


「私たちが婚活イベントを主催するのは、かなり危険では?」


亮介は少し考える。


「反面教師としては優秀です」


「開き直らないでください」


それでも、おばあたちの押しは強かった。


「玲奈ちゃんとリョウちゃんがおったら安心さぁ」


「変な人来たら玲奈ちゃんが睨めば帰るさぁ」


「リョウちゃんは場を盛り上げる係ね」


結局、玲奈は折れた。


「一回だけです」


「やったさぁ!」


「ただし、節度ある交流会です。婚活という言葉は前面に出しません」


「じゃあ黒糖プリン交流会?」


「それなら可です」


当日、「しおかぜ」は小さな交流会場になった。


島出身の若者。

内地から移住してきた女性。

観光業、漁協、農業関係、役場勤務、ダイビングショップのスタッフ。

人数は多くないが、空気は明るい。


玲奈は厨房で黒糖プリンと軽食を準備し、亮介は司会役として店の中央に立った。


大学をフェードアウトしたあと、夜の店で黒服をしていた時期もある亮介は、こういう場に妙に強かった。


「本日は、黒糖プリン交流会へようこそ。堅苦しい会ではありません。まずは隣の人と、“島で一番好きな景色”を一つ話してください」


場が一気にほぐれた。


玲奈が厨房から小声で言う。


「さすが元黒服」


「聞こえてます」


「褒めてはいません」


「でも評価はされてますよね」


亮介は絶好調だった。

会話が止まりそうな席へ自然に入り、話題を振り、笑いを作る。黒糖プリンを出すタイミングも見事だった。


ただし、問題もあった。


亮介がモテる。


「リョウさんって、島の人ですか?」


「今は、しおかぜの人です」


「素敵ですね」


「ありがとうございます。店主に聞かれると減点されます」


女性参加者が笑う。


厨房の玲奈の手が止まる。


常連のおばあが横からささやく。


「玲奈ちゃん、目が冷たいさぁ」


「冷たくありません」


「プリン冷やすより冷たいさぁ」


「温度管理です」


「リョウちゃんの?」


玲奈は返事をしなかった。

その沈黙だけで、おばあたちは大満足だった。


イベント自体は、かなりうまくいった。


特に目立ったのは、島出身で口下手な漁協勤務の青年と、内地から移住してきた女性だった。女性は島の自然が好きで移住してきたが、まだ知り合いが少ない。青年は海のことなら誰より詳しいのに、人前では言葉が少ない。


亮介は、そっと二人の間に会話を置いた。


「彼、夕方の港のことなら何時間でも話せますよ。彼女さん、島の夕景が好きって言ってましたよね」


青年は顔を赤くしながら、ぽつりぽつりと話し始めた。

女性は楽しそうに頷いた。


「今度、その港、教えてください」


青年は固まった。


「……はい」


玲奈は遠目にそれを見て、ほんの少し笑った。


「悪くありませんね」


亮介が戻ってくる。


「でしょう?」


「ただし、あなたが目立ちすぎです」


「司会なので」


「女性参加者と話しすぎです」


「司会なので」


「後で反省会です」


亮介の笑顔が少し引きつった。


交流会の最後、参加者たちは明るい顔で帰っていった。

おばあたちは大満足。


「またやるさぁ!」


玲奈はすぐには答えなかった。


だが、例の青年と移住者の女性が、次は二人で「しおかぜ」に来る約束をしているのを見て、口元が少し緩んだ。


閉店後。


亮介は姿勢よく椅子に座った。

玲奈はコーヒーを置く。


「本日の司会進行は八十五点です」


「高い」


「会全体の雰囲気づくり、話題振り、黒糖プリン提供タイミングは良好でした」


「ありがとうございます」


「ただし、女性参加者への愛想が過剰です」


「やっぱりそこですか」


「そこです」


亮介は苦笑した。


玲奈は少し視線を逸らす。


「……でも、良い会でした」


亮介は柔らかく笑った。


「またやります?」


玲奈は少し黙った。


「検討します」


亮介が笑う。


「それ、玲奈さんにしてはかなり前向きですね」


「調子に乗らないでください」


そう言いながら、玲奈の表情は少しだけ優しかった。


「しおかぜ」は、黒糖プリンを出すだけの店ではない。

誰かが少し勇気を出す場所で、誰かの沈黙が会話に変わる場所でもある。


そして、元警部補の美人店主と、調子に乗りがちな気のいいウェイターは、またひとつ島の笑顔を増やしてしまった。

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