潮風の店主は、もう一つの故郷へ帰る ――戦隊ヒロインOG会と、島人になった元警部補が開く「遠い記憶の扉」
南ぬ島で暮らすようになってから、岡本玲奈は、いつしか時間を数えなくなった。
何年目。
何か月目。
そんな数字に意味を感じなくなったというほうが近い。
朝になれば「島カフェ しおかぜ」の扉を開ける。
まだ涼しい時間に家庭菜園を見て回る。
島野菜の葉についた朝露を眺め、トマトの色づきを確かめる。
厨房へ戻れば黒糖プリンを仕込む。
卵を割り、黒糖を溶かし、その日の湿度と気温を感じながら、火加減をほんの少し調整する。
昼になれば観光客が来る。
常連客が来る。
夕方には、窓際の二人掛けソファ――亮介だけが頑として「ロマンスシート」と呼ぶ席へ、西日が差し込む。
そして、その亮介は今日も朝から余計なことを言っている。
「玲奈さん」
「はい」
「今日の黒糖プリン、昨日より〇・三ミリ柔らかいですね」
玲奈はプリン液を型へ流しながら、顔も上げない。
「まだ蒸していません」
「完成形を予測しました」
「何を根拠に?」
「毎日見ていますから」
「では昨日は何分蒸しました?」
亮介が止まる。
「……二十分?」
「違います」
「二十二分」
「違います」
「二十一分」
「当てずっぽうですね」
亮介は胸を張った。
「元営業部長の勘です」
玲奈はようやく顔を上げる。
「元投資詐欺会社の?」
「朝から肩書を正確にしないでください!」
こんな朝が、今の玲奈の日常だった。
兵庫県警の制服を着ていたこと。
警部補として事件現場へ立っていたこと。
県警の特命でNSTの任務へ入り、危険な相手と駆け引きをしていたこと。
戦隊ヒロインとして、華やかな照明の下へ立っていたこと。
どれも消えてはいない。
忘れようとも思っていない。
大切な記憶であり、自分がここまで歩いてきた証でもある。
ただ、随分遠くなった。
今の玲奈にとって切実なのは、県警内部の人事よりも、家庭菜園のゴーヤが育ちすぎていないかということ。
特命任務の集合時刻より、黒糖プリンを冷蔵庫から出す時間。
戦隊ヒロインのステージ構成より、昼時にロマンスシートへ直射日光が入りすぎないか。
そして、静かなはずの朝を毎日騒がしくしてくれるウェイターが、今日もきちんと店へ来ていることだった。
「玲奈さんって」
亮介が冷蔵庫へ島野菜を入れながら言った。
「もう完全に島人ですよね」
玲奈が振り向く。
「そうでしょうか」
「そうですよ」
亮介は指折り数える。
「家庭菜園やってる。台風が来そうだと三日前から窓を気にする。観光客に島の穴場を説明できる。スーパーで島野菜の値段に一喜一憂する」
「一喜一憂はしていません」
「トマトが高かった日は帰り道まで言ってました」
「品質との釣り合いについて述べただけです」
「それを一喜一憂って言うんです」
玲奈は苦笑する。
「亮介さんも、随分島に馴染みましたね」
「俺も島人です」
「四国出身でしょう」
「心の戸籍を移しました」
「そのような制度はありません」
二人で笑う。
玲奈はもう、この空気を自然なものとして受け入れていた。
かつての戦隊ヒロイン仲間との縁が切れたわけではない。
今もSNSではつながっている。
美月が相変わらず派手な写真を投稿する。
麻衣から近況が届く。
あかりが妙に短い文章だけ送ってくる。
昔のNSTメンバーも、それぞれの場所で生きている。
直接会う機会は減った。
けれど、誰かに何かがあれば自然と情報は回ってくる。
その中でも、玲奈が比較的頻繁にやり取りしている一人が西川彩香だった。
彩香。
かつて玲奈を慕っていた後輩。
玲奈の警察官としての姿に憧れ、とうとう自分も兵庫県警へ入った女性。
ある日の午後。
客足が途切れ、店内が少し静かになった頃。
玲奈のスマートフォンが震えた。
彩香からだった。
最初は、いつもの近況報告だと思った。
だが文章は、少し長かった。
戦隊ヒロインのOGイベントを企画している。
かつて活躍したメンバーが久しぶりに集まり、ステージへ立つ。
昔の映像や思い出話だけではなく、卒業後にそれぞれがどのような道を歩いているのかも紹介したい。
そして最後に。
玲奈さんにも、ぜひ来ていただきたいです。
さらに、もう一通届く。
私が警察官を目指したのも、玲奈さんがいたからです。
今度は警察官になった私として、もう一度玲奈さんと同じ場所に立ってみたいです。
玲奈はしばらく、その文章を見ていた。
懐かしい。
嬉しい。
それなのに、返事の言葉がすぐには出てこなかった。
「どうしました?」
亮介が気づく。
玲奈はスマートフォンを伏せた。
「彩香さんからです」
「ああ。玲奈さんに憧れて警察官になった」
「はい」
「何かあったんですか?」
玲奈は画面を見せる。
亮介が読む。
「戦隊ヒロインOG会」
「イベントステージだそうです」
「いいじゃないですか」
返事が早い。
玲奈は苦笑した。
「簡単に言いますね」
亮介は顔を上げる。
「行きたくないんです?」
「そうではありません」
「じゃあ行きたい?」
玲奈は少し黙る。
その沈黙だけで、亮介には十分だった。
「行きたいんですね」
「……少しは」
玲奈は店内を見渡した。
カウンター。
厨房。
冷蔵庫。
黒糖プリン。
窓際二名席。
店先の鉢植え。
今では、どれも自分の生活の一部だ。
「店がありますから」
「俺がいます」
亮介が胸を張る。
玲奈は即答した。
「それが心配です」
「またそれ!」
「何日か一人で営業するおつもりですか?」
「できますよ」
「料理は?」
「簡単なものなら」
「先日のお子さまランチを覚えています?」
亮介が黙る。
「……あれは創作料理です」
「創作する前に基本を覚えてください」
「コーヒーは淹れられます」
「毎回、微妙に味が違います」
「個性です」
「安定していないだけです」
「言い方!」
玲奈は笑った。
結局、その日は彩香へ、
少し考えさせてください。
とだけ返した。
それから数日後だった。
「しおかぜ」の入口のベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
玲奈が顔を上げる。
そして珍しく目を丸くする。
「……遥室長?」
その後ろに、隼人補佐官もいた。
南ぬ島まで、二人揃ってやって来たのである。
亮介まで驚く。
「本当に来たんですか?」
遥が答える。
「来たわよ」
「電話じゃ駄目だったんです?」
「玲奈とは直接話したかったから」
隼人がごく普通に補足する。
「室長が来ると決めましたので」
亮介は隼人を見る。
「……なるほど」
隼人も見る。
「何です?」
「いや。何でもありません」
妙な親近感を覚えた顔だった。
遥は玲奈へ今回の企画を改めて説明する。
単なる懐古イベントにはしたくない。
昔の人気者を集めて、懐かしい映像を見て終わる。
それでは意味がない。
戦隊ヒロインだった女性たちが、その後どんな人生を選んだのか。
それを見せたい。
警察官になった者。
別の仕事を選んだ者。
結婚した者。
故郷へ帰った者。
地域へ根を下ろした者。
人生は、ヒロインを卒業したところで終わらない。
その象徴として、玲奈に出てほしいという。
「あなたは特にそうなの」
遥が言う。
「兵庫県警の警部補で、NSTの特命任務に入って、戦隊ヒロインまでやっていた」
玲奈は静かに聞いている。
「でも全部卒業して、今は南ぬ島のカフェ店主」
遥は店内を見回した。
「こういう人生もあるんだって、後輩たちに見せてほしいの」
玲奈は少し視線を落とした。
「昔の玲奈に戻ってほしいわけじゃない」
その一言だけは、胸の奥へ静かに入ってきた。
「今の玲奈として来てほしい」
亮介は横で、何度も頷いている。
「行きましょう」
玲奈が振り返る。
「なぜ亮介さんが決めるのです?」
「背中を押してるんですよ」
「押しすぎです」
「店なら俺が」
「一人では任せません」
「まだ言います?」
玲奈が尋ねる。
「では、黒糖プリンを作れますか?」
「毎日見てます」
「昨日は何分蒸しました?」
亮介は考える。
「……十九分」
玲奈。
「二十三分です」
亮介。
「四分なんて誤差でしょう」
玲奈。
「プリンでは大きな差です」
亮介は天井を仰ぐ。
「恋愛より繊細だな」
玲奈が止まる。
「何の話です?」
「黒糖プリンです」
「今、恋愛と言いました」
「聞き間違いです」
「はっきり聞こえました」
遥が吹き出した。
隼人も口元を緩めている。
亮介は援軍を求めるように隼人へ近づいた。
「隼人さん」
「はい」
「分かりますよね」
「何がです?」
亮介は声を少し落とす。
「こういう、女性側が最終決定権を全部持ってる感じ」
隼人が一瞬、遥を見る。
遥もこちらを見る。
隼人は即座に姿勢を正した。
「室長の判断は、概ね合理的です」
亮介は目を丸くする。
「完成されてる!」
「何がです?」
「いや、俺なんかまだ抵抗するでしょう?」
玲奈が横から言う。
「抵抗というより、余計なことを言っているだけです」
「ほら、こういう感じです!」
隼人は冷静だった。
「必要のない反論をしなければよいのでは?」
亮介が感心する。
「先輩ですね」
「何の?」
亮介は声を潜める。
「恐妻家として」
隼人。
「結婚していません」
亮介。
「俺もです」
遥が腕を組む。
「じゃあ、誰が妻なの?」
玲奈も首を傾げる。
「本当に誰でしょう」
亮介は追い詰められた。
「……概念です」
隼人が低い声で言う。
「私まで巻き込まないでください」
亮介は裏切られた顔になる。
「さっきまで仲間だったでしょう!」
「仲間になった覚えはありません」
「冷たい!」
ところが直後。
遥が、
「隼人、資料」
と手を出す。
「はい」
隼人が即座に必要な書類を渡す。
亮介は小声で言う。
「やっぱり一緒じゃないですか」
隼人も小声。
「聞こえますよ」
「誰に?」
「両方です」
二人で顔を上げる。
玲奈と遥が、こちらを見ている。
「何を話しているの?」
遥が尋ねる。
亮介。
「仕事です」
隼人。
「そういうことにしておきましょう」
「そこは合わせてくださいよ!」
玲奈まで笑う。
遥も笑う。
何だかよく分からないが、亮介と隼人はその日だけで妙に気が合った。
少なくとも亮介は勝手にそう思った。
話が終わり、遥と隼人が店を出た後。
「しおかぜ」に夕方の静けさが戻った。
玲奈は窓際の二人掛けソファへ座る。
亮介も、自然に隣へ。
海が少しずつ金色へ変わり始めていた。
「迷ってますね」
亮介が言う。
「分かります?」
「最近は」
玲奈は少し笑う。
「行きたくないわけではないんです」
「はい」
「むしろ、行きたいのでしょうね」
神戸。
その言葉を口にするだけで、いろいろな景色が蘇る。
街の空気。
坂道。
兵庫県警。
制服。
NST。
仲間たち。
そして丹波篠山。
青春時代を過ごした土地。
今でも神戸も丹波篠山も、玲奈にとって大切な場所だった。
南ぬ島を好きになったからといって、昔を捨てたわけではない。
「私、もうすっかり島の人でしょう?」
「ですね」
亮介は即答。
玲奈が見る。
「そこは少し否定していただいても」
「だって本当にそうでしょう」
「そうですか」
「でも」
亮介は笑う。
「神戸も全然抜けてないですよ」
玲奈が首を傾げる。
「どこが?」
「たまに神戸弁出ます」
「そんなに出ています?」
「俺に呆れた時、特に」
玲奈は思わず、
「そうやった?」
と言った。
亮介が即座に指差す。
「今!」
玲奈が黙る。
「ほら!」
「……出ましたね」
二人で笑った。
そして玲奈は少しだけ表情を変えた。
「久しぶりに帰ってみようかな」
亮介は何も言わず、続きを待つ。
「OG会だけではなくて」
両親と祖母の墓へ行きたい。
そして、恩人である黒川玄蔵にも、今の自分を報告したい。
神戸の純喫茶「霧笛」にも顔を出したい。
店を始める前、自分へさまざまなことを教えてくれた女主人に会いたい。
かつて「しおかぜ」でアルバイトをしていた、みうちゃん。
女子高校生だった少女は、今では尼崎で美容師として働いている。
彼女にも会ってみたい。
できれば丹波篠山にも。
「戦隊ヒロインのためだけに帰るのではなくて」
玲奈は海を見る。
「一度、きちんと里帰りをしてみようと思います」
亮介が頷く。
「それがいいですよ」
「店は休むことになります」
「そこは俺に任せて――」
玲奈が見る。
亮介は途中で修正する。
「……臨時休業にしましょう」
「学習しましたね」
「俺だって成長します」
「黒糖プリンを一人で作れるようになったら考えます」
「そこが最終試験なんですか」
玲奈には、黒糖プリンについて密かな自負があった。
材料だけなら単純だ。
レシピだって隠してはいない。
けれど、その日の温度、湿度、卵の状態、黒糖の溶け方。
蒸し上がりのわずかな揺れ方。
冷やすタイミング。
それを見極める最後の加減だけは、まだ亮介には分からない。
「数字通りなら、亮介さんでも作れると思います」
「ほら」
「でも、お客様へ出すものは駄目です」
「厳しい」
「私の店ですから」
玲奈は少し誇らしげだった。
亮介はその顔を見て笑う。
「じゃあ、ちゃんと休みましょう」
「はい」
「店を閉めて」
「はい」
「玲奈さんは里帰り」
「そうします」
決めてしまうと、不思議なくらい気持ちが軽くなった。
その夜。
玲奈は臨時休業の日程を決めた。
店内へ貼る案内も作った。
仕入れ先への連絡。
家庭菜園の水やり。
冷蔵庫に残る食材の整理。
やることはいろいろある。
亮介は当然、
「家庭菜園くらい俺に任せてください」
と言う。
玲奈が尋ねる。
「水をやりすぎませんか?」
「植物は水が好きでしょう」
「その発想が心配です」
「じゃあ何杯?」
「杯で数えないでください」
「園芸、難しいなあ」
「プリンよりは簡単です」
「俺、この店で任せてもらえるものが物置と雑巾くらいしかない!」
「先日は鍵を任せました」
「物置の!」
そんな会話をしながら、玲奈は少しずつ旅の準備を始めた。
久しぶりに旅行鞄を出す。
派手なものではない。
数日分の着替え。
必要なものだけ。
警察官時代のように、任務の装備を詰める必要はない。
戦隊ヒロイン時代のように、衣装や資料を大量に持つわけでもない。
ごく普通の里帰りだった。
それなのに、少し緊張する。
亮介が旅行鞄を覗く。
「それだけですか?」
「数日ですから」
「神戸寒くないです?」
「季節に合わせたものは入れます」
「傘は?」
「入れました」
「充電器」
「あります」
「財布」
「あります」
「警察手帳」
玲奈が見る。
「もう持っていません」
「ああ」
亮介は少し笑う。
「そうでしたね」
その短いやり取りで、玲奈も改めて気づく。
本当に、もう警察官ではない。
今回神戸へ帰るのは、警部補・岡本玲奈ではない。
戦隊ヒロイン・岡本玲奈でもない。
島カフェ「しおかぜ」の店主、岡本玲奈。
ただ、それだけでいい。
亮介がふと尋ねる。
「OG会、昔の衣装とか着るんですか?」
「まだ分かりません」
「似合うでしょうね」
「昔のものですよ」
「玲奈さんは今でも似合うでしょう」
玲奈が少しだけ手を止める。
「……ありがとうございます」
亮介のほうが逆に驚く。
「今日は素直ですね」
「では撤回しますか?」
「しないでください!」
玲奈は小さく笑った。
旅の荷物の隣には、亮介が用意した南ぬ島の黒糖菓子も置かれた。
「これ、霧笛の女主人さんと、みうちゃんに」
「気が利きますね」
「元営業部長ですから」
玲奈が横を見る。
亮介がすぐ言い直す。
「……余計な補足はなしでお願いします」
玲奈が笑う。
「今日はやめておきます」
「珍しい!」
「里帰り前なので、特別です」
「毎日里帰り前ならいいのに」
「意味が分かりません」
夜。
準備の大半が終わる。
旅行鞄が、店の奥に置かれている。
玲奈はふと、その鞄を見る。
随分長い間、ここに根を下ろしていた。
だからなのだろう。
ほんの数日の里帰りなのに、自分がどこか遠くへ行くような感覚がある。
亮介が横へ並ぶ。
「玲奈さん」
「はい」
「楽しみですか?」
玲奈は少し考えた。
「楽しみです」
「緊張は?」
「少し」
「何で?」
玲奈は、すぐには答えなかった。
昔の自分に会いに行くから。
そう言えば、少し大げさだろうか。
けれど、そんな気持ちだった。
神戸に残っているのは、街だけではない。
警察官だった自分。
戦隊ヒロインだった自分。
若かった自分。
誰かを守らなければならないと思い続けていた自分。
その全部が、記憶の中で待っている。
けれど今回は、それらへ戻るのではない。
今の自分を見せに行く。
南ぬ島で野菜を育てていること。
小さなカフェを経営していること。
黒糖プリンが評判になったこと。
毎朝くだらない話をするウェイターがいること。
そんな、昔なら想像もしなかった人生を。
「でも」
玲奈が言った。
「行ってみたいです」
亮介は笑う。
「じゃあ、それで十分でしょう」
「そうですね」
「神戸が嫌になったら、すぐ帰ってくればいいです」
「嫌にはならないと思います」
「じゃあ、寂しくなったら」
玲奈が横を見る。
亮介も、自分で何を言ったのか気づいたらしい。
「……店がですよ」
「店が寂しくなるのですか?」
「俺が代表して」
「亮介さんが寂しいのですね」
「元警部補、言質を取りに来ないでください」
玲奈が笑った。
その夜。
「しおかぜ」の片隅には、数日後の臨時休業を知らせる小さな紙。
その奥には、久しぶりに出された旅行鞄。
そしてカウンターの向こうには、いつもの二人。
神戸へ帰る準備は、少しずつ整っていた。
玲奈はもう、昔の華やかな戦隊ヒロインではない。
敏腕警部補でもない。
けれど、そのどちらも消えたわけではない。
ただ、その上に新しい時間が積み重なった。
潮風。
家庭菜園。
黒糖プリン。
小さな店。
そして、何でもないことで笑える毎日。
故郷へ帰るというのは、昔へ戻ることではない。
今の自分が、昔の自分に会いに行くことなのかもしれない。
南ぬ島の夜は、いつものように静かだった。
その静かな店の奥で、
島人になった元警部補は、
久しぶりの里帰りへ向けて、
そっと旅行鞄のファスナーを閉じた。




