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これは・・・ですが  作者: 斉藤一


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行方不明

交通事故で人を轢いた


普段通らない山道を、カーナビを見ながら運転していたのが悪かったのだろう


道を横断していた人に気が付くのが遅れ、ブレーキを踏んだのは撥ねてからだった


すくいあげるようにして撥ねたため、車の後ろの方で倒れている


俺は急いで車から降りて確認すると、まるでスキーからの帰りの様に毛糸の帽子をかぶり、厚い服を着た長い髪の女性だった。髪の毛がかかり、顔は見えない


今の時期は秋。そもそも俺は、紅葉を見に来たのだ。だから、まだこの様に厚手の服装をしているのはおかしい


おかしいとは思いつつも、声をかける


「大丈夫ですか?」


気絶しているのか、ピクリとも動かない。血が広がっているという事も無いので大きな外傷も無いだろう


そう思って女性を抱き起そうとして、首が180度後ろを向いている事に気が付いた


「うわっ!」


絶対に死んでいる! そう思って一旦距離を取る。が、ここで逃げたらひき逃げで捕まるだろう


警察への電話も考えたが、この現場を見ている人はおらず、車通りも全くない。血も出ていないし、すくいあげたため、車の傷もぱっと見では分からない程度の傷だ


納棺師という仕事柄、死体自体には慣れている。車には早めの冬準備としてスコップまで積んである


悪魔がささやいた。このまま無かった事にしろと


そう思ってからは冷静になり、まずは女性の身元を確認することにした


常備している薄い手袋をつけ、体を調べる。ポケットには財布があり、免許証が入っていた


「名前は……、住所は……、年齢は35歳か? もっと若そうに見えるが……」


思った通り、ここの県ではない県外からの旅行者の様だ。当然、財布の金には手を付けずに元に戻す


「他には……」


もう片方のポケットに「遺書」が入っていた。まるで、こうなることが分かっていたかのようだ


女性は小柄だったため、簡単に車の中へ運ぶことが出来た。急ブレーキを踏んだはずだが、今の車はタイヤがロックされないため、タイヤ痕も目立つほどでは無い


血痕も残っていないため、ここで事故があったと知らない限り、ただ通るだけでは何も分からないだろう


後部座席に車に乗せてあったシートを引き、女性をあおむけに乗せる。首が180度回っているので顔は見えないようにした


そのままわき道をそれて山へ入る。目立たない場所に車を止めて、スコップを持つ。そして、道路からは絶対見えない位置で穴を掘った


汗だくになって結構穴を掘り、小柄な女性なら完全に埋まるだろうと、車に戻る


スコップを片付け、女性を持ち上げる。転ばないように歩き、穴の中へ入れる


「あっ、くそ、なんで俺はスコップを片付けたんだよ! 埋めるのに使うだろ」


女性を穴の底に置いてから気が付く。急いでスコップを取りに行こうとしたとき、足首を何かが掴む


恐る恐る足を見ると、女性の手が俺の足を掴んでいる


「ぎゃーっ!」


俺はなんとか手で振り払い、後ろも見ずに車に戻り、エンジンをかける。埋めてない? 知るか!


一秒でも早く立ち去りたくてアクセルを全開にする。そして、女性が住んでいた県へ行った


次の日、ビジネスホテルに泊まった俺は真っ先に新聞を確認する。そこには女性の事は何も書かれていなかった


しばらく、その県の新聞をネットで購読していたが、遺体発見の記事もなく、行方不明の記事もない。ただ、現地に確認しに行く勇気もない


そして、何気なく過去の記事を漁っていた時、異様な記事を発見した


「行方不明者……、雪山に自殺しに入山か? だと?」


その名前は、あの免許証に書かれていた名前と一緒だった。同姓同名かもしれないが、年齢も同じだ。ただ、その記事は11年前の物だった。まさか、冷凍されていたのか? いや、そもそも歩いていただろ?


俺は混乱する頭でノートパソコンを閉じる。そして、ザリッザリッと庭の石を踏む音が聞こえた



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