第十五話
四月十二日、日曜日。
俺は車で、木佐呉市の図書館に来た。
民俗資料や信仰関係のコーナーに入り、気になる本を抱えて閲覧コーナーに移動した。
山岳信仰とか自然崇拝など、普段は読まない本を開き、目次を確認していく。
ミライ、というものが何かわからないが、ひとつだけ、推測していることがある。
ミライは、過去の信仰や崇拝の対象を焼き直したものではないか。それは、神社やお寺、集落の配置を気にしていることから、歴史の中で消えてしまったものが、再び注目されていると感じたからだ。
迎える、という言葉から、神道に通じるとも思う。
神道では、神様をお迎えし、お願いをして、お帰りいただく流れが、神事の基本と聞いたことがある。
神道に近く、しかし忘れられた信仰……長い歴史の中で、埋没してしまったもの。
俺は神様なんて、信じていない。
宗教なんて、興味はなかった。正月、法事、そういうものは信仰というよりも、イベントのような感覚でしかない。
だが、裏を返せば、現在まで脈々と受け継がれている行いともいえる。
本を選び、目次を見る。そして、ミライに近い言葉、似ている読みがないかと該当項目を調べるも、お昼を過ぎたあたりで背中が悲鳴をあげてきた。
肩をもみながら、図書館から出て周囲をぐるりと歩く。
腕をまわしながら、建物の周囲をぐるぐると歩いていると、声をかけられた。
「村上主任」
視線を転じると、木佐呉工場の総務課の女性が立っていて、手を振っていた。
「あ、こんにちは」
挨拶をすると、彼女は笑いながら歩み寄ってくる。
飯島さん、という女性で、部署は違うが席が近い。
「何してるんですか? ぐるぐるぐるぐる」
「ああ、腕? 背中がこって」
「図書館に用で?」
彼女が、建物を見て言った。
「そう、ちょっと調べもの」
「へぇ、ネットで調べる時代なのに珍しいですね?」
「ネットだと、古すぎて見つけられないかもしれなくてねぇ」
そう答えた時、少し離れたところに立つ男性が、こちらを見て声をあげた。
「ケイ! はよきやい!」
飯島さんが、パッとその方向を見て頷く。
「夫です……あなた! 職場の方!」
「あ、そりゃどうも」
男性が、慌ててペコペコする。どうやら、俺が飯島さんをナンパしていると勘違いをしたらしい……。
さっさと忘れて、次にいけるような軽い男で、軽い気持ちなら悩まなくていいのにと思ってしまった。
男が近づいてきて、飯島さんに肩を軽く叩かれた。
「ちょっと、失礼でしょ」
「すんません。知らん男にナンパされとる思うて」
俺は彼のイントネーションから、九州の方かと思った。
「九州の方ですか?」
「あ? わかります? そうなんです。博多です」
笑顔で別れて、図書館に戻った。
また本を選び、閲覧コーナーに運ぶ。
スマートフォンが振動していた。
メッセージ……彩花からだ。
『あの、弾正町に行きませんでしたか?』
……。
どうして、彼女が知って?
あの夜以降、俺からちょっとした挨拶程度のメッセージを送ることがあっても、彼女からこうしてメッセージが届くことはなかった。
それを俺は、不満に思うことはない。
逆に図々しくメッセージを送り続けることで、迷惑になっていないことを願っていた。
なかったことにできないという、抵抗なんだ。
だから、こうして彼女からメッセージが届き、しかもその内容が、弾正町に行った件だ。
嫌な予感しかしない。
……彼女は、教団が運営する食品店の従業員だ。
とはいえ、彩花が俺を陥れることはないように思う。
だけど、もし、万が一……彼女のこのメッセージが、彼らに読まれていたとしたら?
自然と、小林の顔が脳裏に浮かぶ。
行っていない、と返そうとしたが、寸前で止めた。
彩花が、わざわざ俺に質問をしてきた。
昨日の、出来事を、だ。
教団関係者が、俺の行先を知っていた?
……弾正町での、山村議員との会話を思い出す。
あの町では、木下という男性がスパイをしていた。
逆に……過去二回の失敗から学んだあいつらが、スパイの件も学びにつなげ、取り入れていたら?
仲間を疑いたくないが……。
『行ってきたよ』
正直に、返すことにした。
彼女に、嘘はつきたくない。
『近藤さんが、先輩をぶっ殺すって言っているのを、小林さんが止めていたんです』
『その声が聞こえてきました』
『心配で』
『お願いです。変なことはしないでください』
『東京、戻れなくなります』
俺は、喉を鳴らす。
彩花が、連続で送ってきたメッセージを読み、深呼吸を何度もした。
隣の席の老人が、迷惑そうな目で俺を見る。
頭を下げ、謝罪を示して席を立った。
本を戻して、建物の外に出る。
電話……声が聞きたい。
スマートフォンを持つ手が、震える。
メッセージが、届いた。
『小林さんに呼ばれたので』
『メッセージ、消しておきます』
『先輩も、今日のやつ、消しておいてください』
俺は、震える手で操作をして、彼女から届いたメッセージを消した。
-・-・-・-・-
四月十八日、土曜日。
朝、着替えを終えてダイニングに入ると、同じく着替えを終えていた親父が腰をあげた。
「トモ、俺の車で行こうか」
「ああ。香典、持った?」
「持ってる」
親父の車に乗り込み、高坂寺へと向かう。
身内だけでおこなうと聞いていたけど、俺は迷わず、参加を申し出た。
直哉の親父さんが、亡くなったのだ。
通夜は終わり、今日は告別式。
「あ、数珠忘れた」
親父が運転しながら口にした。
俺は、トートバッグから数珠を出して見せた。
「二人ぶん、ある」
「助かる」
「母さんがいつも、よけいに用意してたから」
村の中心部を通過し、寺の正門ではなく裏手にまわる。そこには、墓参り用の駐車場があり、親父はそこに車を停めた。
「あ、そうか」
親父の独り言。
おそらく、癖でここに停めたのだろうとわかる。
毎月、月命日に墓参りをしている親父だから、癖づいているのだろう。
駐車場から、本堂まで少し歩く。
身内だけの参列というわりに、やはり参列者は多い。露田家は、天露村でも一番の農家で、その本家だからだろう。
受付で香典を渡して、待合室に進んだ
宏君が、真帆と一緒にいた。
「あー! トモおじちゃん!」
「トモお兄さんだぞ」
宏君を抱きとめて、真帆と頷きあう。
彼女はすでに、目が充血していた。
真帆も、俺も、小さい頃はよくおじさんに叱られていたけど、とてもよくしてもらったと思っている。
本当に、優しい人だった。
宏君が俺の手をひき、何かを言おうとした時、菜々美さんが、奥から姿を見せる。
「村上さん、お忙しいところわざわざ」
「いえいえ、図々しく来ました」
俺と親父が、深く頭を下げたところで、宏君が俺の手を勢いよくひっぱった。
「おじちゃん、こっち」
「なに?」
「おもしろいもの、あるよ」
「ヒロ、ダメよ。もうすぐ始まるから」
「ちょっとだけ!」
これは、付き合ってあげないと気が済まないなと思い、菜々美さんに目配せをして宏君についていく。
おもしろいもの? 何だろう?
それにしても、子供ってのはこういう時でも、遊ぼうとするものだ。
お寺の廊下を歩き、進んだ先は明王堂と俺たちが呼ぶお堂で、中には不動明王の木像があるが、宏君が俺に見せたいものは、その像の横にちょこんと座る小さな像だった。
猿の像は、三体だ。
「これ、お猿さんだよ」
「ああ、見ざる、言わざる、聞かざるか」
「みざる、いわざる、きかざる?」
宏君は、キャッキャと笑う。
言葉遊びみたいなものだけど、昔の人はよくこういうことを思いつくと思った。
ふと、ミライという言葉が浮かぶ。
ミライという言葉、最初は未来だと思っていた。
音が、一緒だからだ。
音。
昔から、日本人は音をあわせることをしてきたように感じる。
「宏君、そろそろ戻るよ」
「えー? 退屈だよ」
「おじいちゃんに、挨拶しないと」
「……おじいちゃん、どうして寝てるの?」
俺は説明できず、宏君を抱っこして運ぶ。
告別式の会場に、参列者たちが移動を始めた。
菜々美さんが、俺たちを待っていた。
「村上さん、すみません」
「いえいえ、宏君、お母さんと行こうな」
宏君を降ろすと、彼は俺にしがみつく。
「いやだ」
「ヒロ!」
菜々美さんが鋭く叱り、宏君はビクっとした。
「だって……見たくないもん」
宏君が、目に涙をためる。
「おじいちゃん、見たくない」
「ヒロ……言うことを聞いて」
「怖いよ。僕、見ない!」
叫んで逃げようとした宏君を、俺が捕まえて抱っこした。そして、問答無用で会場へと歩く。
「村上さん、すみません」
「いえいえ、宏君、おじちゃんと行こうな」
「いやだよ……おじいちゃん、なんだか怖いもん」
「怖くないよ」
「だって……ずっと寝てて動かないもん。見たくない」
「おじちゃんがいるから」
会場に入ると、奥の直哉と目があった。
親戚たちが見守る中、彼は疲れた顔で俺に頭を下げる。
宏君を立たせて、直哉に押し出す。
「宏君、お父さんの隣に。いい子にしよう」
「……ハンバーグ」
「終わったら、ご馳走する」
「我慢する!」
宏君が、すたすたと直哉へと歩いた。
俺は、入口近くの席へと向かう。
真帆が、手招いて呼んでくれた。
司会は、露田家の男性のようだ。見覚えがある。
親父の隣に座り、後ろの真帆に肩を叩かれた。
「宏君、大丈夫?」
「ああ、ハンバーグを約束させられた」
彼女は、笑いそうになり慌てて口を塞ぐ。
前を向いた時、頭の中に光が走った。
見ない。
宏君が、言った言葉。
その音は、ミライに近い。
ミライは、見ない、じゃないのか?
「それでは、露田修三の告別式を始めます――」
司会の声。
だけど、頭に入ってこない。
ミライ。
見ない。
見ない……というには、違和感がある。
見ないは、意図して見ることを拒んでいる。しかし、あいつらは、お迎えしたいのだ。
なんだろう?
だけど、この考え方は近いはずだ。
ミライ、は未来ではなく、見ない、という音に近い、何かだ。
-・-・-・-・-
四月二十日、月曜日。
職場で午前中の仕事を終えたが、食堂には行かずオフィスに残ってパソコンで調べものをしていた。
地方の民俗資料や歴史、都市伝説的なものまで検索したり、AIで調べさせたりしていると、ランチを終えた飯島さんが俺のところに来た。
「村上主任、お疲れ様です。お昼、行かないんですか?」
「お疲れ様です。ちょっと調べもの」
彼女が、俺のパソコンのディスプレイを見る。
「何ですか? 山岳信仰?」
「いや、これを調べてるわけじゃなくてね。地方ごとの民俗資料というか、何というか」
飯島さんが、「へぇ」と漏らし、周囲をチラリと見渡してから、声のトーンを落とした。
「……これ、わたしの独り言ですよ?」
「なに?」
「工場のパソコン、ログが全部のこってます。プライベートの調べもの、全部ばれてますから」
「本当?」
「はい……ま、でもエロサイトじゃないから大丈夫かな?」
「そっちは、家で見てるから」
二人で笑った時、総務課長が飯島さんを呼ぶ。
「飯島さん、ちょっと来て」
「あ、はい」
その瞬間、図書館でのやりとりが頭の中で蘇った。
飯島さんの旦那さんが、彼女を呼んだ時の、声……いや、音だ。
ケイ、はよきやい。
はよ……きやい。
「飯島さん!」
席から立ち上がった俺に、総務課長と飯島さんが固まる。
「な……どうしたんですか?」
「飯島さん、ごめん。図書館で会った日、旦那さんて、はよきやいって言ったよね?」
「え? ああ、方言がなかなか抜けなくて」
「あれ、どういう意味?」
「え?」
彼女は、目をぱちくりとして、俺を見る。
総務課長も、何だ? という顔で固まったまま俺を見ていた。
「えっと……早く来なさいって意味です」
「きやい、は、来なさい?」
「そう……です。来なさいとか、来いよ、とかですかね」
「ありがとう」
俺は、再びパソコンに向かう。
二人がきょとんとして、俺を見ていたので「もう大丈夫」と言っておいた。
そうか。
ミライは、見ないじゃない。
見なさい、だ。
そしておそらく、それは見えないもの。
だから、見なさいというのは、見えないものを見なさい? だろうか……。
俺は昼休憩の間、ずっと調べものを続けた。
-・-・-・-・-
五月一日、金曜日。
四月にミライのことを調べ始めて、ゴールデンウィークの今もそれは続いているが、はっきりいって全く進んでいない。
そもそも、ミライという音に近い何か、を探そうというのだから無理はない。それに、ミライという名前でもないだろうしと、目頭を揉みながらディスプレイから顔をあげた。
部屋の壁時計が目に入り、午後三時過ぎかと溜め息をつく。
ノートを撮影した画像データを印刷して、まとめた紙フォルダを開き、ヒントがないかと読む。何度も読み返して、気になるところにはマーカーを入れていた。
ヒ社と書かれて、赤ペンでグルグルと囲ってある。ネットで検索した時、全く意味をなさないものしか出てこなかったので、これも何か別の意味があると思って気にかけてはいるが、ひらめきや発見には至っていない。
そしてそのヒ社の下には、まつり、と殴り書きがされていた。
奉り、祭り、どっちの意味だろうか。
他には、数字で一〇八と書かれていて、検索したら、仏教でいう煩悩の数と出てきた。それとあの教団がどう関係するのか、ノートに書かれている文章ではよくわからない。というのも、基本的にノートに書かれているものは、木下という人が教団内で目にしたもの、盗み聞いた内容を、断片的にメモしたもの……だからだ。
なので『一〇八、数、よる、ならび、やばい』と書かれているだけでは、やばいんだろうなと思うが、何がどうやばいのか全くわからないのだ。
一〇八という数が、夜に並ぶのがやばい。
こう読み取って、神社に夜中に集まっていたのはこれか! と興奮したのは過去の話で、あの夜に見た時、境内広場にぎっしりと集まっていた人たちは、もっと多かったと思ったのだ。それに、とても並んでいるようには思えなかった。
他にも、『裏』『表』『入れ替わる』など、赤い丸で囲んである言葉が気になるが、やはり意味がわからなかった。
背もたれに身体をあずけ、肩を上下させてこりをほぐす。
ずっと座りっぱなしだったので、少し散歩をしようと立ち上がった。
着替えをして、スマートフォンと財布だけをズボンのポケットにつっこみ、鍵を手に家を出る。
だらだらと歩きながら、頭の中は輝く未来の会のことばかりだった。
スマートフォンが振動し、見ると親父からのメッセージだ。
『高木が、ウェブの討論番組に出るそうだ。明日』
『どうやって見るのかわからんから、見せてくれ』
続けて、俺でも知っているユーチューブチャンネルの名前が書かれていたので、すぐに理解できた。
その番組は、元テレビ局の社員が運営するもので、政治ネタや経済ネタの他、ゴシップなども扱うことで知られており、登録者数も百万人を超えている。
検索すると、すでに予告画面が出来上がっていた。
『話題の村の村議会議員と、移住組の代表が徹底討論』
……班目と、高木さんが討論するのか。
それは、俺もぜひ見たいと思い、そのチャンネルURLをLINEで真帆、直哉と共有する。
閉じようとした時、その動画が目に留まった。
おそらく、最近の俺が民俗資料や地方の歴史ばかりを検索しているので、アルゴリズムがそれを勧めてきたのだろう。
『恐怖! 見てはいけない名もなき存在!』
再生回数千回未満で、ほとんど知られていないような動画だ。
投稿は、十五年前になっている。
見てはいけない……か。
ミライは、見やい……その意味が見なさいだとして……例えば、見てはいけないものを、無理やりに見させるために、「見なさい」と強いることも可能性としてある?
俺は神社の鳥居のところで立ち止まり、階段に腰掛けて動画を再生した。
初老の男性が、田舎の風景を歩きながら話し始める。
『昔、日本には多くの神様……八百万の神と言われるだけあって、本当に多くの神様が存在していました』
男性は、田舎の町を歩いているが、標識が映った瞬間、俺はギクリとした。
動画を停止し、巻き戻す。
標識……高塔町まで三キロメートルという標識だ。
高塔町は、山村議員が言っていた地名だ。
輝く未来の会が、弾正町に来る前に移住していた場所……。
動画を、再生した。
『ただ、神様として祀っていても、実は神様じゃないケースだってあるんです』
『民間伝承にある忌まわしについて研究をしている小林賢一先生とともに、今日は皆さんに、見てはいけない存在をお話したいと思います』
場面は切り替わり、古い日本家屋の一室と思われる場所で、その男性にカメラは向いていた。そして、先ほどの男がカメラマン兼インタビュアーだと、会話が始まったことで知る。
小林賢一という男は、黒縁眼鏡と口髭がいかにも学者っぽい容姿だがにこやかで、人当たりが良さそうだ。どこかで見たことがあると思うも、思い出せない。あの小林と同じ苗字だけど、別人で、顔も全く違う。
喜々として、各地に残る穢れや禁忌の話をする小林は、人は触れてはいけないと言われるものに触れたがると言った。
『かくいう私も、それを知った時、調べたいと思いましたから』
『ただ、それを調べた結果、これはいけないと立ち止まったんです』
小林はそう前置きして、続ける。
『見てはいけない……見えてはいけないものは、確実に存在します。それは見えないというよりも、裏側にいるので、こちらから見ることはできないのです』
彼はそこで、カメラに向かって手書きの図を広げて見せる。
図の上部に鳥居、そして縦に中心線が走り、南側に黄泉と書かれていた。
『ヨミという呼び方をされているので、黄泉のことだと思い、こう書いています』
『先生、つまり文字では残っていない?』
『そうなんです。あるいは、残っていたとしても、資料が隠されていて出てきていないのかもしれません。表に出してはいけない裏側のものですからね』
小林は、鳥居と縦の中心線、黄泉と書かれた図のことを話す。
鳥居とは玄関で、ここから裏側へと入っていく。そして裏側では通路になっていて、表側では通路に沿うように水が流れているそうだ。そして、玄関は一方通行で、入口の役目を果たすのみだと語った。
『しかし、この玄関部分が入口の機能を果たさなくなると、通路の奥にいるものが、表に出て来ると言われています』
『なるほど。先生、見てはいけないものですか?』
『そう考えられています』
『入口の機能を果たさないとなると、閉じるのですか?』
『いえ、逆流です。普通は、上から下に流れていた。しかし、下から上への一方通行、つまり出口です』
小林は、紙面の下から上へと指を這わせた。
俺は自然と、境内広場を見る。そして、動画を再生させたまま、階段をあがり、境内広場の中を本殿に向かって歩いた。
辺りは静かで、スマートフォンからの音声が俺の耳にも届いている。
『ヨミにいるそれは、贄を求めて表に出る。忌まわし、穢れ……ですが、だからこそ昔の人たちはそれを敬い、奉ったのでしょう』
動画は終わった。
俺は、本殿を正面に振り返る。
穏やかな天露村の風景が、眼下に広がっていた。
見通しがよく、高坂寺の山門もよく見える。
そして、その寺の向こうに広がる墓地も。
見慣れた風景なのに、胸がざわつく。
俺は、頭を振ってその場を離れた。




