セカイヲススメルショウジョ
背に乗せた母をふかふかなベットに下ろし、各々は机から椅子を引きそこに座る。殆どが木製で今まで嗅いだことのない南国の木のような香りが部屋に充満している。
一先ず落ち着いたところで、ロリスから話を切り出す。
「.....それで?何があったらそんな暗い顔になるわけ?」
腕を机の上、胸の前に置き身体は若干前のめりなロリス。対面にショウタ、その横にルカが座る。一度浅い呼吸を挟んだ後に、ショウタはこれまでのあらましを淡々と話し始める。
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「.....なるほどね、ミウお姉ちゃん達と離れちゃったわけね。あの子の事情もなんとなく分かったわ」
かなり噛み砕いてだが、ロリスは理解してくれたようだ。しかしロリスは、ショウタとルカの顔を何度か見比べるように視線を動かし、ある疑問が浮かぶ。
「正直今のままじゃ、ショウタがなんでルカを助けるのか分からないわ。もちろん、『そういう性格』って一言でまとめればそうなのかもしれないけど.....なんか曖昧なのよね」
「『そういう性格』ってことにしておいてくれ。ほら、俺って困ってる人がいたら動かずにはいられないタイプだろ?」
少し真面目な顔をしたロリスに、ショウタはおどけて答えるがロリスはその表情を崩さない。
「ふーん...まぁそっちの事情はこれでおわり。ショウタは私に何か聞きたいことはある?」
「あぁ.....そもそも何でここに居るんだ?」
「少し長い説明になるけど.....今この街で何が起きているか知ってる?」
先程の前のめりとは違い、背もたれに体重を預け再び2人を交互に見つめる。
視線の先の2人もお互いの顔を見ているので、その様子をロリスは察して話し始めた。
「交流祭。この街ルミナリエで数年に一度行われる国のイベントよ。ま、伝統的なものかと言われるとまだ浅いと思うけどね」
後ろに置いてある白い箱のようなものを親指で指し、続きを話す。白い箱は30㎤くらいの大きさで、手前の面に手すりがついており、そこから中のものを取りだせるようになっている。
「あれはただの白い箱じゃないわ。というかただの白い箱があんな売れるわけ無いけどね。あれはね、箱の中に冷却の魔法の力が込められてるの。戦闘用じゃないから殺傷力はないけど、中のものを冷やすことくらいできるわ。しかも威力も強くなくていいから、微弱の魔力さえあれば使い続けられるの。そうね、差し詰めこれの名前は.....」
『冷蔵庫』
2人の声が、同時に聞こえる。
制作者本人のロリスの声はわかる。
しかしショウタの声が聞こえてきたのは、ロリスにとって驚きだった。
「.....すごい、なんで分かったの?」
「...俺が前にいた場所で、同じような道具があったんだ。悪い、続きを頼む」
「そう、じゃあ続けるわ。今日から四日間、国中の商人が集まり、お互いに商売し合い、またそれぞれの街へ帰り、商人達は街へ還元する。それが交流祭の目的であり、私がここに居る理由よ」
区切りのいいところまでロリスが話すと、これまで黙りこくっていたルカが口を開く。
「.....知らなかった。ディベ・ルミナリエでそんな催しがあったなんて。ということは大量のゴミが何年かに一度降ってきていたのも...」
「ディベ・ルミナリエ?ここが?ディベは下の街の事でしょ?上のここはルミナリエと言うのよ」
「違うっ!僕達が光の民であり、僕達の街が本当のルミナリエだっ!」
悪意のない煽りが、ルカを刺激する。心が敏感になっているルカにとって、許せない事だった。机を叩き、大声を上げ反論する。
「そ、そうなのね。悪かったわ。なんせ私も初めてルミナリエまで来たし、このこともお父さんに聞いただけだったから」
「ルカ、許してやれ」
すぐにロリスは謝る。自分に非があることを認めているようで、実際には非がなかったというように言葉を続ける。それに対してショウタは許すように促すので、ルカは静かに席を立つ。扉を開け、母親の元へと向かう。最後にこちらを一瞥した後、また静かに扉を閉めその部屋から姿を消した。
「悪いことをしたわ。あの子が下の街の子だってさっき聞いたのに」
ロリスは顔を下げ、申し訳なさそうにする。
「なぁ、そんなに間違えられたくないものか?『いばらき』か『いばらぎ』なの違いくらいだろ?」
「その2つが何かは分からないけど.....あなたがそんな風に軽い気持ちで吐けるということは、同じ問題とは言い難いわ」
日本の茨城問題はどうでもいいとロリスに一蹴される。
「私の話もお父さんからの横流しでしかないけど...そもそもルミナリエはこんな形の街ではなかったらしいの。昔に魔王が悪さをしたせいでこんな歪な街になってしまったらしいわ。その名残で上のここがルミナリエか、下の元々の場所がルミナリエか。外の人は殆どが上をルミナリエと思ってるわ。なんせ数年に一度の交流祭の開催地が上なんだから」
「なるほどな、でもその話じゃまだ下側が名前に拘ってる理由にいまいち決定打に欠けるというか」
「私もそう思うけど、魔王のあたりはお父さんにも濁されたわ。.....それじゃ、そろそろ本題。多分さっきまでの話も関係あると思う」
いよいよ核心に迫る話になり、ショウタは唾を飲む。
「イガラシテツジ。この名前に覚えはある?」
「.....あぁ、覚えどころかお世話になった」
「どうやら、そいつが来てからこの国は狂ったみたいなの」
「.....!」
「普段はルミナリエにいないイガラシテツジが、交流祭の時だけこの街に現れるらしいわ」
「...それだけじゃ、まだ疑いの域を超えないんじゃないか?」
「そうね、でもそいつの名前で連想することが沢山あるの」
ロリスはそう言うと、淡く白い光を掌に出し、それを自らの頭にぶつける。すると、バチバチッと音が鳴り、衝撃が生まれロリスは椅子から転げ落とされる。
「大丈夫か?!」
「えぇ、大丈夫よ。今自分に施そうとした魔法は、強制解除の魔法。これを偶然自分に掛けてしまった時、今の現象が起こったの。これによって私の中のイガラシテツジの記憶が頭から離れようとするの。何度試しても、離れようとしてはまたくっ付く。これっておかしいと思わない?」
ショウタは真剣な眼差しで、確かに首を縦に振る。
「それとね、交流祭が始まるとそれぞれの街の領主や有名人が一斉に集まるらしい。.....あなたはなんで、わざわざこの時期に、ここに居るの?」
辻褄が合う一つ一つの証言が、ショウタの血脈を逸らせる。
「あなたはパスタとか、冷蔵庫とか、それ以外にも技術を知っていた。.....話を聞いた感じ、強くもなったのよね?」
「そんなに遠回りしなくてもいいぞ。聞きたいこと、聞いてくれ」
「.....あなたはイガラシテツジの味方?それとも敵?.....あなたは一体、何なの?」
ロリスは一人、この世界の歩みを背負っている。




