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陽の近く、水は濁る



 喧騒が渦巻くディベ・ルミナリエ。しかし着物屋「つむぎ」の前だけは、まるで時が止まっている様だった。


 「お.....母.....さん...?」


 突きつけられた現実は、つい数刻前に見た光景とは少し色が違う。しかし変わらなかった事は、ルカの心は再び砕かれた事だ。


 「.....ルカ.....良かった...!無事だったのね...!」


 醜くもがく女の姿は、いつの間にか母親の顔になりルカに深い抱擁をする。ルカはどう反応していいか分からず、ただ起こることに身を任せるだけだった。

 抱き付き、顔を埋め、親子の絆を再確認したところで母親からルカへ優しく声掛ける。


 「.....ルカ...お金、持ってる?.....お母さんね、この綺麗なお着物を着てもっともっとお金を稼がなくちゃいけないの...。だからねぇ、お金貸して?」


 「こ.....こんなの、お母さんじゃない...!お母さんはこんなこと言わない.....。」


 身体の後ろまで回された腕を振り解き、ルカは母親から必死に離れる。目の前の人物を否定し、今までが...過去が正解で、目の前の現実が間違いだと訴える。


 「ルカ.....そんなこと言わないで!ほら、お母さんの膝枕好きだったでしょ?おいで?」


 「おいあんた、仮にもルカの親なんだろ?子供に金せびるなんて...」


 「部外者は黙ってて!!!あんたに何がわかんの?!どうせあんたも私達を騙す気なんでしょっっっ!!!」


 ショウタが仲も保とうと2人の間に割って入ったが、それは彼女の逆鱗に触れるスイッチになってしまう。

 差し伸べられたショウタの手を払い除け、その場で発狂を始める。


 認知症の老人が子供返りしてしまう現象は、映像で見た事がある。ただ良識のある大人が、ただ行動を邪魔されただけでここまで愚図る、この醜くくも切ない現状は、とても目が当てられない。


 混沌とした光景に、一言狙い済ました様な、しかし言葉は自然に彼女の口から漏れ出ていた。


 「あらあらぁ...随分お水が濁っとる様で...」


 「.....は?」


 自分で言うのもいささか恥ずかしいが、彼女の言ったその意味が分かってしまった。ルカの母親がどうしてここまで身なりに拘っているのか。


 「ショウタはんはお気楽なんどすなぁ...。なーんでこんな無茶なことするか、そんなんここだと一択やろ?」


 店主はショウタの耳に顔を近づけ、艶やかな声をショウタだけに聞かせる。


 「この地獄に身...沈めて、業火で火傷しとるんよ.....」


 その言葉にショウタは息を荒げる。


 それは美しい女性に耳元で囁かれたから?


 99%の疑惑に、1%の確信が落とされたから?


 どちらの感情も、ショウタの中に渦巻いている。


 焚き付けた店主、『近衛 紬』はもう先が見えてるのか怪しげに口角を上げ、店に戻る。


 「ルカ.....ごめん...今はこれしか出来ない」


 ショウタは母親の背後に近づき、指に魔具化をし喉元に触れる。

 触れられた母親は一瞬のうちに気絶し、ショウタに背負われる。


 「お母さんは.....もう居ないのかな...?」


 「いや、いるぞ。確かに背中に。ただ取り戻さなきゃ戻ってこない」


 この言葉にルカは何も返さない。ただその気持ちも分かるので、ショウタは催促はせずただ母親を背負ったまま歩き出した。

 ルカはそれに何も言わずに着いて行く。

 何も言わずに.....。。。





 ルカを横に、母を背に。

 休息を取れる場所を探しに、街の中心へと向かって行く。街の中心では市場が栄えており、食べ物、武器、道具、などそれぞれの地方から集められた特産品が並んでいる。


 中でも飛ぶ様に売れている魔道具店がある。人が物を買えば、また次の客が金を払わせてくれと、小さな争いができるほどだった。


 しかしショウタは急いでいるからと、覗こうともせず通り過ぎようとしたが.....


 「はーい!今日はもう売り切れだよ!.....さあ散った散った!明日には100個は作ってきてあげるから、欲しい人はまた明日ね!」


 どこか聞き覚えのある声が、店を囲う客を霧散させる。


 どこか聞き覚えのある声が、明日には100個作ってやると胸を張って啖呵を切る。


 どこか聞き覚えのある声は、その姿も、その顔も、よく覚えている。


 背格好は幼いが、その幼さからは想像出来ない能力を持っている。

 髪は伸びたからか、三つ編みに自作の髪留めで以前会っていた時よりも大人の雰囲気を纏っている。


 「ロリス...?お前、なんでここに.....?」


 「ショウタ?!そっちこそ何でここに!」


 絨毯の上に売り物の魔道具が散りばめられているがその後ろには、雑な椅子に立っているロリスが居た。

 椅子から降り、ショウタの前まで歩いてきたロリスはショウタに尋ねる。


 「後ろの.....何があったの?れ


 「あー...話したい事は引くほどあるんだけど、一先ず休める場所探してるんだ俺達」


 「だったら私達が泊まる宿に来る?.....少しくらい融通きかせる事はできると思うけど.....」


 「あぁ、助かる.....」


 別の場所で、何気ない時に再会を果たせていたらどれほど嬉しかっただろう。ショウタは三度、苦い再会を味わうことになる。


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