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あやふや



 機械仕掛けの不快な音が、キリキリと腹の底まで響く。しかしルカは臆する事なく、俺よりも前に立ち隠し扉が完全に開くのを待つ。


  「大人一名、子供一名.....入国」


 なんとも不気味なセリフをマスターが流れ作業かの様に溢す。完全に開かれた扉からは、土の匂いに混じって言葉にしがたい不快な匂いを微かに纏う。


 「よし、行くぞ」


 俺の合図と共に、男2人は歩き出す。

 扉の先の道は、先程響かせていた機械仕掛けが剥き出しになっている。この扉は長くここに在るのか、鉄の匂いが充満していた。


 しばらく歩き続けると、微かな光が見えてきた。その光の中に身を乗り出したその先には.....


 「なんだ...これ...」


 ショウタの目の前に広がった景色は、酒場の裏道を抜けた先にみるものでは到底なかった。


 これを見ろと言わんばかりに目立っているのは何重にも掛けられた魔法の結界を、たった一つの物?いや人?に掛けられていた。


 そうか、こんな馬鹿でかい結界あったら見つけてるだろうと思ったが、ここはあの崖みたいな急な山の中だったのか!だとすればこの山はハリボテの様な物なのか?


 そして周りには工具や建築機械が至る所にあり、それと同時に作業員らしき奴らも見かけることができる。皆同じ作業着を着用し、背中には『五十嵐』の名が刺繍されていた。


 「あっ.....!!!」


 ルカの身体は勝手に逸りを覚え、ある地点まで一直線に走り始める。


 「おいっ、どうしたんだよ」


 ショウタは急に走り出したルカの手をすぐに引き寄せ、小声で問い掛ける。


 「お父さん.....お父さんが居たんだ!」


 あれっ!と指差され、視線を合わせた先には五十嵐の名を背負う作業員たちと同じ格好をした男だった。


 「本当にあれがお前の.....?」


 「当たり前だ!だから...早く帰ろうって言いに行かなきゃ.....!」


 ショウタの手を振り払ってでも父に会おうとするルカだったが、ショウタはその手を離さなかった。

 ショウタは分かっていた。彼が今どんな気持ちで働いているのか、今邪魔をする事で自他共に被害を被ってしまう事が。


 「気持ちはわかるが...今じゃねぇ!よく分からんが父ちゃんはお前らの為に働いてるんだろ?それに他の作業員達の目だってある。ここはがま.....っわ!」


 必死のショウタの説得も虚しく、一瞬の緩んだ隙を突き再び父の元へと向かう。


 「お父さーん!」


 「ル.....カ......」


 ルカは手を広げ、久方振りの抱擁を父に求める。その瞳には若干の涙を潤わせ、ただ父に会えた喜びを全身で表現しているのだ。


 「おんやぁ〜?エルト?貴様ガキもまだ持ってたのか?金になるもんは全て捧げろと言ったはずだよなぁ〜?」


 俺たちの視界に突然割って入ったのは、大柄で、腹にはしこたま積まれた贅肉を物ともしない軽やかな動き、髪色は派手なマゼンタカラーをし、十指すべてには目が痛くなる様な宝石をジャラジャラと自慢げに付けている。


 「.....いいえ、リュウジ様。私にはこんな『ガキ』、知る由もありません。恐らく(ディベ)からの迷い子でしょう」


 「何言ってるんだよお父さん!知らないって.....ルカだよ?!忘れちゃったの?!ていうか(ディベ)って.....上がディベでしょ?光の民の住処である下こそ本物のルミナリエでしょ?!」


 エルトは唇から血が出るほど噛み締めるが、ルカから背を向けリュウジに跪き忠誠を誓う。

 ルカの甲高い声は、空洞となってるこの空間にはあまりにも響く。この現場は洞窟の注目の的となってしまった。


 「おいガキ〜、お前は何でこんなところに迷い込んじまったんだ〜?お前は俺に何を与えられる?お前は何が出来るんだ〜?」


 言葉を区切るごとに、リュウジはルカに詰め寄る。返答は分かっているのに、別になんて事ない下の子供だと確信しているのに、徹底的に詰め寄る。


 「ぼ...僕は.....」


 ルカの瞳は潤んでいるが、先ほどと同じ感情の昂りと思ってはいけない。服をギュッと掴み、対象には目も向けず、ただジッと親の帰りを待つ子供の姿だけがそこにはあった。


 「おっ、いやはやそこにいらっしゃるのはリュウジ様ですか?いやー!ありがたい!実にありがたい!お陰で俺ら兄弟も浮かばれるってもんですよ!なぁ!ルカ?」


 「なんだ〜?貴様は?貴様もガキ.....という年齢ではなさそうだ」


 「.....!いやだなぁリュウジ様。私達は上へ働きに行く道中でございますよー。ほら、下でレド様がいらっしゃったでしょう?そこで認めてくださったんですよ!」


 とっさの機転がこの場面をまた一段階加速させる。ショウタはルカとリュウジの間に身体を割り込ませる。かと思えば、いきなり媚びへつらい取り入られようと必死な姿勢になる。


 「ふ〜ん、ほぉ〜ん、は〜ん、そうかいそうかい。お前らはその口かい。全くもって怪しいが、このリュウジが認めよう、お前らに上へと行く許可をやろう」


 「なら、お父さんも.....!」


 「許可するのはお前ら2人だけだガァキィ.....」


 リュウジは許可を出すと後ろ向きに親指を指し、あちらへ向かえと促す。その誘いにショウタはペコペコしながらさっさとこの場を抜ける。一連の出来事を見ていた周りの作業員はポカンした顔で一部始終を見ていたが、ショウタ達がこの場から去るとザワザワと会話が飛び交う。


 「あいつら何もなしで上に行けたのか?」


 「俺達はかき集めた金を献上してもまだ足りないと突き返されたのに.....」


 「奴等が子供だったからか?いやしかし、1人の男は子供というより私達との方が年齢が近いんじゃ.....」


 様々な憶測が右に左にと流れる。だがこれを良しとしないリュウジは作業員等を一喝する。


 「オラァッ!ゴミどもぉっ!!さっさと作業に取り掛かれぇっ!テメェ等誰に恩があって空気据えてると思ってるんだ?!あぁ?!」


 

 ー



 ショウタ達が進んだ先には、見た目は木製で原始的だが、確かに見た事があるものがそこにはあった。


 「これって.....エレベーターか?でも電気が通ってるようには見えないからつるべ式になってるってことか?.....でも引くためのロープも見当たらないし.....」


 ショウタはぶつくさと仕組みを独り言で解析し、対照的にルカは先ほどの出来事でのショックからか黙りこくってしまった。


 「まぁここで何言ってもどうしようもない。とりあえず乗ってみるか」


 ショウタの言葉が聴こえてないようにその場に立ち尽くしたルカだったが、ショウタが手を引っ張りエレベーターに乗せる。広さは少し狭い日本のエレベーターと似たような感覚があった。5人も乗れば息苦しくなるくらいの。

 手摺も大人が触れる位置に細い丸太がはっつけられてるだけで、とても快適とは言えない。

 2人が完全に乗り終えた瞬間、何かの拍子か床が光出し、突然木製エレベーターは上昇を始める。


 ショウタは丸太にしがみつけばいいが、ルカはそうもいかず無言ながらもショウタの脚にしがみついていた。


 急スピードと言うわけではないが、いかんせん四角いエレベーターの四面中、三面は作業している姿が見え、それらを遥か上空から見守る形になっている。高さを実感してしまうと、どうも足の震えが止まらないらしい。


 上昇してから少し経った後、ショウタなりにルカに寄り添う。


 「悪かったな、あんなことして。俺だってあんな奴の機嫌取りなんてしたくなかったけどよ.....」


 「.....うん」


 「俺な...魔法が使えるんだ。心を読める魔法が。お前の父ちゃんとリュウジと呼ばれてた奴2人に使ってみたんだが.....簡単に言うと、父ちゃんは本物だったし、逆にリュウジは偽物だった」


 「だから言ったでしょ、本当にお父さんだって。.....逆に偽物って?」


 「あぁ...リュウジってのは恐らくこの世界の人間じゃない奴の名前だと思うんだが、目の前にいたあいつはこの世界の人間だったんだ。つまりあいつはリュウジの名前を使ってる偽物ってことだ」


 「だからなんだっていうのさ.....」


 「確かにこれだけじゃ解決って訳にはいかないが.....上で話を聞かなきゃ行けない人物の特定はできたってことだ。恐らく上に本物のリュウジが居るから、そいつに話つけて何とかしてもらおう。.....最悪ブッ飛ばしてやればいい!俺も居るし多分俺よりもっと強い味方もいる!」


 「.....うん」


 長々と、しかし確かな情報を持った説得のような慰めのような。そんな時間は、上から注がれる眩い光によって終わりを告げることとなる。


 この想いは、異世界だろうがなんだろうが、


 人である以上、いや手と手を取り合って生きている以上避けられない、


 救いたいと想う気持ちは、避けられないだろう。


 で、俺は今、誰の、何を、救いたいと想ってるんだ?

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