あなたはだあれ?
パチパチと鳴る焚き火を前に、2人は座る。
一方は落ち込み、もう一方は夕食の準備をする。
「.....こんな状況で、ご飯を食べようと思えるのね」
「それはそれ、これはこれ。腹が空いては何とやらって言うでしょ?」
ミウのゲンナリした表情を受け流すように、カズトは食料を魔法で取り出す。街を出る前、マリから非常食にと魚や肉、カップ麺など過保護なほど食料を渡されている。
「私達は安全だけど、向こうは.....ショウタはどうなってるか......」
「あの時はこれが最善策だった。死なないショウタさんと死ぬミウちゃん。どちらかしか助けられないなら、答えは明白でしょ?」
「...じゃあ私が探しに行く。こうなったのだって私の責任が.....!」
「自惚れんなよ。自分が今いる状態を理解できない奴はこの世界じゃ死ぬぞ。第一、今安全なのだって俺の魔法のお陰だろ」
「.....!」
2人の雰囲気は最悪だった。
もう小一時間ほど、ミウの自責を慰め続けたカズトは我慢の限界か、強い言葉をぶつけてしまう。途中までは探しに行こうと立ち上がったミウも、ぶつけられた言葉によって撃沈し丸め込んで座ってしまう。
実際、カズトの言葉は正論だった。
絶対に勝てないと悟った相手に、不意をつく攻撃をするも無傷。相手が大技を繰り出そうとするのを察知するなら否や、真っ先に死の危険があるミウを守りに行き、ショウタに手早く意図を伝える。
そして、吹き飛ばされた後、安全そうな場所を探す。腰掛けられる岩を背に座り、今いる場所を中心とした半径10メートル程の風のかまくらを生成。カズトが動かない為この風はより強力になり、砂だけでなく、魔物すらも近づけば裂いてしまう。
「.....今君に死なれちゃ困るんだ。俺も、ショウタさんも」
「.....あんたが大切なのは、私自身じゃなくて『ユウトの娘』である私でしょ?」
言いすぎたかと反省しながらミウに慰めを送るカズト。だがミウも黙るだけではない。カズトの核心に迫る様な言葉を刺す。膝を抱え、背を丸め、声が届くかどうかの音量だが、それは確かにカズトに響いた。
カズトは目を合わせていたミウから、一瞬目を逸らし小さくため息をこぼし慰めを続ける。
「.....少なくともショウタさんは、ミウちゃんが無事で嬉しいと思うよ」
「.....そう」
調理された料理がミウの目の前に置かれる。
だがミウはそれには目をくれず、チッチッという風の壁にほんの数ミリ手をやる。すると指先は切れ、この安全な牢獄からは出られないと悟った.....
ー
夕飯時から暫く時間が経過した。
砂漠の夜は冷え込む。こちらもまた、マリから寝床を預かっており焚き火跡の上で暖かくして目を瞑る。
チリチリと砂を弾く音を入眠ルーティーンの代わりとして聞く。いくら魔法で安全にしているとは言え、やはり寝苦しい。ミウは目を閉じた状態ながらも、頭の中は考え事で一杯になっている。
このままショウタが見つからなかったらどうしよう。死んじゃうんじゃ.....そういえば死なないんだった。というかそもそもなんでショウタのこと殺したやつの近くで寝てるんだろ。.....あんまり外ではお父様の名前を出さない様にしてたのになぁ.....。。。
「.....ぉーぃ...」
ミウの考え事をしている頭に、やけに聞き馴染みのある声が広大な砂漠から聴こえてくる。
「...ミウー?カズトー?どこにいるんだー?」
私達を呼ぶ声が、確かに聴こえる。
ミウは学校に遅刻したかの様に飛び起き、風のかまくらの全方位に呼び掛ける。
「ショウタ?どこなの?こっちは安全だからはやく来て!」
「ミウまでそっち側つくんだ!もういいよ俺の負けだよ!だってワクワクしたんだもん砂漠.....!」
「何を言ってるの.....?早くこっちに来て!」
「結局誰なんだよ『みんな』って.....てかさっきから砂の影響無さすぎじゃね?!」
ここまで話が噛み合わないと、流石のミウも違和感を感じている。東からショウタの声が聞こえてきたと思えば、西から返事が。北のショウタにこっちと促せば南のショウタから足音が。
「いいから姿を見せなさ——」
そう言いかけた口を、カズトは手で覆い隠す様に閉ざす。この不可解な現象に、安眠していたカズトも緩やかに起床しすぐに状況を理解する。
カズトはその場で屈んで、地面の砂に文字を書き状況をミウに伝える。
今から俺が喋る。何も言うな。
そして、カズトはわざと声を出して言った。
『奴らは、この砂漠に来てからの俺達の言葉を真似ている。だから喋るな』
『今ここで喋ることは、ショウタさんは知らない。つまりここで喋るほど、ショウタさんは偽物に気付けない』
コクッとミウは小さく頷く。
それからカズトはパチンと指を鳴らし、魔法を発動させる。
——疾風・顧眄
新たに生み出された風は縦に長い台風の様な見た目ではなく、円盤が何層にも積み重なった見た目をしていた。それをかまくらの上に配置し、外で音が鳴った瞬間風の自動追尾弾として、風の円盤が音の方に打ち込まれる。
その後、2人はまた静かに眠りについた。チリチリと鳴る音に時折切れ味の良い風の音が混じる。
カズトは寝具にくるまり忽ち寝息を立てていたが.....
この一連の流れを岩陰から見守るものが居たことを、2人はまだ知らない.....。
〜
もう2時間は歩いただろうか。
何もない砂漠をただ真っ直ぐ歩いている姿は、きっと絵にならないだろう。姿勢もだんだん崩れていき、腕はダラんと、背骨は丸まって、はぁ...とため息をつく。
「なんだよ〜もう。これで入り口まで戻ってたら俺1人じゃもう入りたくないんだけど.....」
独り言すらも、自分や仲間の首を絞めていることにはまだショウタは気付けない。その後もぶつくさと文句を垂れていると、人影を見つける。
「お!誰か見つけたぞ!おーい!久しぶり!.....って程じゃないが、久しぶりー!」
「ショウタさん」
「ショウタ?どこなの?こっちは安全だからはやく来て!」
「おぉカズト、良かった。ミウもそんな変なボケしてないでさっさとルミナリエとやらに向かおうぜ」
2人の乾いた返事に、ショウタは再開の嬉しさから違和感を感じ取れなかった。
「いやーそれにしてもあの爆発からよく逃れたな。悪いってやっぱり2人だけ安全に逃げてたってことか?」
「ショウタ!悪い!」
「あーそれそれ。意外と演技派なのな、お前」
「はぁ.....バカらしい.....」
「そんなこと言うなよミウ.....なんかその言葉最近聞いたか?」
「いやいやよくやってると思うよ。初見の奴相手に」
「な、何言ってんだ?なんか話噛み合ってる気がしないぞ?」
「いいから姿を見せなさ——」
「そこで止めるなよ.....気味悪いだろ...」
ようやく2人の違和感に気付いたのか、ショウタは後退りする。しかしもう手遅れかミウ、カズトの姿が模倣された『ナニカ』は虚な目をし、とぼとぼと、しかし着実にショウタに歩みを寄せる。言葉を覚えたての赤ん坊の様にとってつけた様な言葉をつらつらと。
「ショウタ.....」
カズト(模倣)から名前を呼ばれるが、目は合わせてこない。しかし、次の言葉でギョロッと目の奥を見る様な鋭い視線で語りかける。
『奴らは、この砂漠に来てからの俺達の言葉を真似ている。だから喋るな』
『今ここで喋ることは、ショウタさんは知らない。つまりここで喋るほど、ショウタさんは偽物に気付けない』
「.....!」
ショウタは咄嗟に両手で口を塞ぐ。しかしもう遅い。オンブラ砂漠はショウタを学習し、惑わそうとしてくるだろう。既に目の前の2人は今にも襲ってきそうなほどに、着実に近づいてきている。
そしてショウタが逃げようと後ろを見た途端、模倣者は一目散にショウタ目掛け攻撃をしようとする。2体とも腕を振り上げ、力一杯ショウタの背中を切り裂こうとするが.....
「ふんっ.....ふんっ......」
口を閉じながら走り出したので、当然鼻息は荒くなる。なりふり構わず逃げ出したショウタだが、後ろからは足音はおろか先程までの乾いた声すらも消えていた。
後ろを振り返り確認する。
するとそこには巨大な紫色の肌、砂を泳ぎ、海豚とよく似た姿、そう砂海豚がショウタの前に立ちはだかっていた。
今から3体目はもう.....
ショウタの心の声が漏れそうになるが、その背中からこの状況に似つかわしくない声が聞こえる。
「どーどー.....大丈夫ですよ。人を轢いてしまったのは仕方ありません。いずれ砂が全てを飲み込んでくれます.....」
そう言って砂海豚の背中に跨る少年は手を合わせて、合掌する。その異様な光景に、口を抑えてた手を外しショウタはあんぐりと口を開ける。
「お前は一体.....」
「あー!まだ生きてた人が居た!良かった〜」
少年に出会ったショウタは、自分が救われたのか未だ判断できかねていた.....




