待ってたぜ
虫を殺した時に、罪悪感はない。
奴らは我々に害を為すから。
動物園やペットショップの動物が殺された時、
寂寥感に包まれる。
奴らは我々に害を為さないから?
では今回はどうだろう。
見た目は...
少なくともシルエットで見れば愛くるしいイルカを想像させるが、顔はうまく捉えられず、愛くるしいとは程遠い。
人がいるのにも関わらず、大胆な猛進は辞めず、少し止められたくらいで襲いかかってくる害悪性。
.....後半は俺のエゴか。
いや最初からそうだろう。虫が好きな人はどんな動物より殺されるのを惜しいと思うだろうし。
てかイルカっぽいの殺しちゃったけどいいのかな。テンションに任せて行動しすぎたな.....反省。
ショウタは冷静に辺りを見渡し軽口を言う。
戦闘時には『ハイ』になってしまうのは悪いところだと、自責する。
「なーんか楽しくなるんだよな。男の子だからか?」
木刀を剣道のように構え直す。冗談で白けたこの場を和ませようとしたが、目の前の砂海豚は微動だにしない。何かの準備をしているのか、はたまたショウタの冗談に絶句しているのか、砂海豚は機会をジッと伺っているようだ。
ショウタの辞書に達人の間合いなど無く、砂を蹴り上げ一気に距離を詰める。
「悪いがすぐに終わらせるっ!」
そう言い、ショウタは先程倒した砂海豚と同じように木刀を振り下ろす。今回は正面から攻撃するから、最初から本体にダメージを負わせることができる。
「ふんっっ!!」
振り下ろしたショウタの手には、既に木刀は無かった。
「何故か手応えが.....ってあれ!木刀が無い.....あっ!」
キョロキョロと見渡したショウタは細長い木の棒が横向きに浮いているのを発見する。
そう、いつの間にか手から離れていた木刀は、宙を漂い、一人でに動いていた。
「ちょ、ちょっと待て!それ貰い物だから無くさない...ぼへっ!」
無様に木刀を追いかけるショウタに、小さな砂の輪が襲う。それは先程、死に際に発明された圧縮された砂の循環。2匹目はそれを小さく、個々に作ると飛び道具として新たな発明をした。
そして、木刀も循環の影響にある。
このオンブラ砂漠は都市ルミナリエを中心として周りに造られてる構造だ。ドーナツ状と言ったら分かりやすいかもしれない。味のある美味しい部分をオンブラ砂漠とした時、空洞となっているその中心が都市ルミナリエを指す。
木刀は循環魔法によって、このドーナツの部分を循環させるよう支配された。
砂海豚は初めて、不敵な笑みを浮かべる。
自分の策がハマったことを、この相手を上回ったと。
「後で探しに行くしかねえな。.....真剣はトドメ用にとっておきたいし.....どうするか」
「キュ———?」
策が尽きてきた様を煽るように、砂海豚は喉を震わす。
仮にの話だが、ショウタが『魔具化』を使いこなせていれば木刀の主導権を握らせなかった。魔具化は武器を強化するだけで無く、込められた魔力以下の魔法は無力化することが出来る。
しかしショウタの魔具化は偶然の産物。扱う以前に、発動すらままならない状態にある。
「.....やっぱさっきの白いやつ纏わせなきゃ太刀打ちできねえよな」
掌を何度も握り直し力の入れ方を確認する。
力瘤を浮き出させるように奮起させるが、結果はただ踏ん張る男となっただけ。
相手が何もできないと分かるや否や、砂海豚はショウタのほうへ泳ぎ始める。近くには砂の輪を引き連れて、半円を描くように右に左にと近づけば、今度は縦に半円を描くように跳ねて潜りを織り交ぜる。
「なんだぁ...またそうやって泳ぎで翻弄するのかイルカ野郎.....!!」
ショウタが砂海豚の動きに惑わされてる隙に、謎の巨影が忍び寄る。
「.....ん?...なっ.....!」
後ろに迫っていたのは、魔法で雪だるま状に圧縮された砂塊。その大きさは、ショウタが見上げることで全容が見られたので、およそ直径3メートルほどか。
「.....ぐぅ!あっぶね.....!...うわっ!」
あと数センチのところで前にローリングして砂塊を躱せた。しかし目の前にはそれを予期していたのか、何周かその場で周り、遠心力をつけた砂海豚がショウタ目掛け突進を仕掛ける。
「ぐぅぅ.....!」
ショウタは両腕を盾のように構え、相手の突進を受け止めようとする。相手の遠心力を使った攻撃は鋭く、このままならまたもう一巡した砂塊まで押し戻されるだろう。しかし漏れ出る魔力は、ここでもショウタを守る。白いオーラが腕に象り簡易な盾を作る。
簡易な盾は砂海豚の突進に易々と壊され、魔力は再び栓を止めたように出なくなったが、突進の威力を下げられた。それにより体を左に捻ることで、なんとか砂塊とは別の方向に吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたショウタは砂漠に転がりうつ伏せに、文字の通り砂を噛む。すぐに顔を上げ敵から目を逸らさんと。すると何かが覗き込むような小さな影がショウタに被さる。
「あれ〜?ショウタさん。2匹は自分でやるんじゃないの?
「その憎たらしい言い方は顔を見なくても誰かわかるなぁカズト」
「いやいやよくやってると思うよ。初見の奴相手に」
「お前の方はどうなんだよ。まさか逃げ出したんじゃないだろうな?」
「誰に口聞いてんの?あれぐらい俺の魔法で一撃。てかショウタさん巻き込まないために遠くに行ったんだから感謝して欲しいくらいなんだけど」
「.....わーったよ。俺の負けだ。なんかヒントないのかヒント。あいつに武器取られて攻撃できないんだけど」
「んーヒントね。そうだなぁ.....やっぱ『よく見る』ことが、ヒントかな。特にあの砂の輪とかね」
「...あれにヒント.....」
ショウタは再度目を瞑り、集中させ、先ほどの感覚を取り戻す。体の至る所に芯を巡らせ、その力を眼力に全力を注ぐ。すると無数にある砂の輪の中心に、どれも同じような魔力の球体が朧げに見え始める。
「あれは一体.....」
「あの球体こそが奴の魔法の正体。あの球体を中心として、物や魔力を循環させ、砂竜巻の防護服や砂の輪、砂塊を生み出していたんだ」
「やけに詳しいなお前。実は知ってたんか此奴ら」
「嫌だなショウタさん。これは速攻で倒した強さとショウタさんを活用した観察眼のお陰ですよ」
「早く終わってたならもっと早く来れたんじゃないかな.....?!」
「.....じゃ、ヒントはあげたから。先ミウちゃんのとこ行っとくねー」
カズトはショウタを踏み台にしながら、魔法で飛んで行ってしまう。カズトなりの優しさがあり、大変助かるがやはりズレているところがあると立ち上がりながらショウタ確信する。
あいつは気付かなかったか、それとも気づいた上で俺に気付かせたかったのか知らんがもう一つ弱点を見つけたぞ。あいつは同時に魔法を扱えない。というより容量に限界があるんだろう。その証拠に、突進攻撃を仕掛けているときには砂の輪は発動させておらず、砂塊の大きな一撃を狙っていたからな。今の会話中に襲って来なかったのも、恐らく次の攻撃を組み立てる為だろう。
砂海豚は悟られたことに気づいたのか、慌てるように砂の輪を増殖させる。お互い自らの種を暴き合い、最早背水の陣と徐々に化してきている。
砂海豚は砂塊を崩し、手数勝負に切り替える。砂塊は崩されると砂が霧散し、砂海豚の周りはより砂が濃くなり景色が一色に。
だがショウタの眼には、景色など関係ない。
手を筒状にし、その中を覗き込む。魔力を込められた手には魔法が使えるようになっていた。
望遠魔法、かつてクレハーから授かった遠い場所を己が身一つで覗ける魔法。この力と、魔力を探知する力を合わせることにより、霧散した砂すらも無力化する。
覗いた先、幾つもの小さな魔力を見る。
——その中に、異質な揺らぎが一つ。
実際はなにを循環させているかは砂で不明だが、確実に攻撃を仕掛けようと構えている。
霧散した砂が、風に揺られとうとうショウタまで巻き込んだ。
お互い、勝負は一瞬だと理解する。
「キュ—————————!!!」
今までで1番の高音を出しながら、砂海豚は突撃を開始する。
風を抜ける音がビューッと聞こえる。
ショウタは構え、そして走り出す。
風を抜ける音がビューッと聞こえる。
ショウタが魔力探知を行うとそこら中に魔力の球体を発見するがそれを無視する。魔力球体は今までの行動からみて、遠心力を使いより素早く行動するための装置と推察。
ショウタは走り抜ける。しかし魔力球体は目の前だけでなく、地面に仕掛けられていることを地面の泥濘を感じた後に気づく。地面の砂を高速で循環させ、液状化。そのトラップが意味するのは、やはり重い一撃を止まってる敵に撃ち込むことか。
「やべっ!」
ショウタは急いで後ろを振り返り再びガードの体制をとる。後ろで見た幾つもの球体はこの為にあったのだと思い知らされる。
.....しかし、敵の姿は現れない。
ショウタの眼前に広がるのは、唯魔力を無数に広げただけの、嘘である。
風を抜ける音がビューッと聞こえる。
最初に言っただろ、砂海豚は『手数』勝負だろうと。ショウタの背中、いや元々は進行方向に居た砂海豚が50程の砂の輪を周りに作り、地面から突き上がるように出てくる。その突き上げはショウタの背中を攻撃し、そのまま空へと跳んでいく。砂海豚に飛行する能力はないが、事前に作っておいた縦に細長い循環に自らが乗ることによりまるで空を飛んでいるように。
「うわぁぁぁっっっ!!!」
ロケットのように突き上げられてくショウタ、その上から先程作られた大量の砂の輪が雪崩れ落ち、ショウタに傷を負わせる。なんとか顔は守るが、身体中切り傷や、偶にある握り拳ほどの砂塊による殴打。
「っっっゲホッ...」
そして循環は頂点に着き、地面への『不時着』を開始する。全身に傷を負ったショウタはボロボロになりながらも、なんとか耐えなく。しかし到着予定地には、砂海豚が仕掛けた最後の攻撃が待っている。魔力球体は何重にも重なっており、底から段々と円は鋭くなっている。形状はまさに砂のドリルのような武器が地面に作られていた。
さすがのショウタもあれが顔でも腹でも刺されば、負けを認めなければならない。ショウタは体を捩り、どうにかこの循環から脱出しようと試みる。
風を抜ける音がビューッと聞こえる。それはより近く。
しかし、砂海豚も順応し進化している。
敵がこれだけで死ぬわけないと。
敵の意表を突く一撃を叩き込まないと。
そして、2匹は落下していく。
この魔法の欠点は、循環を意識しすぎたせいで常に速さは一定にあること。そのお陰で幸いまだドリルまでは猶予がある.....とショウタは錯覚する。
風を抜ける音がビューッと聞こえる。それはもう目の前まで来ている。
ヒュンッッッ!!!
奪われた木刀が、この砂漠を一周してショウタに牙を向く。砂海豚は『これ』を狙っていた。絶対に避けられない状態で、絶対に避けられない速度で、絶対に受けられない攻撃を.....。
ショウタは猛スピードで迫る木刀に気づくと、目を見張らせ...声を漏らす。
「.....待ってたぜ」
自分を刺し殺すまいと迫った木刀にショウタは手を伸ばす。ここからは一瞬の出来事。
伸ばした手は見事、木刀を掴み、一瞬で『魔具化』を成功させる。魔具化した木刀は『循環』の影響から脱し、再びショウタの手に戻る。
ショウタは木刀の勢いを殺さず、その速度のまま体を拗らせ、砂海豚の頭に突き刺す。砂海豚が死んだことにより、循環の効果は切れる。ショウタは無事着地し砂海豚は勝ちを確信していたのか、口角が最大まで上がったまま、笑顔で『不時着』した。
———やはり、海豚には戦闘に関する思考が備わっていなかったのかもしれない。
勝ちを確信した時点で、獣は獣だった。




