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成りかけ



 あの日水族館で見たショーの景色はこんなものだったかもしれない。ただ違うことといえば、周りを泳いでる中心にいるのが俺で、そいつらに命を狙われていることだ。

 いや、もしかしたらあの時のシャチも命を狙っていた.....?


 「そんなことは今考えるな!目の前に集中しろよ!」


 頬をパチンと両手で叩きながら、自分を鼓舞する、残された人間がぽつり。

 ショウタは今、目の前の2体の得体の知れない生物と対峙している。砂の中を泳ぎ、一方が注視されてる時は、そのまた一方がいつ喉元を食い破らんと睨みを効かせる。


 「はぁ...はぁ...」


 熱が体を蝕み、恐怖が心を蝕む。熱気を吐き出しているのか、緊張による喘ぎなのか。両目を何度も何度も巡らせ、体制を何度も何度も変える。

 当たり前だが、1人の戦いは孤独だと脳に直接書き込まれるようだった。


 

 「キュ—————!!!」


 『それら』はショウタの汗の滴が落ちるのを見ていた。顎から滴り、地面の砂に触れた瞬間、一斉に飛び掛かる。2匹が合わさった途端、高速で舞う砂がぶつかり合い、金属音があたりに響いた。2匹の周りに纏う砂嵐はそれぞれ『循環(ながれ)』が違う為、挟まれたものは歯車の中に入れられたように引きちぎられてしまう。



 .....普通の人間なら。

 『彼』はもはや、普通ではない。

 ショウタの器には、『2億』という過分な金額が注ぎ込まれている。.....彼にしては、だが。


 「.....んなっ!ってなんで俺こんな飛んでんだ!やばいやばい...このままじゃ余計危ねえじゃねえか!」


 過分な金額を手にしてからまだ数日と経っていないショウタ。

 戦闘時の力の入れ方がまだわかっていない。

 今のショウタを表す最もふさわしい言葉は『あべこべ』、これに尽きるだろう。

 自らによって放り出された空中で、手足をばたつかせる。首は縦横無尽に動かされ、自分の立ち位置を確認しなければならなかった。


 ショウタの視界には先程までとは違い、空中からの景色が見える。砂、砂、砂.....どこを見渡しても砂だらけ。遠くで戦ってるカズトやちっちゃく座っているミウが見えるが、一点だけ鈍足ながらも何者かが歩く姿が見える。


 上からじゃあ、ただ歩いてるようにしか見えねえなぁ.....しかもこの高さじゃあ小さくてまるで姿が見えない。


 「.....まぁいい。空中(そら)からでも出来るこたぁある。そんじゃまずは攻略の第一歩、それは.....」


 ショウタは目を閉じ、集中する。今まで見えなかったもの、見ようとしなかった色、物、流れ、全てを見透かすように。眼に魔力を集中させ慎重にその目を開く。


 「.....弱点探しだよなぁ」


 目を開いた瞬間、ショウタはニヤリと頬を緩ませる。『億』の壁を越えて、ショウタは相手が纏う魔力、魔法の痕跡.....魔法を捉える眼を手に入れた。

 自らの手を観察してみれば、血管のように白い魔力が体を流れているのが見える。しかも、掌からはその白い魔力が漏れ出ている感覚...


 「.....なるほど。もしかしたらこれは使えるかも」


 そしてショウタが『それ』を観察.....すると違和感が生じる。

 

 「本体と砂嵐の間に空洞がある。てことは砂嵐は奴の魔法で纏ってるにすぎないってことだな」


 ショウタが空に手を翳すと、収納されていた木刀がいつの間にか手の中に。魔法により取り出された木刀を力一杯握り締め、頭の上まで振りかぶる。

 力強く握られた木刀は、一段と成長した証かミシミシと軋む音が微かに聞こえる。


 空中から間も無く、重力に負けショウタは落下する。その瞬間を狙って『それら』は再び宙に飛び出し、自分達の砂嵐同士をぶつけ、反発し、その反動を利用してショウタに横向きのまま突進を仕掛ける。


 「キュ——————!」


 先程と同じように『それ』は体を投げ出す。ただそれをショウタも黙ってみてるわけではない。


 「その魔力の『循環(ながれ)』、断ち切ってやるっ!」


 .....誤算だった。

 よもやこれがただの木刀であることを。それ故魔力の籠った無数の砂嵐を前に、ただの棒切れになることを。


 .....そして、もう一つ誤算は生まれている。

 ショウタが溢れ出る魔力を自然と武器に流し、それを強化する『魔具化(まぐか)』を習得しているという事実を。


 『魔具化』された木刀は強力だった。

 硬さは鉄以上になり、

 魔力を木刀に象らせ、その範囲(リーチ)をより長くする。


 この力を、更に強化されたショウタによって全力の一撃として(そら)から叩き込まれる。


 『それ』と木刀との衝突は先程の砂嵐同士の金属音より遥かな轟音を響かせる。

 

 

 ー



 砂海豚(デザートルフィン)———。

 彼奴等は元来、穏やかな気性。

 文字の如く砂を泳ぎ、人と共生することが出来る海豚。しかしオンブラ砂漠は、この地に生きる生物に魔力を分け与える。あまりにも濃度の高い魔力は地形の特性だけではなく、その地に住む生物にまで影響を及ぼす。


 高濃度魔力に中てられた砂海豚は凶暴性が生まれ、取ってつけたような魔法、『循環魔法』をオンブラ砂漠より賜ってしまった。『循環魔法』とは自分の周りの物や魔力など全てのものを循環させることが出来る。砂を体の周りに循環させるのも使い方の一つになる。



 循環魔法の弱点は本人の力量で全てが決まる。

 例え循環(ながれ)を止められたとしても、自分の力で再度同じ循環(ながれ)を始められれば効果は常に在る。それを始められればの話だが。


 「うぉぉぉぉ!!!」


 「キュッッッ!!!」


 「俺が上でお前が下!このまま一生攻撃(これ)続けててもいいんだぜぇっ!」


 空中でぶつかった1匹の砂海豚とショウタ。何秒か砂嵐と木刀のぶつかり合いが続き気付けば地面に落下する瞬間だった。


 ドオン!


 地面まで落ちても尚、ショウタは砂嵐を切らんと切先に力を込める。半馬乗り状態のような体制で、ショウタは砂海豚を砂嵐越しで地面に押し付ける

 勝負の割合は砂海豚4に対しショウタは6。

 ショウタの力がやや上回りその循環が終わろうとしていた。


 「これで終わりダァッ!!」


 砂海豚は膨大な魔力の恩恵により、海豚の思考力を遥かに超えた。横一列、メトロノームのような動きを実行出来たのもこのお陰だろう。


 そして止まりかけていた循環は思考の急加速によって進化を遂げていた。


 「なっ.....切れねえッ!」


 砂海豚は砂嵐の縦幅を限りなく縮ませ、より密に、より精度の高い循環を発明させた。


 .....しかし、それは命取りになることを海豚は思考できない。より細かく言うなら、戦闘に関する思考が備わっていなかったのかもしれない。


 「なるほど、一点集中型か.....」


 「でもよぉ...それってよぉ...」


 「自分の弱点モロだしなこと気づいてるかヨォ!」


 密度を優先し、縦幅を犠牲にする。防御の『質』を求めたその最適解は、同時に広範囲の『放棄』という致命的な綻びを生んだ。


 ショウタはキンキンと響かせる木刀を瞬時に収納。


 そしてかつてテツジから頂戴した真剣を、木刀と入れ替えるように手に持つ。


 鞘を抜き、砂海豚の首元に狙いを目掛け、


 一閃…..


 砂海豚の首と胴体は.....既に別れていた。


 ショウタは刀を鞘に納め、再び木刀と入れ替える。


 「刀は錆びちゃうからな。出すのは一瞬だけだ」


 残る砂海豚は1匹。

 しかし海豚は賢い生き物、仲間の死を一切見逃さず次の策を立てる。

 ———思考を、循環させる。


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