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険しき道、オンブラ砂漠にて



 呼吸をすれば、異物が混じる。

 動こうとすれば、足を掴まれる。

 目を開けば、暴風に踊らせ、気づけばまた瞼を閉じている。


 どれも全て、砂という環境の妨害によるもの。

 しかし、妨害は砂だけではない。


 照り返しの影響で、より砂漠での危険性を増す太陽。

 砂嵐に紛れ、姿を巧妙に隠しながら鋭い一撃を企む魔物(モンスター)

 この砂漠が意思を持っているのか、魔力濃度の濃さにより侵入した者の存在を模倣しその侵入者を撃退してしまう偶然の産物。


 ここはオンブラ砂漠。

 商業都市ルミナリエへと続く2つある道の1つ。

 ショウタら一行は、オンブラ砂漠を経由してルミナリエへと目指すことにした。


 



 「.....本当に合ってるのか?」


 「うん、間違いない。このまま真っ直ぐ。あとはもう少しペースが上がれば文句無いけど」


 「...ぷっ.....この砂の状態で上げられるか...!」


 「先頭を歩いてるのはショウタさんでしょ?足元悪くて疲れるから早く着きたいのに〜...」


 「.....お前がこっちの道からが良いって我儘言ったんだろ.....ぷっ...」


 ショウタは腕を目の前にしながら一歩ずつ、怪しむように歩いていた。時には喋る時の口や、急な横殴りの風で砂が口に入り込むこともある。そんな時は唾と共に異物を吐き出し、シュマグをまた鼻の位置まで掛ける。

 しかし、いくら砂が舞おうが、いくら足元が悪かろうが、カズトはショウタに軽口を叩く。


 「その理由はさっき言ったでしょ?ショウタさんとミウちゃんのサプライズのためだって。まだ『みんな』知らないんだから。」

 

 「.....ぶっ!...っぺ、っぺ.....結局誰なんだよ『みんな』って.....てかさっきから砂の影響無さすぎじゃね?!」


 そう言いながらショウタは振り返る。その視線の先では特に重装備もせず、母から貰ったターバンをオシャレに着けるカズトが居た。


 「お前っ、マリさんから貰ったターバンちゃんと着けろし...っていうかお前の周り全然砂来ないじゃん!」


 「あ、今更っすか。そうなんすよ、俺魔法で砂弾いちゃえるんで。俺の後ろに居た方が良いっすよ」


 へらへらと笑うカズトをショウタは睨む。そんなものがあるなら、最初から教えてくれても良かったんじゃ無いかと。

 そんな会話をしていると、カズトの後ろからひょっこりとミウが顔を出す。すっぽりとポンチョに覆われた手を出して、「ここは快適よ」と言うようにショウタへ手招きする。


 うーんと唸りながらもショウタもその『風バリア』の中に入れてもらった。カズトが危険だからと一度魔法を解除して、再度展開する。その一瞬で入った砂を快適組はため息を吐きながら払う。「さっきまでそれを全身に浴びてたんだけどな」、とショウタはポツリと呟くが砂嵐の影響か興味の無さか、誰にも気に止められることはなかった。

 

 中に入ると『風バリア』の構造に気づく。

 カズトが風の魔法で無作為に向かってくる風を押し返し砂を一つ残らず跳ね返していた。なるほど、だから俺にだけ異常に砂が向かってきたのか。


 「じゃあこれからは俺先頭で。さっきよりペース上げていきましょー」


 「悪かったな前に居て!俺だって催促してやるからな風除け野郎...!」


 「話も聞かずに先頭歩いてったのはあんたでしょ...」


 「ミウまでそっち側つくんだ!もういいよ俺の負けだよ!だってワクワクしたんだもん砂漠.....!」


 「あーあ、ミウちゃんがショウタさん泣かせたー。いけないんだ」


 「はぁ.....バカらしい.....」


 ミウが呆れた後も、2人はやいのやいのとふざけ合っている。普通ならこの閉鎖的な空間に気が狂っているように見えるが、圧倒的な強さをみた2人だと遊んでいるようにしか見えない。不思議だ。


 そんな2人のやり取りの中、声に紛れて

 .....ゴン、...ドゴンと少しずつ、何かを打ちつけるような轟音が近づいてくる。

 

 「ねぇ、なにか近づいてきてない...?」


 「あぁ、こうなんだろう。例えるなら遠くで花火大会がやってるのが分かるような音のような」


 「うわぁ、花火大会とかなつ!同クラの奴らと行ってたなぁ」


 .....次第に音は揺らぎを増す。

 『それ』は腹の底への響きを増す。

 『それ』は数を増し不安を煽る。


 「.....オナ.....え?なんだって?下ネタ?今下ネタ話してんの?」


 この音に不安を抱えてるのは、この場においてミウただ1人だけだった。


 「これ...大丈夫なのよね?...あ、あ、あれって.....?」


 音の正体を探るため、周りを見渡していたミウだったがついにその正体を掴む。

 

 『それ』は体に砂嵐を巻き付け、海豚のように砂の中を泳ぐ。砂嵐の大きさから推測するに、3メートルはあろう巨体か。

 今までの戦いを観てきたミウはこの程度の相手なら脅威には感じなかっただろう。...1匹なら。

 『それら』は横一列に侵攻している。その数、寡少かしょうに見積もっても15。まるで新品のメトロノームのように、砂に潜るタイミングすらも整えられて。

 『それら』は少なくとも、転移者に発見されることは無かったため、カズト含めこの場の誰もが、『それ』を知らない。

 

 「ショウタさん、ちゃんと準備運動しておいた方がいいよ。.....ほら歳でしょ?」


 「準備運動?.....これからするとこだ」


 こんな危機的状況にも関わらず2人はまだ饒舌な態度を続ける。

 ショウタ、カズトは『風バリア』から一歩外に出るとカズトがパチンと指を鳴らす。すると『風バリア』は型をミウ1人分まで縮小し、風の厚みをさらに増す。

 ミウは座り込み厚みを増した風に遮られながら「頑張ってね」と2人に声をかけた。


 「ちょーとまっててね」


 「ああ、行ってくる」


 二者二様の返事をし、ショウタに至ってはミウに向かって余裕のサムズアップをかましていた。





 砂嵐の中、男達はさらに砂嵐を見に纏った『それ』を退治するべく歩き進め、残り50m程まで近づく。

 

 「この辺かな.....『尖風(せんぷう)』」


 カズトは前に出てくると一言、それと同時に下から風を巻き上げるように、腕を下から上へ煽り上げた。


 「キィィィ———!!!」


 前方から向かってくる『それら』をカズトの魔法で押し上げてしまう。押し上げられた『それら』は超音波のような高音を響かせる。

 『尖風(せんぷう)』は風の魔法を槍のように尖らせ、対象を貫く魔法。しかし『それら』は砂漠で生きているからか、皮膚が硬く貫通までは至らなかった。

 

 『尖風(せんぷう)』に捉えられた数は8体。しかし全てに致命傷はなく、打ち上げられた反動でより深く砂に潜り、2人の周りを揺蕩う。


 「ショウタさん何体くらいいけそう?」


 「半分.....いや3.....保険で2でいかせてくれ」


 「心配性だなー。おっけい、じゃあ6は貰ってくよ」


 あれだけ張り切っていたショウタだが、いざ目の前にするとやはり足がすくむ。2体と言っただけ褒めてもらいたいくらいだ。


 「キィィィ———!!!」


 8体は一斉に襲いかかる。


 「.....『爆風(ばくふう)


 カズトは風の魔法の塊を、既に頭上に放っていた。

 敵の跳んだ高さ順6体がバラけるような力加減でその塊のエネルギーを一気に解放させる。


 「おー飛んでった、飛んでった。じゃあそれくらいはやっておいてよー」


 「あ、ちょっと待て!万が一負けたら?!.....そうだ、もしほんとのやつだったらお前に向かって矢放つから...」


 「.....」


 飛んでいった6体の処理にカズト自身も風の魔法で飛んで向かっていく。その最中、ショウタはカズトにもしもの助けを乞うが、愛か憎か、全て無視を決め向かってしまう。力を持つカズトの不条理さに、ショウタは振り回されるしかない。


 「...まぁいい。い、意外といけちゃうとこ見せちゃうからな」


 先程の『爆風(ばくふう)』に怯み、厳戒態勢の『それ』はその砂嵐の中から少し、顔を見せる。

 肌は紫に、顔の殆どは黒く塗りつぶされたように見えて、体との境界が曖昧になっていた。どうやら『それ』の輪郭を鮮明に覗くことは、まだ出来ないらしい。


 「さあ、どう戦ってやろうか」


 ショウタはこの世界で初めて、魔物(モンスター)と1人で対峙することになってしまった。


 

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