↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/53

第3話−3

◇ ◇ ◇(ラーナ目線)


 オクトは棚から薬箱を取り出して来て、ラーナに長椅子に両足を乗せて座るよう促した。

「患部以外は覆いますので」


一度、全体にブランケットをかけてくれて、スカートを膝まで上げた後、さらにふくらはぎから下にもブランケットをかけて隠してくれた。膝を何度か押した後、湿布を巻いて、また魔法をかけた。


先ほど、右手足にしてくれた処置と似たような指圧を施した後、やっぱりラーナの体はとても軽くなるような感覚があった。

「やはりかなり効いている気がします」


 その言葉を聞いて、彼はすぐそばの机の上のメモ帳に一生懸命、数字の様なものを書き出しながら、何度も頭を傾げていた。

「計算しても、どうしてこちら側がラーナさんに効いているのか……」(他の神官様たちって、治療の時に数字の計算なんてしてたかしら……?)


心の中で不思議に思ったけれど、これがこの修道院のやり方なのかもしれない。オクトが不安げな表情をしていたので、ラーナは膝をパタパタさせた。

「ジャーン!見てください!こんな子供みたいに動かすこともできます!」


彼女が笑顔を向けると、オクトのこわばっていた表情が溶けるようにほころんだ。

「ふふふ。今のジャーンって、なんですか?」

「本当にとても痛みがひいて、嬉しいんですよ!その音です!」

「ふふふ。よかった。ラーナさんの笑顔が一番嬉しいです」


「本当に、感謝しています!」

「いえ、こちらの方が本当にありがとうございます」

「どうしてオクト様が……」

「僕の手で、笑顔になってくださった方が初めてで……本当に嬉しいのです」

「そんな……ふふふ」


柔らかい表情の彼の眼差しが、とても美しくて、ラーナは心の底から優しい気持ちになっていた。左手足も同じように、施術をしてくれた。

あまりの嬉しさに、ラーナは興奮状態で、飛び跳ねたくなる気持ちでいっぱいだった。


「わーい!すごいわ!私って、こんなに元気だったんだ!!」

思わず両腕をブンブン振り回していると、オクトは笑いながら彼女の肩にそっと触れた。     

「ふふふ。よかったです。でも、湿布が取れやすいかもしれないので、あまり動かさないまま部屋へ戻りましょう。僕が運びますので」


そういうと、彼はまた両腕を差し出した。その、お姫様抱っこしましょう、というような仕草が、彼にとっては普通のことでも、ラーナにとってはすごく甘く、優しい仕草に見えて、思わず赤面してしまう。もちろん、焦って両手を振ってお断りした。


「本当に、とても動きやすいので全然、大丈夫です」

「本当ですか?」

「はい!見てください!立つのも軽いです!」

「では、今日はそのまま安静になさって、お休みください」

「はい」


そう言って、初めて会った日の夜は何事もなく終わった。


ラーナの心の中に安堵と共に、人生に一筋の光が見えた気がした。口を濯ぎ、顔を洗って髪をとかす全ての作業が驚くほど軽やかに感じて、久しぶりに優しい夜のシーツに包まれて、深く眠った。


この、当たり前のことが、何よりも嬉しくて、幸せで、心から神に感謝して祈るように眠った。


ーーだけどこの時の彼女はまだ知らなかった。


オクトが施した「奇跡」が、翌朝、戻ってきた神官たちから「ポンコツ」として全否定されてしまうことを——。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。