第3話−3
◇ ◇ ◇(ラーナ目線)
オクトは棚から薬箱を取り出して来て、ラーナに長椅子に両足を乗せて座るよう促した。
「患部以外は覆いますので」
一度、全体にブランケットをかけてくれて、スカートを膝まで上げた後、さらにふくらはぎから下にもブランケットをかけて隠してくれた。膝を何度か押した後、湿布を巻いて、また魔法をかけた。
先ほど、右手足にしてくれた処置と似たような指圧を施した後、やっぱりラーナの体はとても軽くなるような感覚があった。
「やはりかなり効いている気がします」
その言葉を聞いて、彼はすぐそばの机の上のメモ帳に一生懸命、数字の様なものを書き出しながら、何度も頭を傾げていた。
「計算しても、どうしてこちら側がラーナさんに効いているのか……」(他の神官様たちって、治療の時に数字の計算なんてしてたかしら……?)
心の中で不思議に思ったけれど、これがこの修道院のやり方なのかもしれない。オクトが不安げな表情をしていたので、ラーナは膝をパタパタさせた。
「ジャーン!見てください!こんな子供みたいに動かすこともできます!」
彼女が笑顔を向けると、オクトのこわばっていた表情が溶けるようにほころんだ。
「ふふふ。今のジャーンって、なんですか?」
「本当にとても痛みがひいて、嬉しいんですよ!その音です!」
「ふふふ。よかった。ラーナさんの笑顔が一番嬉しいです」
「本当に、感謝しています!」
「いえ、こちらの方が本当にありがとうございます」
「どうしてオクト様が……」
「僕の手で、笑顔になってくださった方が初めてで……本当に嬉しいのです」
「そんな……ふふふ」
柔らかい表情の彼の眼差しが、とても美しくて、ラーナは心の底から優しい気持ちになっていた。左手足も同じように、施術をしてくれた。
あまりの嬉しさに、ラーナは興奮状態で、飛び跳ねたくなる気持ちでいっぱいだった。
「わーい!すごいわ!私って、こんなに元気だったんだ!!」
思わず両腕をブンブン振り回していると、オクトは笑いながら彼女の肩にそっと触れた。
「ふふふ。よかったです。でも、湿布が取れやすいかもしれないので、あまり動かさないまま部屋へ戻りましょう。僕が運びますので」
そういうと、彼はまた両腕を差し出した。その、お姫様抱っこしましょう、というような仕草が、彼にとっては普通のことでも、ラーナにとってはすごく甘く、優しい仕草に見えて、思わず赤面してしまう。もちろん、焦って両手を振ってお断りした。
「本当に、とても動きやすいので全然、大丈夫です」
「本当ですか?」
「はい!見てください!立つのも軽いです!」
「では、今日はそのまま安静になさって、お休みください」
「はい」
そう言って、初めて会った日の夜は何事もなく終わった。
ラーナの心の中に安堵と共に、人生に一筋の光が見えた気がした。口を濯ぎ、顔を洗って髪をとかす全ての作業が驚くほど軽やかに感じて、久しぶりに優しい夜のシーツに包まれて、深く眠った。
この、当たり前のことが、何よりも嬉しくて、幸せで、心から神に感謝して祈るように眠った。
ーーだけどこの時の彼女はまだ知らなかった。
オクトが施した「奇跡」が、翌朝、戻ってきた神官たちから「ポンコツ」として全否定されてしまうことを——。




