第21話:聖なる者の気持ち (オクト目線)
「あ!ちょっと、飲み物が必要なので、一階にもらいにいって参りますね!」
「はい」
ソフィアがパンを食べるために、飲み物をもらいに宿の一階へ降りていった。
その間に、オクト、ラーナ、ミルコの三人は、部屋の中で急きょ会議を始めた。
「白い鳥教団については、風の噂で聞いたことがあります。親戚にあたるエモーユ様が、あちらで聖女の神託を受けたとか……」
ラーナが少し声を潜めて話し始めると、オクトも頷いた。
「僕も修道院にいた頃、話を聞いたことがあります。もともと慈善活動をしていた団体を聖女が買収し、白い鳥教団と名づけて、たくさんの人々を支援していると聞いていました。ただ、実際には美しい装飾品を高値で売っているだけだ、という噂もありましたね……。物を買うことで救済される、美しいものを所有することが救済につながる、という教えだそうです」
「美しいものを持ったり、身にまとったりすることは、それだけで幸せにつながることもある。だが、それを宗教や搾取と結びつけてしまうのはな……。俺も、確か山奥にあるあの団体の教会をちらっと見たことがある。ものすごく美しい場所で、そこで働いている人間も大勢いたよ。動物の保護は実際に行われていたようだが……」
「「「はあああ……」」」
三人はそれぞれが知っている情報を出し合ったものの、話せば話すほど状況の深刻さが浮かび上がってくる。結局、そろって深いため息をつくことになった。
「それにしても、親戚といっても、父上の従兄弟の子どもの奥さんなら、血のつながりはないんだろう?」
ミルコがラーナに尋ねると、オクトが彼の方を向いて答えた。
「血がつながっていなくても、かなり因縁の深い方のようですよ。彼女は、ラーナの実家を荒らしにきた親戚の一人かと思われます……」
オクトの推測に対して、ラーナは頷いた。
「ええ……。そうなのです。エモーユ様は、我がミネル家の貯金をかなり持っていかれました。慈善活動に使われるならよかったのですが、……ソフィア様のような方を閉じ込めてお金儲けしているなんて、やってはいけないコトだと思います。あの足枷も、見ているだけで苦しそうでした」
「本人は気づいていないようですが、僕には、彼女が持っている大きな聖なる力が、あの足枷によって封じ込められているように見えました」
オクトがそう説明すると、ミルコも真剣な表情で頷いた。
「あの足枷の魔術は、彼女が自分の意思でどこへも出ていけないように、精神的に縛りつける洗脳がされているように見えた。もしかしたら、もともとは貧しくて、ほかに行き場がなかったのかもしれないな……」
話を続けながら、オクトは自分の故郷の医学的な知見についても話しすことにした。
「それに、ソフィアさんの動きを見ていましたか?ずっと腕を掻いたり、親指や小指の爪を何度も押したり、擦ったりしていました」
「それは、どういうことだ?」
ミルコが尋ねると、オクトは少し考えるようにしてから答えた。
「精神的に追い込まれている患者によく見られる動きです」
「そんな……」
「僕の国の医学では、親指や小指の爪の付け根は、心臓や自律神経に関係する反射区だと考えられています。強いストレスを抱えていたり、精神的につらい状態に置かれていたりする人は、無意識のうちにそこを押したり、触ったりすることがあるんです」
オクトの説明に、ミルコは感心したように耳を傾けていた。その隣で、ラーナは何かを確信したように、ゆっくりと頷いた。
「本当は、あの彫刻を買っている方々の中にも、お金のことで苦しんでいる人がいるのなら、できる限り助けたいと思います。でも……私は、まずソフィア様のことを見過ごしてはいけない気がするのです」
「俺も同意するよ。無理をして喜んだり、嬉しそうに振る舞ったりしているように見えたが、あの人の心は泣いているようにしか思えなかった……」
ミルコはラーナの言葉に真っ直ぐな目で頷いた。
しかし、それを聞いていたオクトは、またしても頭が痛くなってきた。そして、悩ましげに大きな咳払いをした。
「ゴホン!!あのう……お二人ともですね。目の前で困っている人を助けたくなる気持ちは、よくわかります。人として、とても立派ですし、博愛主義的にも、まっとうな考え方だとは思いますよ。でもですね! それよりも今は、ラーナさんの身体の大変な病気と、その正体をどうにかすることが、僕たちにとって先決なんです!!!わかっていますか?」




