第20話ー4
ラーナは急かすことなく、穏やかな表情で次の言葉を待っていると、ソフィアはため息をついた。
「本当は……大きな声で、『私が作ったんだよー!!』って、叫びたいです」
その言葉は、ソフィアの心の奥底からこぼれ落ちた、本当の願いだった。
オクトもミルコも、そしてラーナも、胸の奥から何かが突き上げてくるような思いに駆られた。ソフィアは自分で口にした言葉に、少し照れたように笑っていたが、その瞳は心なしか潤んでいるように見えた。
「私、こんなものが作れるんだよ!面白いでしょう?って、みんなに見てもらいたいんです。彫っているところを実際に見ていただいたら、とても楽しいと思うんですよ?でも……」
「でも?」
「私が作ったとわかると、売れなくなるんですって。聖女様が、美しくて、ゴージャスで、見目麗しい方だからこそ、売れるんだそうです。あの教団の思想のおかげで売れているらしいので……」
「そんな……」
ラーナは思わず言葉を詰まらせた。
「聖女様が『こうしなさい』って、何となくお話しされたことを、私は形にしているだけだそうです……」
その言葉に、オクトとミルコもすぐに反応した。
「でも、実際に作っているのはあなたですよね? 聖女様が彫り師であるあなたと一緒に祈りを込めたとか、二人で思いを形にしたとか、正直に説明しても、十分に売れると思いますよ?」
「そうですよ! あなたが彫っていることを隠すなんて、どう考えてもおかしいでしょう?二人で連名にできるはずなのに、本当は代作させて、わざわざ聖女が作ったものだと嘘をつくなんて、普通は犯罪ですよ!」
二人の言葉には、自然と力がこもっていた。
「そう……なのですか?」
「ええ。多くの国でも、この国の法律でも禁じられています。別の人間に作らせておきながら、自分が作ったと偽って勝手に売るなんて、許されることではありません」
「私は、ただ正直に生きたいだけなんです。それに、太陽の下で、思う存分彫ってみたいんですけど……」
「あなたのその願いは、何も間違っていませんよ」
ラーナは穏やかに頷いた。
「それに、この女神像の価格のことは、どこまでご存じなのでしょうか……?」
「お金のことは、あまりよくわからないんです。でも、聖女様は売り方がお上手だそうです。私も毎日、たくさん食べられるくらいにはいただいていますよ!あっ、そうだ!今、食べてもいいですか?」
ソフィアは、満面の笑みでそう言うと、嬉しそうに立ち上がり、先ほど受け取ったパンを取りに行こうとした。その無邪気な言葉を聞いた三人は、そろって頭を抱え、深く、大きなため息をついた。
ソフィアが机から離れた隙に、オクトとミルコ、ラーナはそれぞれ手で口元を覆い、声を潜めて話し始めた。
(今日、十体を持っていったんだぞ。あれが一体一〇〇〇クラウンなら……少なくとも、二十人ほどが一年間豪遊できるくらいの金額になるじゃないか!!!)
(彼女を閉じ込めて、こっそり働かせて、こんな商売を考えつくなんて……なんて恐ろしい教団だ!! 彼女には一〇〇クラウンすら支払われていないんじゃないか?本気で犯罪だろう!!)
(足枷もですが、精神的にも肉体的にも、すっかり囲い込まれてしまっているように感じます。ああ……やっぱり、あのエモーユ様なら、あり得ない話ではありませんわ)
ラーナの言葉に、オクトとミルコは驚いて彼女を振り返った。
(!!!??)
(なんだ!? あんた、あの女を知っているのか?)
(ええ……。父の従兄弟のお子様が嫁がれた先の家に、遠い親戚としてつながりがある方なのです……)
(遠い親戚って、あの!!!?)
オクトは思わず、ごくりと唾を飲み込んだ。
ラーナもまた、頭を抱えるようにして、静かに頷いていた。




