第20話ー3 (ラーナ目線)
部屋へ戻ってきたソフィアは、とても嬉しそうな表情だった。
「お待たせ! 隠れていてくれてありがとう!!」
オクトとラーナ、そしてミルコの三人の胸には、話したいことが山ほど溜まっていた。
あまりにも腹立たしいことばかりで、何から尋ねればいいのかさえわからなかったけれど、まずは落ち着いて、さっきまで眠っていたラーナが自己紹介することにした。
「私は、治療を受けるために首都の大神殿へ向かっている、ラーナ・ミネルと申します。こちらのオクト神官様の患者です」
「初めまして。あら、女性だったのですね!!ああ!そうか、手足に痛みがあるから、そのような格好をされているのですね。なるほど!」
「どうして、それを……?」
ラーナが驚いて尋ねると、ソフィアは何でもないことのように答えた。
「スカートで馬に長距離を乗るのは大変ですから。それに、あそこまでひどい痛みがあるのなら、当然でしょう?」
まるでラーナの事情をすべて見てきたかのように、ソフィアは淡々と説明した。
(どうしてすぐに、こちらのことが把握できるんだろう?痛みのことまで?もしかして鋭い霊感をお持ちなのかしら……)
「あなたは一体……?」
ラーナが不思議そうに尋ねると、ソフィアは手に持っていた作りかけの彫刻をそっと見せて、彼女に手渡した。それから腰を低くして、スカートを両手に持ち上げて挨拶した。
「ソフィア・ローランと申します。先ほど、お連れのお二人にはお話ししましたが、私は聖女様の彫り師として、白い鳥教団に所属しています」
その言葉を聞いた途端、女神像を持ったラーナの顔から血の気が引いた。すぐに異変に気づいたオクトは、彼女の肩を支え、ベッドへ連れていこうと身体の向きを変えた。
しかし、ラーナはまだソフィアの方を見つめたまま、動こうとしなかった。
「ごめんなさい……。今のお話を聞いてしまって、ちょっと驚いて……」
「……どうかなさいましたか?」
ラーナが一瞬ためらうような表情を見ても、ソフィアは本当に理由がわからないというように、にっこりと微笑んで首を傾げた。その様子を見て、オクトとミルコはすぐに察していた。
オクトは本当に小さな声でラーナの耳元で囁いた。
「魔術の足枷に気づいたんですね……?そして、今までの一連の出来事を見て、もう、彼女のことを心配し始めているんですね?」
ラーナはそれに頷くと、部屋の中央に置かれたテーブルのそばへ移動し、腰を下ろして女神像をじっくりと眺め始めた。
そして、ソフィアにも席を勧めると、ミルコとオクトも四人で並んで円卓を囲んだ。
ラーナはおもむろに、テーブルの上に女神像を置くと、丁寧に鑑賞をはじめた。
「ソフィア様、とても素晴らしい技術をお持ちですね。まだ途中の木彫りでさえ、こんなにも美しく、滑らかで、まるで光を放っているように見えます……!本当に素敵ですわ」
ラーナが心から褒めると、ソフィアはさらに顔の部分を指差してみせた。
「これとか、自分でもうまくできたと思うのです」
「すごいです!こんなに小さな女神像なのに、目が潤んでいるように見えますし、お洋服のドレープや、腕まで、今にも動き出しそうですわ!!」
「幸せな魔法の力を、たくさん込めて作っているんです」
「実は、先ほどからソフィア様には、とても神聖で偉大な霊感を感じておりました。あなたの、その前向きなエネルギーが、そのまま作品にも現れているのではないですか?本当に美しくて、素晴らしいです!!」
「私の木彫りをこんなにも熱心に見てくださる方がいるなんて……」
ソフィアは、顔を真っ赤にして嬉しそうに微笑んだ。
「きっと彫刻をお持ちの多くの方は、みんな思っているはずでずわ!」
「ありがとうございます。そんなことまで言ってくださるなんて……感動です!」
ラーナはそんな彼女の表情を見つめてから、少しだけ声の調子を変えた。
「ソフィア様が作られた素晴らしいものなのに、どうしてエモーユ様が作ったものとして売られているのでしょう?ソフィア様は今の働き方に、満足されていますか?」
「……!!!?」
ラーナは、丁寧に誉めていた時と同じトーンで、鋭く核心を突く質問を投げかけた。ミルコとオクトも、同じ思いだった。ソフィアは目を丸くし、そのまま言葉を失ってしまっていた。
「満足……ですか……。大好きな木彫りができて、それでずっと生活していけることは、本当にありがたいと思っています……。ただ……」
「ただ?」




