第19話ー3
改めて周囲を見渡してみると、彼女がいる一角には大きな布が敷かれ、その上には木屑が山のように積もっていた。彫刻刀や鉋、削り石にやすり、さらにはニスのようなものまで、トランクに似た箱の中にきちんと並べられている。
どうやら、ここは簡易的に、彼女の作業場になっていたらしい。
「こんな床に座り込んで彫っているのか……? あなたが?」
オクトが尋ねると、ソフィアは得意げに笑った。
「ほら、これを見てくれ。まだ途中のものだろう? こうやって削っていくんだ」
荒っぽい言葉遣いとは裏腹に、彼女は慣れた様子で床に腰を下ろした。そして、細く美しい指先で彫刻刀を扱い始める。迷いのない手つきで木を削り、少しずつ形を整えていくその動きは、まるで長年の修練を積んだ舞い手のようだった。
「なんて美しいんだ……!」
ミルコは思わず身を乗り出し、目を輝かせた。
「本当に素晴らしい!まるで木の中から、本物の女神が生まれてくるようだ!生命力に満ちていて、今にもキラキラと光を放ち始めそうじゃないか!これは魔法なのか?」
「魔術ではない」
ソフィアはそう答えながらも、褒められたことが嬉しかったのか、頬をほんのり赤く染めて作業を続けた。
(……すごい。まるで強い霊力のような、心身を浄化する力を感じる。なんという輝きだ……!)
オクトもまた、彼女の技に心を奪われていた。木を削っているだけのはずなのに、そこから生み出されるものには、何か特別な力が宿っているように感じられる。
「確かに……なんて美しく、驚くべき技術なんだ……!」
「ソフィアさん、あなたはとんでもない才能をお持ちですね!」
ミルコとオクトは興奮を隠しきれない様子で、腕を組みながら彫刻を覗き込んだ。
「聖女が彫っていると聞いていたが、あなたこそ本当に素晴らしい聖人だ!ただの木に、こんなにも美しく繊細な生命を宿らせるなんて……!」
ミルコは彼女の顔を覗き込んで、目を輝かせて頷いていた。
「ふふふ。ありがとう。私は白い鳥教団と一緒に旅をしながら、聖女様の指示で掘っているけれど、一応、私が形を決めて彫ったんだ!もちろん、全て内緒にしておいてほしいのだけど……」
ソフィアは足枷のことなどまるで気にする様子もなく、ウインクをして軽やかに笑った。その振る舞いは、まるで何事もないかのように優雅で、堂々としていた。
(……彼女の足枷は、誰が何のために?)
オクトが困惑していると、ミルコも不思議そうな顔でこちらを見て、目配せをしてきた。
(おかしい……。この異様な状況は、一体何なんだ?)
二人がそろって立ち尽くしていると、廊下の向こうから小さな足音が聞こえてきた。続いて、明るい女性たちの賑やかな話し声が、少しずつこちらへ近づいてくる。
その音を聞いた途端、ソフィアの表情が一変した。
「まずいっ! 教団の人間たちが来た!」
彼女は慌てて立ち上がり、部屋の四隅に置かれた棚を指さした。
「教団の外の人間に私のことがばれたら、大目玉を食らう!お前たち、そこの棚か、その下に隠れてくれ!」
「えええっ?!」
あまりに唐突な指示に、オクトとミルコはそろって声を上げた。
「この人も連れて、一緒に隠してくれ!」
ソフィアはそう言って、ベッドで眠るラーナの方を指さした。
「そんなーっ!!」




