第19話:謎に包まれた女性(オクト目線)
夜の暗がりに包まれた宿の部屋で、オクトとミルコは絶句したまま立ち尽くしていた。
そんな二人の様子など気にも留めず、ボサボサの髪に薄汚れた服を身につけた女性は、暗がりの中で立ち上がり、スカートについた埃を手で払い始めた。
「よっこらしょ」
——ガラガラ、バラバラバラッ……!!!
女性が腰を上げた途端、彼女のスカートから木彫りの置物や木片が、次々と床へ落ちていった。舞い上がった木屑や細かな粉が、部屋の中にふわりと広がる。
「わああ!ゴホゴホゴホ!!!」
「汚いな!!」
ミルコが腕で顔を覆い、木屑を避けようとしている隣で、オクトも慌てて腕を振り回して、ラーナの身体に粉がかからないように追いはらっていた。
「すみません……。それより、私……ものすごく濃厚でお耽美な少年愛を見せていただいちゃって……。こんなに覗かせていただいてよかったのかなって……うふふふ!!」
眉を寄せ、口元に手を当ててニヤニヤと笑う女性に、ミルコもすかさず合いの手を入れた。
「だよな!俺たち、とんでもなく色気のある場面を覗かせてもらっちゃって……」
ゆでダコのように顔を真っ赤にしたオクトは、両拳を振り上げて、ミルコの言葉を遮って叫んだ。
「見世物じゃないから!!」
立っていた女性は、今度は男装したままの姿で眠っているラーナとオクトを交互に眺めながら、さらに踏み込んだ質問を投げかけてきた。
「……この眠っている男性と、あなたは恋人なんですか?」
「違います!!」
「ええーっ!違うのに、あんなことやそんなことを……!?そんなことって……」
驚愕した女性が反り返っている横に、ミルコはサッと並んだ。
「恋人じゃないところが逆に、エロくない?やばくない?恋人の営みよりむしろイヤらしくない?」
ミルコがすかさず横から口を挟むと、女性は「きゃー!!」と声を上げ、興奮した様子で何度も頷いた。
「やだ!やばすぎます!!ドキドキします!!!一体どういう関係なんですか……?」
いつの間にかミルコと女性はすっかり意気投合し、肩を寄せ合って両手で口元を覆いながら、ひそひそと盛り上がっていた。オクトが、頭を抱えて深々と溜息をついていると——ふと、おどけていた女性の表情がスッと真剣なものへと変わった。
「ああ……でも、この人……ちょっとおかしな様子でしたよね?低い男の人の声になったり、女の人の声になったりして……黒炎まで出して……」
「えっ?!」
「とても悪質な霊の気配を感じたので……。まあ、その、密着するようなエロいことをなさるにしても、一応、気をつけておいた方がいいかと……」
「いや、だから、エロいことって……」
寒気もして、声も聞こえたはずなのに、黒炎が見えなかったと言って、まだ精神的な病気だと考えているミルコとは違い、女性はラーナの身体の呪詛や邪悪な気配を、まるで見てきたかのように言い当てていた。
オクトは、その言葉に心底驚いていた。
(どう見ても、神職に関係する人には思えないのに……。どうして、そこまで分かるんだ?)
オクトが驚きのあまり言葉を失っている横で、ミルコは何事もなかったかのように、淡々と説明を始めた。
「今どき、悪質な霊だなんて……まさか!この人は精神の病気なんです。心配しなくても大丈夫ですよ。私たちは今、首都の専門病院へ向かっている最中なのです」
まだ何も断定できていないというのに、勝手に話をまとめてしまうミルコを、オクトは横目で睨みつけた。するとミルコは、まるで『内緒だ』とでも言うように、こっそりウインクを返してきた。
しかし、女性はミルコの説明など気に留める様子もなく、心配そうな顔で、ベッドに横たわるラーナをじっと見つめていた。
「この方は精神病ではないでしょう?真っ黒な炎に包まれていて、手足には強い冷気と呪いがかかっています。相当な痛みを感じているはずですよ。一刻も早く除霊しないと、大変なことになると思います」
神職に就いている者や、神秘的な魔術に精通している者でなければわからないはずのその存在を、女性はまるで当たり前のことのように口にしていた。




